98話 オークション

 エジーのオークション会場。

 敗戦する前からエジーは金欠だった。もともと金や銅や鉄などが取れていた国だった。

 だけど長い年月を重ねて金や銅や鉄が取れなくなってしまった。

 産業がダメになる前に、別の産業に乗り換えなくてはいけない。


 俺がいた世界にドバイという国があった。ガソリン車が少なくなることを見据えて国を観光地に変えていた。国の運営とは、時には思い切った舵を切らないといけない時もあるのだ。


 エジーはジリ貧なことがわかっていて舵を切ることができなかった。だからバビリニアの傀儡かいらいになり、捨て駒にされたのだ。

 そして借金のために自国の大切な物を売るはめになった。


 オークションをしてしまえば、もう後は売る物が無くなる。国民は貧困に喘ぐだろう。もしかしたら国の運営がうまくできない王様を引き下ろすための革命が起きるかもしれない。

 そんなピリピリ状態のエジーの国に行き、俺達はオークションに参加した。


 参加したのは俺と財務大臣のユーという男である。もともとユーは商人で、オークションにも何度も参加したことがあるらしい。彼に頼んで今回は付いて来てもらった。

 そして護衛が10人ほど。

 本当は俺の強さがあれば護衛はいらない。だけどオークション会場は貴族の集まりになるのだ。見栄が必要だった。

 護衛に守られ、豪華な馬車に乗り、会場入りした。


 護衛は会場内に入れない。

 エントランスホールで貴族達が交流していた。

 何人かのお貴族様とお喋りして、オークションをする場所に俺達は入った。

 

 オークション会場は大きな映画館のようなところだった。もともと舞台をやる場所らしい。

 王族の俺達は前の席を用意されていた。


 そしてオークションが始まった。

 様々な物が売られている。

 山の権利や村の権利。戦争で死んだある部族の目玉。王様のために作られた貴金属。

 そして俺のお目当ての物がオークションにかけられた。


 カヨ。


 バビリニアにさらわれた勇者。

 だけど今ではエジーの元へ帰され、オークションにかけられている。


 手足目玉ぐらいは奪われた状態だろう、と予想していたけど五体は残っていた。

 それだけで俺はホッとした。

 こんな異世界で彼女が死ぬほど苦しい思いをしてなくてよかった。

 いや、今の現状も彼女にとっては死ぬほど辛い思いをしてる最中なのかもしれない。


 手足には鎖が付けられている。

 鎖と制服姿がアンバランスだった。

 カヨには魔力を一切感じなかった。


「今回の目玉商品でございます」

 と司会者が言った。


「国を守り、国民のために犠牲になった少女。

 戦争で魔力を奪われて勇者として使い物にならなくなりました。

 つまり飼っても危害を与えることも、逃げ出すこともできないわけです。

 勇者の遺伝子を欲しい方はいませんか? 最強の子どもを欲しい方はいませんか?」

 と司会者が言った。


 勇者の子どもが勇者クラスに強くなるわけではない。あおっているのだ。

 国を守ったはずの勇者が性奴隷として売りに出されていた。


 カヨは暗い顔をして下を向いていた。

 サラサラの黒髪が彼女の顔を隠している。

 俺は息ができないほど胸が痛い。

 日本にいた頃の記憶が蘇る。彼女と過ごした日々のことを思い出す。


「いくらでもいい。彼女を買い取ってくれ」と俺は言った。


「……わかりました」

 と財務大臣が言った。


 お金はあった。

 新しい通貨とバビリニア通貨を貴族達に換金してもらっていた。


 そして俺は1億枚のバビリニア金貨でカヨを競り落として、奴隷契約をした。


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