103話 彼女がいたから俺は強くなれた
少し自分語りをさせていただきます。
退屈じゃない程度に話を書き上げるので、もしよかったら俺の過去の回想にお付き合いください。
俺は20歳の頃までフリーターで、特に夢も無く、女の子と喋ることなく、生きてきた。
彼女と出会う前の人生はつまらないモノだった。だからカヨと出会う前の人生は生ゴミに出してもいいモノだった。人生は燃えるゴミでしたか?
そして俺は女神と出会った。女神って言い方をすると神格化しすぎかもしれないけど、俺には人生を360°変える出会いだったのだ。360°だったら元に戻ってるじゃん。180°です。180°の間違いです。
喫茶店で人違いから始まった出会いだった。この出会いを俺は手放してはいけないと思った。糸を引っ張るように慎重に彼女を手繰り寄せた。
その当時はまだガラケーで、連絡もメールのやり取りだったと思う。
カヨからの受信メールが来た時は死ぬほど嬉しかったのを覚えてる。
彼女からメールが来ない時は死ぬほど悲しかったのを覚えている。
そしてなんと俺はカヨとデートをすることになった。
初デートは動物園だった。紅葉の季節だった。彼女は可愛いらしい服装をしていて、それだけで俺は
「なに?」
カヨのことを見ていると、彼女が尋ねてきた。
「いや、可愛いなって思って。可愛いすぎるな、って思って」
「だから私のことジロジロ見てたの?」
と彼女が尋ねた。
「君の隣に俺みたいなモノが歩いてていいのか、って考えちゃって」
卑屈になっていることを俺は言ってしまった。あまりにも未成熟すぎる。
それを聞いた彼女が俺を蹴った。
その時はビックリした。人に初めて蹴られたんだもん。ビックリしすぎて腰を抜かした。
カヨは狂気的な女の子だった。
彼女を見ると怒っていた。本当にキレて地団駄を踏んでいた。
「ごめん」
蹴られたのにも関わらず、俺は謝った。
「私が君とデートするって決めたんだ。卑屈になるな」とカヨが言う。
彼女が言うことは正しかった。卑屈になったら相手にも失礼なのだ。
「本来の君は卑屈になるような人間じゃないのよ。もっと堂々としていて、人に慕われるような人間なの」と彼女が言った。
彼女の言葉は突拍子もないように聞こえた。誰が堂々として人に慕われるような人間だって? 俺は20歳のフリーターだった。ポケットには比喩的な意味で何も入っていなかった。
「私の隣にいることで卑屈になるぐらいなら服装から変えればいいだけでしょう?」
と彼女が言った。
「でもセンスないし」と俺が言った。
「私が選んであげる。今から行きましょう」とカヨが言う。
「動物園は?」と俺。
「服を買ってから行けばいいじゃない」
と彼女が言って俺の手を握った。
彼女が俺の手を握ってくれたのだ。今日の目標はカヨの手を握ることだった。
それがなんと開始5分もしないうちに目標が達成した。そして俺はカヨに服を選んでもらってオシャレになった。
俺には、まだ卑屈になるポイントがあった。
俺には学が無かった。勉強なんてしてこなくて大学にも行っていなかった。
彼女は有名な大学に行っていて、俺なんかが彼女と付き合える訳がない、と思っていた。
なんだったら大学生の彼女が眩しく見えて、俺なんかと遊んでいる時間があったら大学の友達と友好を深めた方がいいんじゃないか? と勝手に思った。
俺は彼女のために身を引いた方がいいんじゃないか? そんな風に思って連絡を絶った時がある。
「なんでメール返さないの?」
カヨからの電話。彼女の声はイライラしていた。
「俺なんかといるより、君は大学の友達と遊んだ方がいいんじゃないか? そう思ったらメールを返せなかったんだ」
と俺が言う。
「バカなの?」と彼女がキレた。
「遊ぶ相手は私が決める。私が小次郎と一緒に遊びたいの」
「俺より、きっと大学の男の子の方が君を幸せにする」と俺は言った。
「もうイライラするな。怒るよ。私は誰かに幸せにしてもらわなくちゃ幸せになれない女だと思ってるの?」
「そんなことはないです」
俺は萎縮して敬語を使ってしまった。
私は勝手に幸せになるわ、みたいな答えが返って来ると思っていた。
でも違った。
「他の男より小次郎が私を幸せにすればいいじゃない」とカヨは閃いたみたいな口調で言った。
パンが無ければケーキを食べればいいじゃない、みたいな口調だったと思う。
「俺が幸せにしていいんですか?」
「お願いします」と彼女が言った。
俺はカヨにお願いされたのだ。幸せにするように。
俺はすごい単純な男だった。
好きな女の子にお願いされて、やる気スイッチがポチッと押されたような気がした。
次の日にはハローワークに行って1ヶ月後には就職を決めていた。
俺の目標はカヨを幸せにする事だった。フリーターをやっていたらカヨとの未来がないような気がした。
とにかく彼女を幸せにできる男になりたかった。
ヤル気マンの俺は安定した就職を得るために社員になった。
そして初任給で花束を彼女にプレゼントして告白したのだ。
俺達は付き合うようになった。
これから先のことも考えるようになって、資産運用の勉強とか、資格の勉強とか、俺は学ぶようになって、転職をして収入を上げて、彼女が大学を卒業した時に結婚した。
「私を幸せにしてね」と彼女が言った。
「もちろん」と俺は言う。
彼女がいたから俺は強くなれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます