第10話 NO MORE 映画泥棒

 自分の街に戻る前に俺はエルフの村に結界を張り直した。

 今の俺はレベルが上がっている。結界のレベルだって上がっているのだ。

 それに結界を重ねかけして強度をあげるつもりだった。


 まず認識阻害の結界を張る。

 これを張ることで、この場所にエルフの村があることを誰にも気づかせない。

 お客さん、こんなもんじゃないですぜ。これもサービスしまっせ。

 次に張ったのは天災から村を守る結界である。普通の雨なら結界を通すけど災害級の豪雨なら村に入って来ない。

 地面の中にも結界を張った。震災が来た時……震災ってこの世界にあるんだろうか? 念のため震災や大きな揺れ、地割れを防ぐ結界も地面に張った。

 そして次は防御する結界。

 魔法や打撃から守る結界も張った。

 これで魔王がやって来ても、この村を破壊することはできないだろう。


 結界を張り終わると、通常の大きさに戻ったケンタウルスから話を聞いた。

 なぜ巨人になったのか? 


 ケンタウルスは他の魔物の被害に合っていたらしい。

 巨大なミノタウルスが森を荒らしていたらしいのだ。ミノタウルスというのは斧を持った巨大な二足歩行の牛みたいな奴である。


 ケンタウルス達は手も足も出なかった。

 大切な自分達の森を捨てようと思っていた時に、紳士風の男がやって来た。

 ソイツが見たこともない実をケンタウルス達に渡したらしい。それを食べれば巨大になり、森を荒らしているミノタウルスをやっつけることができますぜグヘヘへへへ、みたいな事を言って大量に謎の実を置いて行ったらしい。


 絶対に食べたアカンやつや。←関西弁になってしまうほど、わかりやすい危険な実を食べたケンタウルスは理性が吹っ飛んで巨大化。


 ミノタウルスVSケンタウルスの巨大怪獣決戦が行われた。

 初めは1体のケンタウルスが巨大化しただけだったけど、戦局がやばくなって、「俺も謎の実を食べて参戦するぜ」って奴が登場。


 最終的に3体の巨大ケンタウルスでミノタウルスを倒したとさ。めでたし、めでたし。……とは、いかなかった。


 巨大になったはいいけど、元に戻らんがな。←ストーリーラインが見えて関西弁になっております。


 しかも巨大になったケンタウルスは凶暴になっていた。

 ミノタウルスの時は1体だったけど、今は巨大化した魔物が3体も増えている。

 これ状況悪くなったんじゃねぇ?

 

 巨大化した仲間を倒すために、別の奴が巨大化。

 

 話聞いてたらマジでバカじゃん、と思ったけど彼らはいたって真剣だった。仕方がないのだ。

 森の中で自分達の種族だけで生きていたのだ。だまされる、という感覚を持っていないのだ。


 巨大化の連鎖は続き、気づいたら全員が巨大化していたらしい。

 

「その紳士風の男を捕まえないといけないな」と俺は呟いた。

 何者なんだろう? 何をしたいんだろう? ソイツがミノタウルスも巨大化させたんだろう。


 一応、ケンタウルスの住処にも、エルフと同じ結界を張ってあげた。

 

 そんな事を俺がしている間、アニーは村にいた。

 殺されないのか? 俺の所有物だから大丈夫、と村長は言っていたけど、もしアニーに何かあったら村を消す、と脅している。←こんなこと勇者が言っちゃダメだとわかっているけど、俺も口が悪いところがあるのだ。


 アニーも村で少しやり残したことがある、と言っていたので、そのまま村に残して来た。

 ちなみにアニーには防御魔法をかけている。俺の防御魔法を破れる奴は、このエルフの村にはいないだろう。


 それでケンタウルスの住処から帰って来るとアニーを連れて街に戻った。

 エルフの復旧は手伝わなかった。

 俺がエルフの村にやってあげたのは結界を張り直したぐらいである。……そう言えば瓦礫も退かした。

 村人達は復旧の手を止め、俺達を見送った。




 我が家に戻って来る。

 俺達は馬車から降り、ユニコーンに礼を言った。


「おいおい」と何者かが声をかけてきた。

「お前、その性奴隷を森に帰すじゃなかったのか?」

 どこからか声がするけど姿が見えない。

「誰もいない。声だけがする。俺の幻聴か?」

「下向けよ」

 下を向くと、そこにはチェルシーがいた。

 わぁーーーー、と驚いて、後ろにひっくり返る。

 本当は気づいていましたよ。わざとです。


 へへへへへ、とチェルシーが笑う。「お前、最高だな。へへへへ。俺、身長低いからな。気づかなかったのか。へへへへ。マジで最高」

 チェルシーはこんなことで笑ってくれる猫である。


「それで、なんでその性奴隷を連れて帰って来たんだよ」

 犬と文字が書かれたTシャツを着ている二足歩行の猫が言う。

「もしかしてヤッたら情が移ったのか?」とチェルシーが言って腰を振った。

 俺はチェルシーの尻を叩く。

「下品なことをするな」


 若干、アニーが引いている。


 俺はズッコケたついでに胡座をかいて、チェルシーと視線を合わせた。


「俺の頭を触れ」

「ヤダよ。なんで触わんねぇーといけねぇーんだよ」

「アイツ等に説明するのが邪魔くせぇーからに決まってるだろうが」

「自分でしろよ。鼻の下にある穴はお喋りするためのモノじゃねぇーのかよ。それともなにか? おっぱいを吸うためだけにあるのか?」

「いいから触れ」

 俺はチェルシーの可愛らしい肉球が付いた手を握った。


 嫌だ、嫌だ、とチェルシーが拒んだけど、俺はチェルシーの肉球を頭に当てた。


「はぁ」とチェルシーが溜息。

 これで俺の記憶をチェルシーが読み取ったわけだ。

 チェルシーの特殊能力である。本当は戦闘で相手の弱点を探すことに使う。

 だけど今では奴隷商を探したり、奴隷を購入した人を探したりする時に使っている。


「お前は可哀想な奴を集める製造機なのかよ」

「製造機? 俺、機械じゃないけど」

「バランみたいな事を言うんじゃねぇーよ」


 チェ、とチェルシーが舌打ち。

 そしてアニーに視線を移す。


「俺の名前はチェルシー。コイツの保護者っていうか、産みの親だな」

 いきなり嘘を付き始めた。

 誰が産みの親だって?


「俺、猫に産んでもらった記憶がねぇーよ。それにお前、まだ12歳だろう。しかもオスだろう。俺からしたらお前はガキなんだよ」

 猫の12歳は年老いているけど、チェルシーは改造猫なのだ。何歳生きるかはわかんねぇーけど明らかに他の猫と歳の取り方が違う。


「コイツの奴隷ならお前は俺の奴隷でもあるってわけだ。後で俺の部屋に来い。存分に俺の肉球で可愛がってやる。なんだったら俺の肉球をプニョプニョさせてやる。頭から尻尾まで触わらせてやる。後は首も触らせてやる。お前の手が疲れるまで撫でさせてやる」


「……アニーと言います」


「知ってるぜ。アニー。俺はコイツの記憶を読み取ったんだ」


「記憶?」


「あぁ、この化け猫は記憶を読み取る能力を持っているんだ」


「それだけじゃねぇーぞ。映画みたいに投影できるんだぞ」

 とチェルシーが言った。

 この世界に映画は存在しない。

 だけどチェルシーは俺の過去を読み取っているから、日本のことを知っている。だから俺しか知らない単語を化け猫は使うのだ。


「えいが?」とアニーが首を傾げる。


「みんなで映像を共有することだよ」と俺が言う。

 アニーが首を傾げている。

「後でわかる」と俺は言った。



 執事であるセドリッグが玄関の扉を開けてくれた。

 セドリッグはザ・老紳士である。

 故郷に帰しに行ったはずのアニーが、また戻って帰って来たことに1ミリも驚かなかった。


「お帰りなさいご主人様」

 とセドリッグが頭を下げる。

「今日からこの子はウチの子だ」と俺は言う。

「セドリッグ、相談がある。後で俺の部屋まで来てくれ」

 と俺は言った。


 彼女の教育について彼と相談しながら決めていこうと思っていた。

 この世界のリベラルアーツを俺は彼から教えてもらった。リベラルアーツというのは教養のことである。

 アニーの先生はセドリッグになってもらうつもりだった。

 

 それとセドリッグには他にも相談したい事もある。俺が奴隷を禁止しているのに、奴隷を所有しているのは不都合だった。

 だから他に契約がないのか? その事もセドリッグに相談したかった。 


「とりあえず、みんなを集めてリビングに来てくれ」と俺は言った。

 説明の義務が俺にはある。

 アニーのことについて、パーティーメンバーやメイド達に説明しなければいけなかった。


「かしこまりました」

 とセドリッグが言う。


 俺はアニーを連れて、リビングに入った。



「おい、コイツ性奴隷を連れて帰って来てやがった。ヤッたら情でも移ったのか?」

 グハハハ、とソファーに座っていた丸ハゲのバランが爆笑する。


「バカはこうなるんだよ」とチェルシーが言う。

 お前も同じことを言っていた気がする。


「コイツは仕事してねぇーのか?」と俺は首を傾げた。


「運悪く、今帰って来たんだよ。このバカは」

 とチェルシーが言った。


「誰がバカなんだよ?」とバラン。


「お前のことだよ」とチェルシー。


「俺のことだったのか? バカって言うから、別の誰かがこの部屋にいると思ったじゃねぇーか。俺の名前はバランだ。覚えやがれ」


「ミナミは?」

 と俺はバランを無視してチェルシーに尋ねた。


「書斎で仕事してる」と猫が言う。


 近くにいたメイドに頼んで、ミナミもリビングに来てもらうように指示を出した。



「なんで、粗大ゴミがココにあるの?」

 とミナミがアニーを見て言った。


 アニーが俺の後ろに隠れた。


「ごめんな、アニー」とチェルシーが言う。「みんな口が悪いけど、決して悪い奴じゃないんだぜ。でも女の嫉妬は怖いぜ。怖すぎるぜ」


「なによ」とミナミがチェルシーに言う。


「うわぁー。怖っ。そんなに小次郎が好きなら告白しろよ」


「別に私は小次郎のこと好きじゃないし」


「それじゃあ別に新しい女の子がウチに来てもいいじゃないか」


 ふん、とミナミが鼻を鳴らして、不機嫌そうにそっぽを向いた。


 元勇者パーティーメンバー。それに5人のメイド。それと執事がリビングに集まった。


「全員集まったな」

 と俺は言う。


「この子はウチの子になる」と俺は言った。

 奴隷、という言葉は使いたくなかった。

 だからウチの子、という言葉を使った。


「詳しくはチェルシーに記憶を読み取ってもらっているから、みんなで見て欲しい」

 

 俺はチェルシーを見る。


「はいはい」

 とチェルシーが言う。


「電気を消してくれ。みんなポップコーンは持ったか? 結構な長時間だから気を使わずに座ってくれ。椅子は他の部屋から持って来てくれてもかまわない。床に座ってもいいぞ。それと劇場内での映画の撮影・録音は犯罪だからな。不審な行為を見かけたら俺が鋭い爪で顔面をひっかるぞ。NO MORE 映画泥棒」

 日本の映画館で映画が上映される前に出る動画みたいな事をチェルシーが言っている。

 俺の記憶を読み取ってパロディーをしているのだろう。

 そのパロディー俺しかわからんぞ。


 そしてチェルシーは目玉を光らせて、壁に俺の記憶を映し出した。

 彼の目玉はプロジェクターになっているのだ。

 娯楽が少ない異世界である。

 みんなウキウキしながら俺の記憶を見始めた。

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