第2話
いつものように、いつもの自転車にまたがる。
1年くらい前に大学の近くで買った黄色と黒のツートンカラーの中古自転車が、今の僕の狭い世界における最も有効な移動手段だ。
実際は電車に乗る方が時間も体力も有効に使えるのかもしれない。
だけど、自分の進みたい道を自分の足で都合よく決めることができるこの仕組みが好きだった。
人は大学生のおよそ4年間を「人生の夏休み」と称し、多くのモラトリアムの隙間に挟まることを生涯の美徳とする。
そういう「人はかくあるべきだ」などという先入観を何より嫌っていた当時の僕だったが、ちょうど30才になった頃、何かと理由をつけ普通を拒むその行為こそが自分がモラトリアムの沼地にいた何よりの証だと気付くことになり、青臭さと恥ずかしさでいっぱいになる。
だけど、今の僕にはまだその気持ちはわからない。
どころか、そういう大人にだけはなりたくないとさえ思っている。
そしてヘドロをかき分け、ありもしない「自由」というものを貪るように追い求める傾向にある。まさに、自転車を自由の象徴のように捉えていた。
単純に割安だと思ったことと、夜道でも目立つ色の方が安全だと思ったことから、何となく購入した自転車。
当時のことはよく覚えていないが、夜道の安全にまで気が配れていた当時の僕は、きっと人生に余裕があったのだろう。
浮かれたように、この自由の女神にチャーリーという名をあてがっていたくらいだ。
野球好きの僕は贔屓球団の選手にちなんだ名前をそれぞれのものにつける癖があった。なんというか、愛着が湧く気がするのだ。
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