111話 青いドレス

 カヨは召喚された時の服のままだった。女子高生の制服。浄化の魔法をかけているから綺麗ではあった。だけど防具ではないので防御力はゼロである。


 氷の魔女を倒した時に手に入れた青いドレスを俺は持っていた。すごい防御力である。それに魔力増大も付与されている。彼女にピッタリの防具だった。


 カヨはドレスを貰ってくれるのだろうか?


 朝。彼女はベッドで眠っていた。俺はアイテムボックスから防具のドレスを取り出した。それに合う黒のパンプスを取り出す。パンプスには攻撃力増加が付与されている。


 ドレスをハンガーにかけた。

 

 なんか防具を渡すだけなのに緊張する。


 彼女が起きる前に朝ごはんを作った。パンに目玉焼きにハムを焼いた。後はサラダ。ドレッシングだけ少し工夫してみた。オリーブオイルをフライパンで焼いて、刻んだベーコンと塩と砂糖と唐辛子とハーブを入れる。熱々になったドレッシングを青野菜の上にかけるとジューと音をさせながら、香ばしい匂いが広がった。


 彼女が目覚めた。寝癖。可愛い。

 カヨは眠たそうに目を擦って歯を磨きに行った。

 その間に俺はテーブルの上に朝ごはんを置いた。


 カヨは起きてから一度も俺と目を合わせてくれなかった。


「いただきます」とカヨが小さい声で呟き、朝ごはんを食べた。


「キスは」と彼女は恥ずかしそうに呟いた。「ただの魔力補給だからね」


 俺はカヨを見た。

 彼女と目が合わなかった。彼女はサラダをムシャムシャと食べている。


「わかってるよ」と俺は言った。


 それから黙って俺達は朝ごはんを食べた。


「コーヒーは飲める?」と俺は尋ねた。

 俺の知るカヨはコーヒーが好きだったけど、今の彼女はコーヒーを飲めるかどうかはわからない。


「砂糖が入っていれば」とカヨが言う。


 俺は立ち上がりキッチンの前に立った。


「うんと甘くして」とカヨが言った。


 コーヒーを淹れると、コーヒーの独特な香りがキッチンカーに充満した。


 うんと甘いコーヒーを彼女に出した。


「甘い」とカヨはコーヒーを啜って呟いた。


 俺はブラックコーヒーを飲んだ。


「あれは?」とカヨが尋ねた。

 カヨの視線の先には青いドレスがかけられていた。


「防具だよ」と俺は言った。

「防御力が高いんだ。それに魔力増大の付与もある」


 俺はコーヒーを啜った。


「貰ってくれるか?」

 と俺は言った。

 本当はドキドキしていたけど、大したことないように言った。


「私にくれるの?」

 とカヨが尋ねた。


「君にあげたい」

 と俺が言う。


「アナタが着ればいいじゃない」

 と彼女が言った。


「俺が青いドレスを着て戦うのかい?」

 と俺が言う。


 カヨがクスクスと笑った。


「似合うと思うけど」と彼女が言う。


「似合うだろうね」と俺が言った。


 2人でクスクスと笑った。



 俺が先にキャンピングカーから出た。

 カヨが着替えてキャンピングカーから出て来る。


 彼女は青いドレスに着替えていた。

 それは防具のはずなのに、カヨの美しさを引き立てるために作られたような洋服だった。俺は息を飲んで彼女を見た。


「何?」と恥ずかしそうに彼女が言う。


「すごく似合っている」と俺が言う。


「うるさい」とカヨが言う。


「やっぱり俺が着なくてよかった」と俺が言った。


「アナタが着てても似合ってたと思うわ」

 とカヨが言って、2人でクスクスと笑った。


「着心地はどう?」と俺は尋ねた。


「見た目以上に動きやすい。このパンプスもスニーカーより動きやすいわよ」と彼女が言った。


「よかった」と俺が言う。


「あとコレも貰ってほしい」と俺は言って、握って汗ばんだ青い宝石が入った指輪を彼女に渡した。

「魔力増大のアイテム」


 彼女が汗ばんだ指輪を取った。

「アナタにも似合いそうだけど」

 とカヨが言う。


「きっと君の方が似合うよ」

 と俺が言う。


 彼女は左の中指に指輪をはめた。



 

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