第63話 ミナミを蘇らせる方法

「みんなと一緒にボクは歩くね」とナナナは言った。

 獣人達の先頭を両親と一緒に彼女は歩いた。


 俺達は馬車に戻った。ユニコーンには歩いて帰るように指示を出す。もちろん獣人達が歩きやすい道でお願いします。


 馬車に乗ると中年ゲス野郎がいた。ちょっと腕骨折してるんじゃないの? それに変な方向に曲がっている。足も骨折してるじゃん。

 中年ゲス野郎というのは魔物を巨大化させていた犯人。←犯人っていうか、実行犯。王様の指示でやっていた男である。


 アニーもいることだし、変なおっさんはとりあえずアイテムボックスの中に入れておこう。あまり人間は入れたくない。心情的にイヤなのだ。忘れて一生取り出さなかったらどうしよう? みたいに思ってしまう。

 ちなみにアイテムボックスの中には時間が無い。アイテムボックスの中に人間を入れて100年後に取り出しても、アイテムボックスの中に入っていた人間にとっては一瞬の出来事である。


「それでミナミを蘇らせる方法ってなんだよ?」

 と俺は尋ねた。

 まだチェルシーの言う事は信じられなかった。


「中年ゲス野郎の過去の映像を見てくれ」

 とチェルシーが言って、目を光らせた。

 馬車の中には映像を映すのに適した壁がなかった。

 猫が映像を映し出した場所にも凹凸がある。


 中年ゲス野郎がつかえていたのは、この国の王様ではなかった。

 隣国の王様に彼は仕えていた。いわゆるスパイという奴である。


 俺は大きな思い違いをしていたらしい。どうやらセドリッグも隣国の王様に仕えていた。中年ゲス野郎の過去の映像にはセドリッグの姿もあった。もともと2人は同じ隊に所属する兵士だった。

 

 星のカケラ、というアイテムが数百年に1度だけ現れる。星のカケラを3つ集めると願いが1つ叶うらしい。

 それを集めた国は世界を支配できる。星のカケラを集めた国は何百年も栄えるのだ。

 そのアイテムを使って歴代の王様達は国の発展を願ってきた。

 各国はそれを集めるために争った。


 星のカケラが現れたことを知った隣国の王様は、自国の兵をスパイとして様々な国に送り出した。

 その1人が中年ゲス野郎である。

 送り出された先の王様に中年ゲス野郎は仕えた、と見せかけて星のカケラの情報を探った。


 中年ゲス野郎は汚れ仕事を引き受けたのでこの国で重宝された。

 勇者おれ牽制けんせいするために王様は魔物を巨大化させた。その仕事も男が引き受けた。

 そして男は、この国に星のカケラが存在することを知った。


 隣国の狙いは勇者おれを使って、この国を滅ぼすことだった。この国を勇者が滅ぼせば自国の兵を使わずに済む。

 そして残った勇者は世界から魔王認定されて排除される。


 セドリッグの役割は俺に王様を敵対させることだった。彼の全ての行動は俺を王様に敵対させる行動だったのだ。

 俺を使えばコストを最小限で星のカケラが手に入る。

 隣国の王様は将棋をやっているのだ。先の手を読み、兵を動かしている。

 戦略ゲームをしていることを知らない俺はまんまと策略にハマったわけだ。


 もし王族を俺の手で根絶やしにしていたら、その時点でゲーム終了だった。

 魔王認定されて各国が召喚した勇者が俺を殺しに来るだろう。

 勇者に殺されなくても魔王になった時点で街を国として独立することができない。


 もしかしたカヨも隣国の王様に勇者として召喚されたのだろうか? 

 それは中年ゲス野郎の記憶には無かった。


 チェルシーが重要な部分だけまとめてくれた映像を俺達は見終わった。


「アニー、その石を小次郎に渡してくれ」

 とチェルシーが言った。


 アニーは大切に持っていた石を俺に渡した。

 丸い石を割った一部のようなモノだった。


「これが星のカケラだよ。中年ゲス野郎がコレを持って隣国に帰ろうとしていたんだ」


 コレを3つ集めれば願いが叶う。

 ミナミを蘇らすことができる。


「先に言っておくけど、俺、ミナミが死んでも泣いてないからな」

 とチェルシーが言い始めた。

 もうすでにミナミが蘇った時のための伏線を張り始めている。


「泣いてたじゃねぇーか」

 とバランが言う。

「小次郎と抱き合ってたじゃねぇーか。今でもホモだと疑ってる」


「お前はバカなくせに、そんなこといちいち覚えてなくていいんだよ」


 俺は星のカケラを大切に手で包んだ。

 ミナミを蘇らせたい。

 いや、絶対に蘇らせる。


「星のカケラを集めよう」

 と俺が言う。


「星のカケラを3つ集めることが、世界征服らしいぞ」

 とチェルシーが言う。


「ミナミに会えるなら世界征服ぐらいしてやるよ」

 と俺が言った。


「いただきました。ミナミに会えるなら世界征服ぐらいしてやるよ。めちゃくちゃカッコイイ。ミナミが蘇ったらぜひ伝えてやるよ。なぁ?」

 チェルシーがバランに言う。


「いや」とバランが首を横に振った。

「俺はチェルシーが泣いて、小次郎に抱きついていたことをミナミに伝える」


「お前、殺すぞ」とチェルシーが怒鳴る。

「俺は泣いてねぇー。絶対に泣いてねぇー。小次郎にも抱きついてねぇー」


 2人が言い合いをしている。

 俺はソファーに座るアニーの隣に座った。


「元気になってよかったですね」とアニーが言う。


「少しの希望さえあれば俺達は戦える」

 と俺は言った。


「ナナナちゃんに何か言われましたか?」


「やっぱり知ってたのか?」


「はい」とアニーは言った。

「相談されました」


「ナナナを4人目の妻にしようと思う」

 と俺は言った。


「4人?」


「昔、結婚してたんだ」


「はい」とアニーが頷く。



 数時間しか移動していないけど早いうちに森で休息をとることにした。

 結界を張って、その中で獣人達を休ませた。

 5000人分の食料を俺は持っていない。

 獣人達には自分達の寝床や焚き火を作ってもらい、俺とバランは狩りに出た。

 獣人達は疲れているし、もしかしたら森の中には奴隷狩りが潜んでいるかもしれない。

 だから獣人達には結界の外には出てほしくなかった。


 バランとは、どちらかが多く獣を獲れるか勝負した。俺の成績は鹿20匹に鳥100匹にイノシシ30匹。

 バランはバケモノみたいに大きいイノシシを1匹捕まえてきた。たぶん森の主だと思う。バランの勝ちでいいよ。でも本当は俺の勝ちだからな。どちらか多く獲れるかの勝負だったんだからな。


 獣人達に手伝ってもらって獣をさばいた。それで各々好きな分だけ肉を焼いて食べた。

 あまり食事を与えてもらえていなかったらしく、獣人達はすごい勢いで肉を食べた。焚き火で肉を焼いている時からヨダレを垂らす獣人が続出した。

 しかもみんな尻尾を振っているのだ。可愛い。

 なんだったら獣をさばいている時からヨダレを出して尻尾を振っていた。


 狩ってきた獣は全員で食べ尽くした。


 バランは獣人達と腕相撲している。しかも1対10人みたいな対決だった。それでもバランが腕相撲に勝っていて、10人が一斉に倒れてグハハハとハゲたドワーフが笑っている。


 チェルシーは気に入った女性の膝の上で丸くなっていた。アイツは獣人の膝の上が好きらしい。


 アニーは俺の隣で一緒に焚き火を見ていた。彼女は俺の手を握っていた。


 そこにドレス姿のままのナナナがやって来た。


「ずるい」と彼女が言って、俺の隣に座った。

 そして彼女も俺の手を握った。


「妻しか小次郎様の手を握っちゃダメなんですよ」

 とアニーが言う。


「もうボクも妻だもん」


「まだ結婚の契約してないでしょ?」


「結婚の契約?」

 とナナナが首を傾げる。


「街に帰ったらしような」

 と俺は言った。


「する」とナナナが言う。


「ドレス着替えたらどうですか?」とアニーが言った。


「この服、気に入ってるんだ」とナナナが言う。

「だって、領主様が褒めてくれたもん」


 デへへへ、とナナナが笑った。


「汚れを落とす浄化の魔法をかけてあげようか?」

 と俺は言った。


「そんなことできるの?」


 俺は彼女に浄化の魔法をかけた。ドレスについた汚れが消える。


「うわぁー綺麗になった」

 とナナナが喜んでいる。


「ご両親は?」と俺が尋ねた。


「そうだ。そうだ。お母さんとお父さんが領主様に会いたいって」


 ココで両親への挨拶か。

 アニーには待ってもらって、俺はナナナの両親に挨拶しに行く。


 いきなり土下座された。

 あなたに従います、のポーズ。

「そんなことしないでください。お母さん、お父さん」

 と俺は膝をついて土下座をやめさす。


「うちの娘を妻にしてくれると伺いました」

 と父親が言った。

「不出来な娘ですが、よろしくお願いします」


不束者ふつつかな娘ですが、よろしくお願いします」

 と母親にも言われた。


「こちらこそ、よろしくお願いします」と俺は言った。


 次の日には大量の木を切ってアイテムボックスにしまってから、街に向かった。

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