第8話 VSケンタウルス

 ケンタウルスというのは半身半獣の魔物である。

 上半身が人間で、下半身が馬である。

 本来なら人間並に知能があり、森で集落を作り、暮らしている。

 温厚で決して人間に危害は加えない。それどころか人間と共存すらできる種族である。


 でも結界を破壊したケンタウルスはそうではなかった。


 巨大なケンタウルス。今まで聞いたことも見たこともない。

 人間が大きかったら種族が巨人になるように、ケンタウルスが大きくなったら別の種族になるのかもしれない。


 俺達が対峙しているのは、ケンタウルスとは別の何か。


 電波塔ほどのある巨大なケンタウルスが両腕を伸ばし、エルフの家を掴んだ。木で作られたエルフの家は、おもちゃのように簡単に持ち上げられた。

 そしてコチラに向かって家が投げてきた。


 全てがスローモーションに見えた。

 俺の周りにはエルフが集まっている。

 まだ誰も避難できていない。

 エルフ達を守るために結界を張りたい。だけど結界を張るには数秒の時間が必要だった。その時間が今は無かった。

 

 1匹だけなら簡単に対処ができる。

 だけどケンタウルスは集団で行動する生き物である。

 巨大なケンタウルスも同じらしい。

 村を取り囲むように巨大なケンタウルスがコチラを見ている。そして同じように家屋を掴んで投げるモーションに入っていた。


 俺は飛んで来た家屋をファイヤーで灰にした。

 黒いチリが紙吹雪のように降ってきた。それを合図のように集まっていたエルフ達が逃げ惑う。

 恐怖で腰を抜かした数名のエルフを残して、みんなバラけてしまった。


 他のケンタウルス達からも家屋が投げられた。

 四方八方から家屋が飛んで来る。


 ファイヤーで家屋を灰にする。


 クソ。量が多すぎて全てを燃やすのは間に合わん。

 ココから逃げた方が早いか? 


 辺りを見渡す。

 逃げ遅れたエルフを俺は確認した。


 ココに残ったのは3人だけだった。


 俺達を殺そうとした2人の少年。そして黒髪のエルフの少女。


 さっき弓で殺されかけたはずなのに、黒髪のエルフは2人の少年を守るように抱きしめていた。

 どうして彼女は2人の少年を守っているんだろう? 

 逃げた方が早い、と判断した俺は3人を抱えて走った。


 家屋が地面に落ちて破壊する。


 この村には安全な場所は無い。

 でもエルフの少年少女を抱えて戦うこともできない。


 3人を降ろす。

 少年は震える声で言っていた。

「怖いよ。アニー」

 少女を殺そうとしていたはずの少年が、少女に助けを求めて震えていた。

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