第4話 その腕は何に使う?
あの琵琶湖の死体の写真とこの動画を持って、俺はある人に見せた。
彼の顔が次第に青ざめてゆく、そして彼は上層部へこの写真と動画を持って行った。
彼はまだ若かった。特にこれといった重大な事件に関与したことはなく、彼なりに頑張っているのに評価されない。
そんな彼を放っておけず、私の手柄を彼のものとする条件として、私を捜査の班に入れてもらうように言ってくれと頼んだ。
そして、彼が行って間もなくした頃だった。次の動画が送られてきたのは。
俺はそれを慣れた手つきで見ていく。コメント欄を見ると賛否両論の嵐で見れたものではなかった。しかし、そこで初めて気が付いたことがある。
コメント欄にはトップにピン刺しという機能があり、開くと必ずそのコメントが一番上にある機能なのだが......そこには動画を投稿している本人からのコメントがあった。
〝誰も理解してくれないなんて可笑しいと思わない?″
なんだこのコメントは.....?不思議と共感を覚えてしまうフレーズに気持ちが悪くなってしまった。
案の定、返信やリプライには罵詈雑言の嵐、たまに関係ないことを書く、荒らしもいる程。その光景はどこかで見たような気がした。
物覚えの悪い頭をさすって、記憶を辿る。
——あれは、確か俺がまだ警察官としての経験が浅かった頃、ある衝撃的な事件が起きた。
当時の俺はまだ新入りでそれこそ重要な事件や大物の犯罪者を誰一人として捕まえる機会を貰えなかった。そんなある日だ。
その時はちょうど選挙の真っ最中、屋外での演説は日常茶飯事。
当然俺もその一人の護衛を頼まれていた。
その人は内閣総理大臣をも務めていたベテランの人で、それこそ演説なんてしなくても当選は確定とまで言われていた。そんな人が......撃たれたんだ。
背後を警戒する人なんて誰もいなかった。そいつは捕まる前にこう言ったんだ。
「捕まえる前に少しだけ話をさせてくれ!!すぐに終わらせる」
彼の要求は飲まれなかった。そんなことはお構いなしと我先に彼を捕えようとする。その姿はまるで飢えた獣のようだった。
俺は足がすくんで、動けなかった。かろうじて手は動いたため、119番通報をして、膝が崩れ落ち、その場でただ茫然と彼が捕らえられるのを見るだけだった。
その後、自分が担当することになった彼の事情徴収の際にこんなことを言っていた。
「俺はただ、あいつが裏でやってることを世間にばらしたかったんだ。ただ......それだけなのに....なんで......ツ.......なんで分かってくれないんだよ.......ツ!」
事情を聴くうちに彼とあの人との関りを知り、そして話してくれた。
少しだけの借金をあの人からしただけなのに巨額の利子を付けられ、毎月返済で食べるものにも困るほど生活が貧窮しているという事実に。
そして彼は泣きながら言う。
「みんな本当は心のどこかで分かってるはずなんだよ.......ツ......なのに.....〝誰も理解してくれない″」
確かに、近年では政治家たちの汚職問題がメディアで多く報道されていてそれが問題となっている。
しかし、その時の俺は泣いている彼に向けて言えるのはこれしかなかった。
「それは.......君のやることじゃないからだよ」
「ツ!だったら....だったら俺はあいつのしてきたことを素直に受け入れないといけないのかよ!」
「そうじゃないんだ。他にもやり方があったのになんでこれを選んでしまったのかが不思議だったんだよ」
「.....金が無いからだよ。親にこんな話は出来ないんだ。親はただでさえ貧しいのに頑張って俺を大学まで行かせてくれたんだ。だから.....恩返しをしたかったんだ」
それからしばらくいろいろなことを聞き、彼を帰して、今日、話したことや動機などを上層部にしっかり嘘偽りなく報告した。
しかし、翌日の報道では彼が言ったことの肝心な部分は伝えずに、逆に彼を悪くするだけのような偏った報道があった。
あの人は重傷を負ったものの命に別状はなく、今もどこかで選挙活動をしている。
彼は....あの後、釈放されてから数日後に自身が住んでいたアパートの一室で首を吊っているのを確認し、その場で死亡が確認された。
身元引受人は誰もいなかった。実の親さえも彼の骨を受け取ろうとはしなかった。
そして後に知ったことだが、あの報道以来、彼に対する世論が悪いほうへ傾き、どんどん彼を悪くするような報道が相次いだ。
——記憶を探り終え、一瞬だけども吐き気が襲った。
なぜならその光景はあの時と似ているからだった。
具体的にどこが似ているのかを言うと、集団で一人の人間を叩く姿。その光景が鮮明にイメージできるほど、その光景はいじめにそっくりだったからだ。
しかし、この光景にいる人たちを逮捕できる法律が無い、仕事の都合上、そして法という〝理不尽な物″で捕まえたくてもできない。
やっていることは犯罪者と変わらないのに、どうしてそこまで赤の他人を非難することが出来るのだろうか?.......いや、そうじゃない。〝どうしてこんな世の中になってしまったのだろうか?″というもはやその答えはみんな分かってるはずの疑問に辿り着いてしまった。
きっとやつも.......とそこで考えてしまった。やつにとって虐めとは××だということに。
「今回の動画はここまでです。ご視聴ありがとうございました」
その声で我に返る。スマホを見ると、その動画は終わっていた。
※
今回は山口にしよう。俺は今日の犠牲者を誰にするか考えていた。すると、頭に浮かんだその人物が山口だった。あいつの顔は忘れない。だって俺を殴ったやつなんだから。
夏休みに入る前の事だ。山口といういじめとは無関係そうなやつがいた。
でも.......それは違った。やつらに虐められるのが怖くなったのか。それとも■■■■■のかは分からない。ただ、やつらに進められ俺をサンドバックのように扱った。
山口は本が大好きだった。だからこの週刊少年魔か人の最新刊があるから見せてあげると言えばすぐに来るはずだ。
案の定、来た。
そしていつものように睡眠薬を盛って眠らせる。
あとはいつもの拷問部屋にぶち込んで殺映開始だ。
※
「今回の犠牲者は山口くんでーす。この人は僕をサンドバックにしました。なのでその腕を切断したいと思います」
一度、見逃したため巻き戻して見ることにした。
いつもの挨拶なのか分からない定番のあれをきいて、見せたのはのこぎりだ。しかもかなり歯切れが悪い。
山口という男に目を向けると、縛られて身動きが取れない状態。腕は金属の拘束具で固定されていた。
必死に動かそうとするがびくともしない。
「え?犠牲者って何?今回?ピーくんは何を言ってるの?」
初めてピー音が入る。おそらくやつの本名だろう。やはり対策はされているみたいだった。
「これから山口くんは腕を切り落とされるんだ。僕によってね。——アハハハハハハハ」
不気味な笑い声をあげて、やつはやまぐちの腕にのこぎりの刃を当てる。
「え......?なにこれ......?ピーくん.....?.....冗談だよね?」
山口は今置かれている状態についていけてなかった。
そんなことはお構いなしと彼がのこぎりを動かし始める。
「ぎゃああああああああああああああああああああああいだぁいいだぁいよぉおう」
「ぎゃははははははははっははははははっははははははっはははははははは」
その光景は狂気の沙汰としか思えなかった。
「や゛め゛でよ、ピーくん。ピ―――――くん!」
「なんで?やめないといけないの?僕がどんだけやめてと言っても君は僕の事を殴り続けたのに」
「あ......」
それは痛みによるものかそれとも......。
そんなのはどうでもよかった。それから彼はただ無言で涙を流している。
肉は半分まで切られ。血は今も大量に流れている。それでもやつは笑いながらやめない。むしろどんどんスピードを上げていく。
次の瞬間バキッという音が聞こえた。見るとどうやら骨が折れたようだった。
彼はとっくに出血多量で死んでいるだろうにずっと下を向いたままピクリとしない。
「あ、切れた。はいみなさーん見てくださいこれが山口の右腕です」
しっかり切断した腕をカメラまで持ってくる。切断部分を見るとポタポタと大量の血を垂れ流していた。
「ちゃんと左腕も切り落とすので切り落とすとこまでスキップしますね」
次の瞬間目の前に反対の腕があった。
「はいみなさんこれで両腕を切断することが出来ました。あとはまたあの湖に放り込んでおきますので今回の動画はここまでです。ご視聴ありがとうございました」
そして見終わり、すぐさまトイレへ駈け込んで朝食べたものを胃から吐き出してしまった。
※
親友を殺し、さっそく動画を編集する。しかし山口のあの顔は滑稽だった。
腕を切った後、山口の顔を覗き込むと目から血の涙を流していた。
血か.......そういえば俺はなんでこうも残酷なことが出来るのだろう?普通の人ならそれこそ一番最初の殺しで終わるはずなのに.......そのときはまだなにも考えていなかった。
明日は先生を殺す。楽しみだなぁ。
今の顔は誰にも見せれないだって、こんなにも顔が緩んでいるんだから。
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