第9話 性奴隷を飼うことにした
巨大なケンタウルスを倒すために俺は飛んだ。
壁画のような巨大な顔面を俺は蹴る。
遠心力で投げ飛ばされたようにケンタウルスが飛んで行く。
俺の攻撃を食らったケンタウルスはスモールライトを浴びたように小さくなっていく。
ケンタウルスは巨大化しているだけだったらしい。
巨大化しているだけ、って何だよ。意味がわかんねぇーよ。
日本にいた頃に流行っていたゲームのように巨大化システムが導入されたのか? ちなみに、そのゲームで巨大化できるのは小さなボールの中に収まる伸縮性があるモンスターだった。だから大きくなることへの辻褄が合っている。
この世界の魔物達も伸縮性があるんだろうか? 聞いたことがない。
温厚なケンタウルスが自分達で巨大化してエルフの村を襲ったとは考えにくい。
それじゃあ誰かが何のために魔物を巨大化させたのか?
ケンタウルスを殺さないように強い魔法や剣は使わず、パンチやキックで全て倒した。
俺の知らないところで悪者が暗躍していることへの不安。それに奴隷少女をどうすべきかの対処も残っている。
エルフの村は半壊していた。
木で作られた家々は崩れ、何人かのエルフは生き埋めになっていた。
俺は結界を張って守っていた奴隷少女の元へ行った。
瓦礫の山を退けると結界に守られた3人のエルフ達が現れた。
殺そうとしていた少女に庇われるような形で少年達は抱きしめられていた。
3人が俺に気づいて顔を上げた。
結界を解除する。
3人は立ち上がり、半壊になった村を呆然と眺めた。
少女の耳がピクピクと動いた。
そして彼女は瓦礫の上を転びながら走り、ある場所で止まった。
奴隷少女は瓦礫を退かし始めた。
気配察知で瓦礫の下にエルフが生き埋めになっていることはわかった。
でも少女にとっては憎いはずの村人だった。さっきまで殺されかけていたのだ。いや、彼女は村人の前で自殺しようとしていたのか。
2人の少年も瓦礫に埋もれているエルフを察知して、瓦礫を退かし始めていた。
俺は少女の元へ向かった。
「お前を殺そうとしたんだぞ。この村の住人を助ける義理はないんじゃないか?」
と俺は言った。
この子には必死になって村人を助ける義理が無いのだ。
「……助けてください」
俺に対して沈黙し続けた彼女の初めての言葉は、自分の死を願う村人への救済だった。
言葉を口にしなければ俺が助けてくれないと思ったんだろうか?
「助けてください」
もう一度、彼女は言った。
彼女はグショグショの顔で俺を見つめ、すがるようにお願いしてきた。
少女の泣き顔が可愛らしく、俺は彼女の表情を見つめてしまった。彼女の泣き顔を一枚の絵にしてルーブル美術館に飾ってほしい。彼女の泣き顔を一枚の絵にして本の表紙にして売り出してほしい。
でも、それができないから俺は脳内で彼女の顔を記憶した。
女の子のお願いを俺が無視する訳がなかった。そもそも初めから村人達を助けるつもりだったのだ。
グラビデの魔法を使って瓦礫を一気に軽くする。グラビデというのは重力を操る魔法である。イメージは瓦礫を羽のように軽くするイメージ。
そこに風魔法を使って極限まで軽くなった瓦礫に風を送り、邪魔にならないところに飛ばす。
すると瓦礫は排除され、生き埋めになった人だけが残る。
そして助けた人には回復魔法をしてあげた。魔法はイメージや気持ちで使用することができる。回復魔法を出す時は愛が必要だった。
さっきまで奴隷少女を殺そうとしていた村人ではなく、彼女が救おうとした村人だと思うことにした。
彼女が救いたいなら俺も救いたい。
底に沈んだ村人への愛を拾い集め、倒れた人達にまとめて回復魔法をかけた。
「ありがとうございます。勇者様」
頭を深く下げて少女はお礼を言った。
「どういたしまして」と俺が言う。
彼女は顔を上げた。
泣いていたせいもあるだろう。ずいぶんと幼い表情だった。
「私の名前はアニーと言います」
アニー。
俺も今から彼女のことを、そう呼ぼう。
「アニー」と俺は彼女のことを呼ぶ。
「君は今からどうしたい?」
処分されるかわからないけど村に残りたいのか? それとも処分されないようにエルフの村から遠いところで1人で生きたいのか? それとも……。
「……私を勇者様の奴隷にしてください」
と彼女は言った。
「……」
正直に言うと優しくて可愛らしい彼女を俺のそばに置いておきたい、と思ってしまった。
自分の決めたルールを破ってでも俺は彼女がほしかった。
奴隷は買うけど飼わない。
だけど今日から俺は彼女を飼う。
その代わり彼女には約束してほしいことがあった。
「奴隷にしてもいい。その代わり俺と約束してほしいことがある」
「……」
「これから君は綺麗な女性になり、たくさんの幸福を手に入れるんだ」
と俺は言った。
嫌なことがあったのだから、その分以上の幸福を彼女は手にしなくてはいけない。
「幸せになることしか俺は許さない」
しばらく経ってから彼女は小さい声で「……はい」と返事をした。
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