102話 教えてくれてありがとう

 街を案内するだけなのにラスボスを倒すぐらいの大所帯で城を出た。

 とある魔法をかけ忘れていたので、城を出てすぐに国民達に囲まれる。

 

 王様もヒロインズもいる、という国民の歓喜の声が聞こえた。

 俺は国民達に手を振ったり握手をしたりする。でも行動できん。認識阻害の魔法をみんなにかける。


「国民に慕われているのね」とカヨが呟いた。彼女はエジーにいたのだ。王様が国民に慕われているのが不思議なのかもしれない。


「人気者はつれぇーわ」とチェルシーが言った。ちなみに猫とバランとカヨは国民から囲まれてなかった。一応、認識阻害の魔法はかけたけど。


「そんなこと言ったら逆に辛くない?」とカヨが尋ねた。


「辛い。抱きしめて」とチェルシー。


「私、猫アレルギーだから近づかないで」とカヨが言った。


 チェルシーが悲しそうに俺を見る。

 そんな目で見られても何もできねぇーよ。


「まず、どこから行こうか?」と俺が尋ねた。

 意見が無ければ俺の考えたプランで行動するつもりだった。


「美味しい串カツ屋さんがあるんですよ」

 とアニーが言った。


「いいね。行こうか」と俺が言う。


「ボクはあれ、バンって撃つところ」

 とナナナ。


「射的ね」と俺が言う。

 ちなみに射的は日本の温泉街にあるような景品をおもちゃで落とす場所である。観光スポットを作るために簡単にできるアミューズメントを街で作っていた。


「そこも行こう」と俺が言う。


「俺は海がいい」とチェルシーが言った。「波を見ながら泣きたい気分なんだ」


「そんなところには行かねぇー。街の案内をするんだ」と俺が言う。


 寂しそうにチェルシーが俺を見た。

 そんな目で見られても。


「俺は家に帰りたい」とバランが言う。

「家に帰って庭の蟻を殺したい」


「それじゃあ1人で家に帰れよ」と俺は言った。


「それはイヤだ。俺だってみんなと一緒にヒゲの生えた女の子の店に行きたい」


「そんな店に行かねぇーよ」

 と俺が言う。


「たしか串カツ屋さんってドワーフの女の子が働いてますもんね」

 とアニーが言った。


「ごめん。みんなでヒゲの生えた女の子の店に行くみたいだ」と俺が言う。


「それでカヨ、ごめん池崎様はどこに行きたい?」

 と俺は尋ねた。


「私は、商店街みたいなところがあれば、そこに行きたい」


「了解。それじゃあ歩いて行こう」

 と俺が言う。


「音楽流そうか?」

 とチェルシーが言った。


「頼む」と俺が言う。


 ね○せ、というバンドの『スーパー愛したい』の曲がチェルシーのお腹のスピーカーから流れ始めた。


『芸術的なことで満たされた♩ 来世ではちゃんとしよう♩ 日常的なことで埋めたいな♩ 君と明日は昼まで寝よう♩ 感情的になる節があれば落ち着くまで深呼吸をしよう♩ 客観的に見てこの2人は幸せそう、そう思われていたら良いね。君のことスーパー愛したい。宇宙まで飛んでって一緒に怖がろう。スーパー抱きしめたい。ベランダに水をやる時も一緒だよ。スペースシャトルで君の家まで毎日通うのさ』



 商店街に行って、串カツ屋に行く。

 お酒を飲める人は異世界ビールを飲んで、カヨとナナナとアニーはジュースを飲んで串カツを食べた。やっぱりドワーフの英雄は、ドワーフの中でも有名なのか、ヒゲモジャの女の子が顔を真っ赤にさせてバランに接客をしていた。


「あの子、すごい可愛いな。ヒゲをいっぱい口の中に入れたい」とバランの発言に女子はドン引きしていたけど、楽しい飲み会だった。

 

 その次に射的場に行って景品をおもちゃの銃で撃ち落とした。

 そして商店街を歩いている時に、金貸し屋に入りたい、とカヨが言うから、金貸し屋の中に入った。


「投資信託って言うんですよ」

 とアニーが説明している。

 それを俺は微笑ましく聞いていた。

 投資信託なんて高校生にはまだ興味が無いんだろう。


「貯金の上位互換じょういごかんみたいなモンだよ」

 俺は超ザックリした補足説明をする。


「ふ〜ん」とカヨが言った。

「そんなこともできるんだ」


「なんで金貸し屋に興味があったの?」

 と俺は尋ねた。


「この国が住みやすいかどうか確認してるのよ」

 とカヨが言った。


「でもカヨ、あっごめん池崎様は日本に帰りたいんじゃ」と俺が言う。


「もうカヨでいいわよ。あなた達もカヨでいいから。別に呼び名なんて気にしていないから」

 と彼女が言った。


 先日はカヨって呼ぶな、って言われたような気がするけど……。


「私が住むわけじゃないわよ」

 とカヨが言った。


「それじゃあ、誰が?」


「異世界で出来た大切な友達」

 と彼女が言った。


「その友達ってエジーにいるの?」と俺は尋ねた。


 カヨが首を横に降った。


「その子、すごく可愛いの。エジーでは貴族の位も高かったし。でも今ではソビラトの王様の奴隷になっている」

 と彼女が言った。


 ……それじゃあ無理だ。手を出したら戦争になってしまう。

 今は戦争の下準備をしている最中なのだ。


「カヨがやり残したことって、その子のことなのか?」

 と俺は尋ねた。


「アナタには関係ないけどね」と彼女が言った。


「教えてくれてありがとう」と俺は言う。


 自分で取り戻すためには力を取り戻さなくちゃ、と彼女が呟いた。


 今のカヨには一切の魔力が無いのだ。今の彼女は一般市民と戦闘力に大差はなかった。

 

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