104話 銀色のスライム

 カヨにはやり残した事があって、それをするには彼女は力を取り戻さなくちゃいけなかった。


 今から俺は愛の職場の視察に行くところだった。ついでにカヨの力を取り戻す方法を聞いてみようと思っている。


 愛は魔力不足になっても他所から魔力を吸収できる。

 もしかしたら彼女はカヨの魔力を取り戻す方法も知っているかもしれない。

 

 1人で愛の職場に視察に行くつもりだっだ。


「どこ行くのよ?」

 と声が聞こえて、振り向くとカヨがいた。


「ちょっと愛の職場の視察に」と俺は言った。


「愛さんの職場って?」とカヨ。


「騎士団の総司令官」と俺。


 騎士団、と彼女が呟いた。


 もともと警察の部署の中に騎士団があったのだけど、戦争の兵になりうる騎士団を警察の部署から外して1つの組織にさせた。

 そして元王都や色んな街で活躍していた騎士団を集めて愛の指導のもとレベルアップをしている。


 騎士団は交代制でウチの街にやって来た。騎士団がいないことによって治安維持が出来ない街には警察を派遣している。


 愛が総司令官になって、とんでもない噂を耳にしていた。

 総司令官である愛の指導を受けた者は1日で相当強くなるらしい。

 なんじゃそれ?

 もし、それが本当で、俺にも適用されるなら俺も訓練を受けたい。


 俺は戦争において最重要カードである。王様であると同時に元勇者なのだ。バビリニアが勇者のカードを出してきたら俺が行くしかなかった。

 愛も勇者と戦えるのだけど出産したばかりの彼女を戦争に出したくはない。


 だからカヨの話を聞いた時、俺は戦争に使えると思ってしまった。

 俺にとってカヨは大切な人だ。

 そんな大切な人ですら戦争に使えるなら使いたい。

 俺達は少ない手持ちカードで戦わなくてはいけなかった。

 

 バビリニアとの戦争。

 もしかしたらソビラトも参戦して2対1になる可能性もあった。

 だからカヨの力が必要だった。彼女には力を取り戻して貰わなくちゃいけなかった。


「私も付いて行っていい?」

 とカヨが尋ねた。


「どうして?」

 と俺は尋ねた。


「友達がこの国に住んで安全なのか知っておきたいのよ」

 

 騎士団の強さがそのまま治安維持に繋がると思っているんだろう。


「俺達の国には警察がいて治安は守られている」と俺が言った。


「それでも災害や脅威になる魔物が襲って来たら騎士団が動くでしょ?」


「まぁ」と俺が言う。

「来てもいいけど期待しないでくれよ。騎士団は組織したばかりで、まだ赤ちゃんなんだ」


「いいわ」と彼女が言った。


 そしてカヨを連れて、騎士団が訓練している場所に向かった。




 なにこれ? 

 そんな言葉を口にした。


 運動場ぐらいの広さに結界が張られていて、防具を着た騎士団達が銀色の丸い物と戦っていた。


 本当になにコレ珍百景である。

 騎士団達が戦っているのは、どうやらプルンとした質感で、その丸が動くたびにプッチンプリンよろしくプルンプルンと動いた。


「銀色スライム」とカヨが言った。

 

 銀色スライム? 俺は首を傾げた。


「知らないの? 私もこっちの世界で初めて見るけど、ゲームで出てくる奴」とカヨ。


「知らない」と俺は答えた。


「経験値が豊富なのよ」と彼女が言った。


「経験値が豊富!!」と俺は驚く。

「なんで、そんな魔物がこんなところに」



「なんじゃ、旦那様、来ておったのか?」

 と後ろから声が聞こえた。


 後ろを振り返ると赤ちゃんを抱っこした愛が立っていた。


「愛、コレは?」

 と俺は結界の中にいる銀色スライムを指差す。


「銀スラじゃが」

 愛は銀スライムのことを呼び慣れすぎて略していた。


「結界を張って、そこに騎士団を入れるだけの簡単なお仕事じゃ。旦那様が考えるほど大変なことはないわい。アソコにメイドも来てくれておる」


 俺が思ってたより簡単な仕事でよかった。

 それよりですよ、それより気になるんですけど。


「銀スラって何ですか?」と俺は尋ねた。


「旦那様、知らぬのか? チェルシーは妾の記憶を読み取ったんじゃないのか?」


 はぁ、と俺は溜息をついた。


「俺達に映像を見せる時に必要じゃないモノをアイツはカットするんだよ」

 と俺が言う。


 愛はダークエルフである。

 その強さは長い時間かけて築いたモノだと思っていた。

 だけど、よくよく考えると長い時間かけて勇者に引けを取らないぐらいに強くなれるんだったら勇者なんて必要無いのである。

 彼女には強さの秘密があって、それが銀スライムということみたいだった。


「旦那様は銀スライムの存在を知らなかったのか?」と愛が尋ねた。


 俺は頷く。


「騎士団のレベルアップを妾がするのを旦那様が渋っておったのは、妾が肉体的に稼働すると思っておったのか?」


 ポクリ、と俺は頷く。


「何も知らなかったのか」と愛は納得していた。


「騎士団達にはレベル30になるまで銀スラと戦ってもらっておる」


「レベル30」とカヨが驚いた。


「ちょっと待ってくれ」と俺は叫ぶ。


 レベル30って何だよ?

 俺の鑑定にはレベルの概念が無い。

 映画マイフェアレディの鑑定士と一緒で、知っている情報を組み合わせて読み取ることしかできない。

 だからレベルという分かりやすい概念が存在しない。


「鑑定で見れるじゃろう」と愛が言う。


「見れねぇーよ」と俺が言う。


「見れるわよ」とカヨが言った。


「カヨも見れるのかよ」と俺が言う。


「妾も勇者に教えて貰って獲得したスキルじゃ。勇者なら見れるもんだと思っていたわい」と愛が言う。

 

「聞いてないよ」

 ダチョウ倶楽部ばりの、聞いてないよが出ました。


「ゲームをしないからじゃない?」とカヨが言った。


「ゲーム? なんの関係が?」

 たしかに俺はゲームをしない。


「自分が想像できないモノはスキルとして扱えない」


 あぁ、と俺は頷く。


 俺は鑑定のスキルが手に入った時、マイフェアレディの鑑定士を想像した。そして、この世界の鑑定スキルを扱う人達と俺の鑑定スキルが似ていたから、この世界にはレベルが無いモノだと思い込んでしまった。


「それじゃあ今の俺のレベルは?」

 と俺は愛に尋ねた。


「38じゃ」と愛が言った。


「弱いじゃん」

 と俺は思ったことを口に出した。

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