99話 キショ
オークションでカヨを競り落とす前。リビングにてカヨのことについてみんなに説明していた。
ちゃんと俺は説明するタイプである。歩く説明書である。嘘嘘。そんな説明得意じゃないけど急に敗戦国の勇者を連れて来るのだ。仲良くやってもらうために俺はカヨについて説明した。
日本にいた頃の俺の妻であること。俺の大切な家族であること。
だけど召喚された
名探偵、毛利小次郎は推理する。毛利って付けたら名探偵っぽくなるよね。やっぱり探偵名は繰り返しの方がいいのかな? 宮本小次郎小次郎。一時期、俺が読んでいたミステリー小説で名探偵ネームの繰り返しが流行っていた。
ズバリ日本で俺と出会ったカヨは異世界帰りの女性だったのだ。
「つまり、あれか」
とバランが言った。
続きの言葉を聞かずに、「絶対に違う」とチェルシーが答えた。
俺も答えを聞かずに違うと思った。
「カヨって女が2人いるってことだよな?」
とバラン。
「ほら違うかっただろう?」
とチェルシー。
「日本とこっちの世界の時間が平行じゃないってことだよ」
へいこう、とバランが呟く。
難しいことを言われてパニックなのか頭を抱えている。
「難しく考えなくていいんだ」と俺が言う。「むしろバランは何も考えなくていいんだ」
「悪かった」とチェルシーが言った。「カヨって女が2人いるってことでいいよ」
「3人目もいるのか?」
とバランが尋ねた。
「いるよ」とチェルシーが答える。
バランと喋っていたら話がややこしくなる。
「たぶんチェルシーが言ったことが正解だと思う」と俺は言った。
「つまりあれじゃな。カヨという勇者はこれから日本に帰り、旦那様と出会って結婚するってことじゃな?」
愛が赤ちゃんを抱っこしながら言った。
「そういう事だ」と俺は答える。
でも俺は考える。
もしカヨが日本に戻って俺と結婚しても、俺は32歳で異世界に転移してしまう。
その後の人生に俺はいない。
日本に戻っても俺と出会わない方がいいんじゃないか?
そんなことを思った。
だって俺からしたらカヨは家族だもん。
彼女が不幸になるなら俺と出会ない方がいいと思った。
「質問。質問」とナナナが手を上げた。
「どうやって勇者は日本に帰れるの?」
「賢者の石を使う」
と俺は言った。
賢者の石は本来、元の世界に戻すためのアイテムである。
つまり勇者を日本に帰すことができる。
「使用方法を教えてほしい」
俺は愛に尋ねた。
「そんなの簡単じゃ。戻りたい世界を想像して石を握り潰せばいい」
「賢者の石は1つにつき1人しか元の世界に戻れないの?」と俺は尋ねた。
「そうじゃな」と愛が答えた。
俺が賢者の石を使って日本に戻っていたらカヨは日本に戻ることができなかった。
俺が日本に戻らない、と決意したのはカヨを日本に戻すためだったのかもしれない。
「これからオークションでカヨを競り落としてくる。だからみんな優しくしてあげてくれ。ちょっと気の強いところはあるけど、凄くいい奴なんだ」
カヨが来る前にこんな事を話し合っていた。
そしてオークションでカヨを競り落としてカヨを家に連れて帰って来た。
彼女はベッドで眠り続けた。人は嫌な出来事があると脳内のデータをリセットするために眠たくなることがある。そんな事を聞いた事があった。もしかしたら彼女も、その状態かもしれない。
ナナナにカヨの体に傷が残ってないか確認してもらった。もし傷が残っていたら祈りで癒してもらうつもりだった。
だけど彼女は何一つ傷ついていなかったらしい。
俺は時間が許す限り、彼女のそばで、カヨが起きるのを待った。
カヨは異世界でどんな思いをしたんだろう?
高校生の彼女は異世界で知識無双もできなかっただろう。←知識無双ってなんだよ?
知識無双とは異世界で現代日本の知識で無双すること。
異世界には昔から勇者が召喚されている。なぜか日本人ばかり。この社会で使える日本の知識は流通している。
だから知識無双なんてモノは存在しない。そもそも勇者は政治や外交に利用される。
知らない世界で渡り歩いて行くためのコミュニケーション能力や、生き抜いていくための知識が必要だった。だけど高校生の彼女は何も持っていないだろう。
高校生のカヨにとって異世界は地獄のような場所だということは容易に想像できた。
彼女の寝顔を俺はジッと見つめた。過去の記憶が色々と蘇る。
もしかしたら、このまま寝続けて起きないじゃないか? 白雪姫は王子様のキスで目覚めた。
王子様は確実に100%、俺だった。
そうだよね? 妻だよ? 逆に俺じゃなかったら誰なんだよ?
彼女の顔に、俺は近づいた。
本当にキスして起きたら儲けモノじゃん。
運悪くというか、運良くというか、カヨはキスする手前で、パチクリと目を開けた。
少し鋭い奥二重の
すぐに俺は顔を遠ざけた。そして、あたかもキスしようとした事実はなかったかのようなポーカーフェイスを作った。
「ようやく起きたか」
と俺は言った。
「誰?」
誰? 俺だよ俺。言いたい気持ちを我慢する。今そんなこと言ったら俺俺詐欺である。
「アクセプトの王様です。元勇者でもあります。そして日本人です」
と俺は答えた。
俺の顔に見覚えがあったのか、「あぁコイツか」みたいな顔をした。
「っで?」と彼女。
質問が荒い。
日本にいた時の彼女は、こんな荒い質問をする人間じゃなかった。
俺と出会う以前の未成熟さが、なんだか新鮮だった。
「カヨはウチで引き取った。ココにはカヨを敵対する人間はいない」
「なんで私のことを知ってるの?」
冷めたい口調で彼女が尋ねた。
「家族だから」
と俺は言った。
俺は彼女の表情を見て、答えが間違っていたことに気づく。明らかにカヨはドン引きしている。
「あっ、違う。違う。カヨを引き取ったから家族って言ってるわけじゃなくて、日本にいた時に俺とカヨは結婚して家族だったんだ」
めっちゃくちゃドン引きしている。
「前に戦った時も似たような事を言ってたけど、なに? そんな事言ったら惚れてもらえると思ってるの? キショ。女子高生舐めるな」
ガーン。
女子高生のカヨは、めっちゃ攻撃的だった。
「日本と異世界の時間は平行じゃないんだ」
と俺が説明しようとする。
わかっていることは彼女に伝えようと思った。
俺は説明マンなのだ。
「いい。いい。そんな説明。ココと日本の時間が平行じゃないことぐらい気づいてるし」とカヨ。
説明の途中で話を切られた。
「結婚して家族になるなんて、マジでキモい」
キモい。
ガーン。
「あと馴れ馴れしくカヨって呼ばないでくれる?」とカヨ。
「それじゃあ、なんとお呼びしたら?」
と俺は尋ねた。
「自分で考えたら」
と彼女が言う。
「池崎様」
と俺は、カヨの旧名で呼んだ。
様、と付けたのはサービスである。
なんのサービスだよ。
「名前も知ってるんだ」
とカヨ。
「鑑定のスキルじゃないよ。俺の鑑定では名前なんてわからないし」と俺。
カヨが俺達の街を襲って来た時、彼女は俺が鑑定スキルで色々と読み取ることができると思っていた。そんな発言をしていたのだ。
「そんなのわかってるわよ。あれはクソ王が他所の国に私が寝返らないように着いた嘘だったの」とカヨ。
無知で未熟な彼女は嘘やマインドコントロールで操られていたのだろう。
「そうか。大変だったね」と俺は言う。
ぐー、とカヨのお腹の音が鳴った。
「お腹空いたね。ご飯食べようか?」
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