100話 キモヤリチン

 テーブルの上に暖かいスープ、サラダ、お肉、パンが置かれた。

 本来なら一品づつ出されて、ゆっくりと食べるらしいのだけどウチではまとめて出してもらった。

 俺がゆっくり食べてる暇なんてないからである。みんなも俺に習ってまとめて出してもらっていた。

 家にいる人は同じ時間、同じ場所で食べるのがウチのルールである。コミュニケーションが、とかそういうのじゃなくて、みんなバラバラに食べたらシェフやメイドさん達が大変だからである。


 今日はテーブルに全員揃っている。全員プラスワンでカヨがいる。彼女は俺の右隣に座って貰った。本来なら、そこはアニーの席だった。だけど彼女には隣にズレて貰った。

 俺が隣にいないとカヨが不安だろう、と勝手に思ったのだ。

 アニーは隣にズレて少し不服そうで、後でご褒美をいっぱい下さいね、と言うことで同意した。ご褒美とはアレである。今晩はアニーの日だから舌が疲れるのが決定である。


 左隣には愛が座っていた。元々、ナナナの席だったのが、赤ちゃんが隣の方がいいだろうということで、ナナナが隣にズレた。

 なぜか女の子達と俺が同じ側面←側面って言い方をするのか? に座り、チェルシーとバランの2人が向かいに座った。俺の真正面にはバランが座っている。

 

 バランはパンにスープを浸し、豪快にビショビショになったパンを頬張り、お肉に齧りついていた。

 

 それを見てカヨがゴクンと唾を飲み込んだ。

 

「食べないのか?」と俺はカヨに尋ねた。


「敵の国で食事は取らない。毒が入ってるかもしれないから」とカヨが言う。


 彼女は警戒しているのだ。

 たしかに敵の国で差し出された水すら飲んでもダメだろう。


「俺達は池崎様を敵対していない」と俺が言った。さっき池崎様、っで呼び方が決定したので、そう呼んでみた。


「アナタの言葉を信用できない」

 とカヨが言う。


「アニー、池崎様の料理の毒味を頼む」

 と俺が言う。


「はい」とアニーの返事。


 アニーはカヨの料理に手を伸ばして、まずはスープから飲んだ。そしてサラダ、パン。

 アニーがお肉に手を出そうとした時、

「毒味って少しだけよね? なんで口いっぱいに頬張るの?」とカヨがイライラしながら尋ねた。


 そうなのである。アニーはリスみたいに口いっぱいに頬張っていたのである。


「次からは気をつけます」とアニーが言って、お肉をナイフで切った。


「取りすぎよ」とカヨが言う。


「そうでしょうか?」


「お肉、半分も取ってるじゃない?」

 とカヨ。


「コッチの方が少し小さいですよ」とアニー。


「その半分ぐらいにしてよ」

 とカヨが言う。


 アニーがお肉をさらに切った。

「コレが1番小さいからコレにして」とカヨ。


 食べる気まんまんじゃん、と俺は思った。

 アニーがお肉を食べて、毒味が終わる。


「コレもアナタが使った物と交換して」

 とカヨが言う。


 コレと言うのはスプーンやナイフやフォークである。


「間接キスになりますよ」とアニーが言う。


「毒で死ぬよりマシ」とカヨが言った。


 どこまで警戒してるんだよ、と俺は思った。


 カヨがアニーの使っていたスプーンで、スープを飲んだ。


「暖かい」とカヨは言った。


 暖かいことで感動するなよ、と俺は思ったのと同時に、そんな事ですら感動する生活を送っていたことに胸がギッとなる。


 凄い勢いでカヨが食事を始めた。

 ガツガツ。


「食事の最中で申し訳ありませんが、自己紹介をさせていただきます」とアニーが言った。


「宮本小次郎様の第一夫人のアニーと申します」と黒髪のエルフが言う。


 ギロリと肉を齧りながらカヨが俺を睨んだ。


 自己紹介するのはいい。だけど何かが終わった。いいんだ。コレでいいんだ。だってカヨは日本に帰ってから俺と出会わない方が幸せなんだから。


「それじゃあボクの番だ。ボクは王様の第二夫人のナナナだよ」と獣人の女の子が言う。


 すげぇカヨが俺のことを睨みながらサラダを食べている。


「次は妾じゃな。妾は第三夫人の愛じゃ。そしてこの子はミイと言う」

 赤ちゃんをトントンしながら愛が言った。


 カヨは噛んでいた食べ物をゴクンと飲み込んだ。


「アナタ終わってるね。異世界に転生してきて俺チートでカッコいいをやってるの? マジでキモい。さっきアナタが私と結婚するみたいなこと言ったけど、こんなヤリチンと絶対に結婚しない。マジでキモい」

 早口で呪いの言葉を伝えられた。


「グハハハ」とバランが机を叩いて笑っている。

「終わってる。ヤリチン。キモい。最高。これから小次郎のあだ名は【キモヤリチン】で決定な」


「俺は第四夫人のチェルシー」

 猫が言い始めた。


「猫ともヤッてるの? マジキモいんだけど」


 ギャハハ、とチェルシーが机を叩いて笑ってる。


「ヤッてねぇーよ」と俺は力無くツッコむ。


「小次郎様の妻は、こちら側の席に座る女性だけです」とアニーが言う。


「こんな喋るキモ猫ともヤッてたら、逆にあっぱれ、って言ってやるつもりだったのに」とカヨが言う。


「誰がキモ猫なんだよ」

 爆笑していたのに、自分が言われたらチェルシーはキレる。


「俺はただの夫人だ」

 とバランが言う。

「横から見ても下から見ても夫人の中の夫人だ」


「アナタの仲間も、相当イッちゃてるわね」とカヨが言った。

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