第5話 失った左目と抉った眼とノコギリと

 6月1日。奴らが俺に一つの傷をナイフで付けた。頬から顎にかけて滴る赤い液体。それが血と分かるとジンジンと傷口が痛んだ。

 6月2日。今度は腕に2本切り傷を入れられた。血が傷口から流れて、やっぱり痛い。

 6月3日。今度は目の中にナイフを突っ込まれた。痛くて痛くて目を手で覆う事しか出来なかった。

 6月4日。母が学校へ電話を入れた。しかし学校側は知らんぷりをした。僕の左目はもう見えなくなっていた。

 6月5日。6日7日...........................夏休みに入る前の30日。

 体のあちこちに痣がある。でも誰も気にはしなかった。先生も他の生徒も校長すらも。嫌いだ全部が嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ死ねばいいのに死ねばいいのに死ねば......いいのに。

 8月1日、復讐を開始する。以後自分の事を「俺」と呼ぶように。

                ※

 やつの逮捕へ向けた捜査班が作られた。しかし俺は今更やつを捕まえることが出来るのか分からないでいた。何故なら.........。

「ツ!班長!ダメです。またハッキングをブロックされました」

 やつは自身のアカウントに大量のバグを発生させるウイルスを入れていて、そのアカウントに侵入しようものならすぐにpcが壊れる。時間勝負と行こうにもパスワードが複雑すぎてどうしても時間がかかる。ハッキングをしようと試みてから早10時間、見ると部屋の片隅には大量のノートpcが、そしてそれはもう使えないものだった。

「またか、これで何台目だ?」

「ちょうど50台です。ウイルスを除去しようにも時間がかかるのでこれは手強いですねぇ」

 子供だと思って油断しきっているのが仇となってしまった。そして問題がもう一つ。

「1台目の中にある重要なデータなど様々なデーターがどこかへ移された後、これでもかというほどウイルスが大量にまき散らされていて復元にはおそらく3か月はかかるかと.....」

 重要なデータが奪われてしまったこと。万一それが悪用されれば間違いなくこの国は終わるだろう。

 そして俺はあの動画を見てからときどきあの光景を思い出して、吐き気が収まらないでいた。

 自分は横たわり、他のやつには絶対にあの動画だけは見るなと伝えている。それでも見る馬鹿がいてそいつらは泡を吹いて気絶し、同じく横たわっている。

 そりゃそうだよな、子供が両腕をのこぎりで切断する動画なんて普通子供が出来るはず無いと思っているんだから、よくよく考えてみれば誰にだってできるんだよ。こんな極悪非道なことを、何食わぬ顔で毎日出勤しているサラリーマンだって、家で家事を担当する専業主婦だって、俺だって.....。

 そこで考えるのをやめた。これ以上考えてもなにも変わらないからだ。

 .....やつは一体何者なのだろうか?徐々に狂い始めていることに俺はまだ気づいていなかった。

                 ※

 8月22日。担任の先生にある果実を食わせた。その後その腐った果実を見せてこう言った。

「これをみると先生みたいですね」

 先生は訳が分らないといった顔をしていた。でも先生は気づいてしまった。

 先生が口にした果実の裏は■■■いることに。そして.....その中には■■■が■■ことに。

 そのあとの先生は青ざめた顔をして急いでトイレへ向かっていた。

 でも.....遅い。先生が死ぬまで.......あと5分。

 その間に先生はトイレではなく病院に行って■■■■■■■を■■■■■■■■■■■。

 先生は必死に抵抗したけど五分後トイレへ見に行くとそこには大量の■■■の■■に■を■■■■■■■先生がいた。

 あとは......一人だけだ。

                 ※

 それから、色んな殺され方をする動画が毎日一つずつ投稿される。目を潰された少女や足をへし折られたサッカー部の少年。しかしいずれも犯人までの道筋を掴めないでいた。そして9月8日。20人目の人が......。

「はーい皆さん今日も動画を見ていただきありがとうございます。今回は僕の虐めに関わった主犯の一人を殺したいと思います。それでですねこの人は岸田 和樹(きしだ かずき)っていう子でこの人は僕をナイフで切り付けてきた人です」

 初めてフルネームを言った。その情報からさくっとどこに通っているのかを探す。

「い.....いやだ......たすけて........ぼくは何も悪くない。お前じゃないか....お前が僕をイラつかせるから.....したんだ。.....僕は悪くない!!」

「へえ~そうなんだ......でもよかったね君で最後なんだよ」

「〝動画を撮って世間へ広めるのは″君で最後だよ」

 その発言に違和感を覚える。一見、これで最後なのだろうと思うが俺からしたら......それは......〝撮影をやめて他の人を殺すような″そんな言い方だった。

「え?....それはどういう.....?」

「みんな、死んだよ....僕が殺した」

「え?田中も?」

「うん」

「桜田も?」

「うん」

「浜田も?」

「うん」

「山口も?」

「うん」

「中村、松田、松井、山田、村田、葉山、後藤、田村、藤堂、藤原、大ちゃんや、絵美、葛城、坂東(ばんどう)、そして.....麻衣も?」

「うん。みんな殺したよ。麻衣ちゃんはたしか君の彼女だったよね?見せてあげたかったなぁ、最後まで君の名前を呼んでさぁ?彼女の目を抉ったときの悲鳴はもう最高だったね」

「あ.........あぁ.........そんな......麻衣.....」

 岸田は大粒の涙を流している。けれど俺はそれを見ても可哀そうにとは思わなかった。自分でもなぜなのかは分からない。それは慣れなのかそれとも........。

「大丈夫だよ。君には麻衣ちゃんの血がたっぷり沁み込んだこのナイフで殺してあげるからね?」

「あ.......あぁ......いやだ...いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだぁあああああああああああああああああああああ!!」

「じゃあ聞くけど、なんで僕がやめてと言っても聞かなかったの?」

「それは......うざかったからだよ。おまえがいるだけでストレスが溜まるんだよ。だからやめなかった。たったそれだけだけどなにか悪いのか?」

 もう....どっちが善でどっちが悪なのか.....自分には分からない。

「そう.....なら僕もやめないでいいよね?」

「へ?」

 瞬間、岸田の左目が抉られる。

「ぎやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだい」

「ねえ、なんで痛がるの?君が僕にしたことをそのまま返してるだけじゃないか?〝こんなので痛いはずないやん″」

 岸田の胸倉を掴んでそういう。岸田はずっと痛いしか言っていない。

「えっと......次は右腕ね?」

 そういって痛がる岸田の右腕に何本もの切り傷を付ける。

「いだあぁああああああああああああああああい!!....やめて.....」

 なおもやつはナイフをふるい続ける。

「や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛で や゛め゛でぇえええええええええええええええええええええええ!!」

 なおもやつは続ける。そして彼は散々切り付けられ、心臓を抉られて死んだ。

「みなさん。これで最後です。今まで見てくれてありがとうございました。このチャンネルは残しておきますのでいつでもこの動画を見に来てください」

 見た後......静かに捜査班へこの動画を送った。

                ※

 始業式、俺以外のみんなは死んだ。これで復讐は終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る