第42話 アニーの誕生日

 ナナナがアニーに花束を贈った。

 色んな花が入った花束で、すごく可愛い。


「誕生日おめでとう。15歳ってことは成人だな。名前を貰えるな」

 とナナナが言う。


「ありがとうございます。嬉しいです」とアニーが言って、花束を受け取った。「でもエルフの成人は16歳です。それに私にはアニーという名前があります」


「そうだった。ボク、アニーの名前をすでに呼んでた」


 2人が笑い合った。


 それからミナミがアニーの前にやって来た。


「はい、コレ」

 とミナミが言って、ラッピングされた箱をアニーに渡した。


「ありがとございます」

 とアニーが喜ぶ。


「開けていいですか?」


「いいわよ」


 アニーが丁寧にラッピングを開けて、箱を開けた。

 箱の中身はSMで使うような手足を縛る拘束器具が入っていた。


「コレはなんでしょうか?」

 とアニーが尋ねる。


「貴方には少し早いと思うけど、小次郎を捕まえておくための拘束器具よ」


 一体、ミナミは何をプレゼントしてるんだよ。


 アニーはミナミを見た。

「いつも使っているんですか?」


「私は使ってないわよ」とミナミが弁明している。


 拘束器具なんて使ったこともないし、使われたこともない。


「そういう趣味がアニーにはありそうだと思っただけよ」

 ミナミが言った。

 

 そんな趣味があるように見えねぇーよ。


「……あります」

 とアニーが言った。


 あるのかよ。


 たぶん気を使って言っているんだろう。


「ミナミ様、ありがとうございます」

 とアニーが頭を下げた。


 次にプレゼントを渡したのはバランだった。

 バランですらプレゼントを用意しているのかよ、と俺は思った。


 ぶっきらぼうにバランはプレゼントをアニーに渡した。それは箱にも入っておらず、ラッピングもされていなかった。


「毛だ」とバラン。


 彼がアニーに手渡したのはカツラみたいな大量の毛だった。


 恐る恐るアニーが受け取る。


「ありがとうございます」


「お前、口がツルンツルンで寒そうだから、毛をつければいい」


「これってお口の毛なんですか?」とアニーが尋ねた。


「そうだ」とバランが頷く。


 どうやら毛には耳にかける紐がついているらしかった。

 アニーは紐を耳にかけた。ちょうど毛がヒゲの位置にくる。


「お前、そんなに可愛かったんだな」

 とバランが驚いている。


「ソッチの方が断然モテるぞ」

 とハゲたドワーフが絶賛している。


 どうですか? みたいな目をアニーが俺に向けた。


「ヒゲはちょっとな」

 と俺が呟く。


 アニーがヒゲを外す。


「可愛いのに外すのか?」

 とバランが悔しがっている。


「これからご飯を食べるので。プレゼントを汚したくないので」とアニー。


「それじゃあ次は俺の番か」

 とチェルシーが箱を持って登場。

 箱はラッピングされていない木の箱だった。


「女の子にあげるってなったらコレだよな」 


 チェルシーがアニーにプレゼントを渡した。


「ありがとうございます」

 とアニーが受け取る。


「箱を開けて、早く俺を褒めろ」


 アニーがニッコリと笑って、箱を開けた。


「キャ」と彼女が小さい悲鳴をこぼした。


「捕まえるのに苦労したんだぜ」

 とチェルシーが言った。


 俺は箱の中を覗いた。

 死んだネズミだった。


「プレゼントなのに生ゴミを渡して、どうするのよ?」とミナミが言う。


「チェルシーは猫なんだ。獲物をプレゼントするのが最高だと思ってんだよ」

 と俺が言う。


「センスねぇーな」とバランが言った。


「雌猫にあげたら喜ぶんだぞ」とチェルシーが言う。


「私のために捕まえて来てくれて、ありがとうございます」

 とアニーが言った。

「嬉しいです」


「ほら、喜んでるじゃねぇーか」

 とチェルシーが言う。


「お世辞に決まってるでしょ」とミナミ。


「うるせぇー。お前には一生、獲物のプレゼントはしねぇーからな」


「いらないわよ」とミナミ。


「俺もいらねぇー。毎年、ネズミの死体を渡されても困るんだよ」

 と俺が言った。


「俺は貰ったことがない。でもいらない」とバラン。


 チェルシーがポカンと口を開けて呆然としていた。


「お前等には絶対にやらねぇー。その分、アニーにやるからな」


「……ごめんなさい。……私もいりません。ネズミちゃんが可哀想です」


「……嘘だろう」

 甲子園で負けた高校球児のように膝を床につけてチェルシーが落ち込んだ。

 

「それじゃあ食事を用意してくれ」

 と俺はメイドに指示を出した。


「ちょっと待て。小次郎のプレゼントは? お前のプレゼントを見て笑ってやる」

 とチェルシー。


「俺は後で渡す予定なんだ」


「今、渡せ」とチェルシー。


 正直に言うとアニーに何をあげるか決まっていなかった。

 アイテムボックスには大量にモノが入っている。その中からプレゼントするつもりだったけど、すでにアクセサリー類はプレゼントしているし、って考えると何をあげていいのかわからなかった。


「チェルシー様」とアニーが言った。「ココでは貰えないモノを小次郎様に貰うんです」


 俺は何を渡すんだよ?


「何を渡すんだよ」とチェルシーも同じことを口にしていた。


 ミナミがチェルシーの耳元にコチョコチョと何かを言った。


「あぁあぁ」とチェルシーも頷く。「アニーも女ってわけか」


 俺は何を渡すんだよ? マジで。



 それから料理が運ばれて来て、最後にはケーキも出されてお腹がパンパンになった。

「誕生日って美味しいな」とナナナは満足そうだった。


 料理を食べ終わって部屋に戻った。

 俺は困っていた。

 これからアニーが来るけど、何をプレゼントしていいのかわからなかった。

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