112話 舌

 レベルが上がると純粋に強くなる。ちょっと力を入れたファイアーが世界を滅ぼす火力になる。世界を滅ぼす、というのは比喩表現なのだけど、もしかしたら火力MAXで放てば世界も本当に滅ぼすかもしれない。

 

「魔法が苦手なの」とカヨが言った。

 彼女の戦術は聖剣でゴリ押しだった。それは好きでやっているんだと思っていた。

 それに銀スラは魔法を吸収するスキルを持っていた。相当な火力の魔法を撃てば倒せるけど、剣でゴリ押しが1番手っ取り早かった。


「魔法を教えなさいよ」

 と彼女が言った。


 カヨとは一定の距離を保ってレベル上げをしていた。お互いの攻撃が当たったら危ない、とかそういうことじゃなく、お互いに近づかないようにしていた。


 その領域をおかして俺は彼女に近づいって行った。


「魔法はイメージなんだ」と俺が言う。


 彼女は手を伸ばせば触れられる距離にあった。


「知っているわよ」とカヨが言う。


「得意な魔法からイメージを膨らましたらいいんだよ」と俺は言った。


 彼女は土の魔法が得意だった。それじゃあ次に土から木が生えていくイメージをしたらいい。

 昔、漫画で読んだ『植木の法則』のように地面から植物をカヨが魔法で出した。ダンジョンの中は一瞬で植物だらけになった。初めて植物を出したらしい。


 その木が乾燥して燃えるようなイメージをして炎を出す。今までのファイアーより強力な炎が出たらしく、彼女自身驚いていた。うまく魔法を出すイメージを掴んだらしい。


 そして俺達はダンジョンの最下層までやって来た。

 最下層は洞窟の中ではなく、どこかの湿地帯だった。つまり強い魔物がいるおかげでダンジョンがフィールド化しているのだ。


 ボスは銀色の魔人だった。ランプの魔人の銀色バージョン。

 彼女が植物の魔法で魔人を足止めさせた。 

 その隙に俺が魔剣でぶった斬った。俺達の強さではダンジョンボスでも雑魚だった。


「たぶん、もう私達はレベルの上限に達しているわ」と彼女が言った。

「しばらく2人ともレベルアップしてないし、ボスを倒してもレベルアップはしなかった」


 カヨ曰く、俺達はレベル99らしい。


 本来ならレベル上げの目的を果たせたのだから、この時点で家に帰るべきだった。


 お互い何も言わなかったけど、2人で過ごせる時間を手放したくなかった。


 俺達は家に帰らず、キャンピングカーで1夜を過ごすことにした。帰るのは明日でもいいのだ。


 彼女がシャワーを浴びている間に俺はハンバーグを作った。隠し味は大豆を発酵させた調味料である。日本でいうところの味噌である。

 ハンバーグにかけるソースは、あの店のあの味をイメージする。ハンバーグの肉汁で玉ねぎを炒めて、柑橘系の果物の汁を入れて、醤油とみりんに似た調味料を入れる。

 Google先生が無いので、なんとなく誰もが知るあの店の味を思い出しながら作った。


 ハンバーグとご飯とサラダを一枚の木皿に乗せる。

 彼女はシャワーを終え、今か今かとハンバーグが出来るのを待っていた。


 そして出来立てハンバーグを彼女の前に置いてあげた。


「私の好きなやつ」と彼女が呟いた。


 彼女がこのハンバーグが好きなことは知っていた。


 カヨはハンバーグをお箸でガツガツと食べ始めた。


「似てる」と彼女が言う。

 美味しいではなく、似てるというのが彼女の感想だった。


「本当?」と俺が言う。


「特にこの木皿が似てる」と彼女が言った。


 俺がクスクスと笑った。商店であの木皿に似ていたから買っただけのモノだった。


 カヨはハンバーグを2杯もおかわりした。しかも大盛り。食べ盛りは素晴らしい。作っている側は嬉しい。


 俺もシャワーを浴びて歯を磨いた。


 そして2人で過ごす最後の夜の明かりを消した。


 俺はいつものように床で寝ていた。


 明かりを消してから、しばらく経ってから彼女が動き出した。


「魔力補給しなくちゃ」とカヨは思い出したように呟いた。


 カヨは床で眠る俺に馬乗りになった。

 彼女の体重を感じた。

 そこに乗られるとは思ってなかったのでドキドキした。


「舌出しなさいよ」

 とカヨが言った。


 俺はいつものように舌を出す。


 だけどいつものように舌は吸われなかった。


 彼女は俺の舌を愛おしそうに舐めた。

 カヨの柔らかい舌の感触。

 

 はぁー、と彼女が息を吐いた。

 甘い吐息が俺の口の中に入った。

 


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