第43話 ファーストキス

 トントントン、と扉がノックされた。

「開いてるよ」

 と俺が言う。


 「おじゃまします」

 部屋に入って来たアニーはガチャと扉の鍵を閉めた。

 薄いピンクのシルクのパジャマ。ワンピースっぽいパジャマで綺麗な生足が出ていた。

 アニーの足はすごく綺麗である。


 俺はベッドのふちに座っていた。

 それに習ってアニーもチョコンとベッドの縁に座った。

 1メートルぐらい距離があってもアニーのシャンプーの匂いがした。お風呂に入って来たんだろう。


「それでお嬢ちゃん、どんなプレゼントがいいんだい?」

 ちょっとフザけて俺は尋ねた。


「お嬢ちゃんじゃありません」

 とアニーが言う。

「私は小次郎様の妻です」


 なんかすんません、と小さい声で俺が謝る。

 そりゃあそうだ。彼女は俺の妻である。お嬢ちゃん呼ばわりされる筋合いはない。


「プレゼントを貰う前に」とアニーが言った。「昨日のことを覚えていますか?」


「昨日のこと?」

 なにかあったっけ?


「ナナナちゃんの尻尾を触っていたこと」


「あぁあぁ。アレはやらしい意味で触ったんじゃなくて、ただモフモフしたかっただけなんだ」


「後で私のも触る約束でしたよね?」


「でもアニーには尻尾が無いよ?」


「お尻」

 と彼女が言って、立ち上がった。


 そして俺に背を向けてお尻を見せた。


 スカートから出ている太もも。

 ヒラヒラの中にはふんわりとしたお尻があるんだろう。

 ムラっとした。


 でも15歳っすよ。

 いや、触れんでしょ。

 この人痴漢です。私がやりましたピエーン状態になるのではないか?


「早くしてください」

 恥ずかしそうにアニーが言った。


「……いや……」


 アニーが振り向いて俺を見る。


「ナナナちゃんの尻尾は触れるのに、妻である私のお尻は触れないんですか? 私は妻じゃないんですか?」


「妻っすよ。俺の妻っす」


「それじゃあ、早く触ってください」


「……でも俺こう見えて、実年齢で言えば42歳ぐらいなんっすよ。見た目は17歳。でも中身はおっさん、その正体は江戸川コ◯ン」


 この人、何言ってんの? みたいな目で見られる。


「エルフにとって15歳も42歳も少しの年の差です。そんな事を気にしていたら、いつまでも私は小次郎様に何もしてもらえません」

 とアニーが悲しそうに言った。

「……ミナミ様にはするんですよね?」


 ミナミには俺がされる側である。

 だけど余計なことは言わないでおこう。

 

 彼女を悲しませたくなくて、お尻を触る決意をした。

「わかった」と俺は言った。

「お尻、触らせてもらう」


 俺は立ち上がり、アニーに近づいて行く。

 触ってええんか? 触ってええんか? と心の中で関西弁で呟いた。

 なぜか関西弁にしたら急にイヤらしいおっさんになるから不思議である。


 彼女のお尻に手を伸ばす。

 柔らかいです。

 最高でございます。

 でも、なんだこの背徳感?

 この子は俺の妻だ。

 別に悪いことをしている訳じゃない。

 自分の妻のお尻を触っているのだ。


 んっ、とアニーから声が漏れた。


 ごめん、手つきがいやらしかったかな? 

 彼女のお尻から手を離した。


「ナナナちゃんにはもっとやってましたよ? 小次郎様は私のお尻を触るのが嫌なんですか?」


「そんなことはないっす」


 もう一度、俺は彼女のお尻に手を伸ばした。


 ごちそうさまでした。

 こんないい思いができるなんて。


 めちゃめちゃ体が熱い。

 恥ずかしいのもあるし、照れているのもあるし、興奮してるのもあるし、罪悪感もあるし、っで色んな感情がごちゃ混ぜになって体が熱かった。

 お尻を堪能した俺はベッドの縁に座って風の魔法で火照りを冷やしていた。

 扇風機の弱ぐらいの風を顔に浴びる。


 アニーは微笑んでいた。

 彼女も顔を火照らしている。

 俺は自分の心拍音が気になった。

 どんな風に心臓が鳴っているんだろうか?


「よかったです」

 とアニーが呟いた。


 なにが? とは聞かなかった。


 少しの沈黙。

 アニーの耳がピクピクと動く。

 絶対に心拍音聞かれてるじゃん、と俺は焦る。

 なにか喋らなくちゃ。


「プレゼントは何がいい?」


「……」

 アニーは何も言わない。


「アクセサリー?」


「すでに、いっぱい貰っています」


「それじゃあ武器?」


「もう貰ってます」


「それじゃあ防具?」


「それも、もう貰ってます」


「それじゃあ宝玉ほうぎょく?」


「興味がありません」


「……それじゃあ何がいいっすか?」


 アニーが俺を見る。


「キスしてください」

 とアニーが言った。


「……キス」と俺が呟く。


 15歳とキス。

 むちゃくちゃ犯罪の匂いがします。

 犯人はお前だ。

 俺だったのか。気づかないうちに犯人になってしまった。


「……16歳になったら、そのアレを小次郎様とするので……キスは前借りみたいなモノです」

 とアニーが言った。


「前借りシステムなんてあったのか?」と俺が驚く。


「ありますよ」

 とアニーが微笑んだ。

「専門家に聞くと15歳の誕生日にキスの前借りはOKという事でした」


 その専門家って誰だよ? ミナミか? チェルシーか?


「プレゼントはキスがいいです」

 とアニーが言った。


 うん、と俺は頷く。

 ココで断ったら彼女を悲しませるだろう。

 この子も大切な妻である。悲しませることはできない。


 俺は立ち上がり、アニーの隣に座り直した。


 彼女を見つめた。


 心臓がドキドキしすぎて痛い。


「目を瞑って」

 と俺が言う。


 彼女の綺麗な瞳が閉じられた。


 そして俺は彼女の唇に、初めて唇を重ねた。

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