第62話 両親との再会

 街に来てから思っていたのとは違う、という事にならないために俺は責任者の立場としてナナナが語らなかった街の現状について説明しなければいけなかった。

 そして獣人達が置かれている現状についても語った。

 獣人は差別されている。

 なぜ差別されているのか? 人間を殺して金品を奪っていた種族だと思われているからである。

 

「獣人達が誰よりも優しい種族であることを私は知っている」と俺は言った。


「人間を殺して金品を奪っていたというのが嘘であることを私は知っている。安い労働力として買うための嘘だと私は知っている。差別されて殺され、奴隷として労働をして辛い思いをしていることを私は知っている」


 獣人達は土下座状態のまま顔をあげて真っ直ぐ俺を見ていた。

 みんな酷使されて疲れている。


「私の街に来ても差別されるかもしれない。領民達に受け入れてもらえないかもしれない。それでもアナタ達には私の街に来てほしい。災害で壊れた建物を作り直してほしい。私の隣にいる彼女の夢を叶えてほしい。私にはアナタ達が必要だ」


 俺の街に来ても差別があることを伝える。

 そして俺には獣人達が必要であることを伝える。


「私の課題は獣人達を街に受け入れることだ。差別という嘘を撤廃することだ。私の隣にいる女の子を幸せにすることだ。だからアナタ達が街で働き、領民として受け入れてもらえるように全力を尽くそう。いつか獣人達の子孫が幸せに暮らせるように。明日のために私達の街に来てください」


 領主として厳しい現状を彼等には伝えた。

 俺の街に来ても希望だけではない。

 顔を上げていた獣人達が、俺の言葉を聞き終わり、また頭を下げて頭部を俺に見せた。

 

 2人の獣人だけが立ち上がり、土下座の隙間をぬってコチラに近づいて来ている。

 白髪が混じった老夫婦だった。


神子みこ

 と女性の獣人が叫んだ。


「領主様、下ろして」


 俺はゆっくりと地面に降りた。


神子みこ

 と男性の獣人が叫んだ。


 2人の顔は涙でグショグショに濡れている。


「お母さん?」とナナナが呟いた。

「お父さん?」とナナナが呟いた。


 老夫婦はナナナの両親だった。

 チェルシーの記憶で見た時の姿よりも両親は老けていた。両親は奴隷狩りに捕まって城壁を作らされていたみたいだった。過度な労働で一気に老けたんだろう。


 両親はナナナを思いっきりギュッと抱きしめた。


 うわぁぁぁーん、とナナナが泣き叫んだ。

 もう2度と会えない、と思っていた両親に会えたのだ。

 家族に会えたのだ。


「神子、神子」とナナナの両親が彼女をギュッと抱きしめて何度も何度も彼女のことを呼んだ。


 お母さん、お父さん、とナナナも両親を呼んでいる。


 両親に再会できてよかった、と俺は心から思った。


「小次郎」

 とチェルシーの声がした。


 獣人達の隙間をぬって猫が走って来る。


 チェルシーが俺の胸にベッドのようにダイブした。

 俺は猫を受け止めた。


「どうしたんだよ?」

 と俺が尋ねた。


 なんでコイツはこんなに慌てているんだろう?


「ミナミを蘇らせる方法が見つかったんだ」


 チェルシーは何を言っているんだろう?

 ミナミを蘇らせる方法?

 意味がわからない。

 すでにミナミは火葬している。


「俺達が捕まえた中年ゲス野郎の記憶を見てほしい。ココでは見れないから馬車に戻って早く見てくれ。願いを叶える方法があるんだよ。ミナミを蘇らすことができるんだよ」

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