第3話 元勇者パーティー
「それで、その汚ねぇ娘は何なんだよ」
とチェルシーが言った。
家に帰る途中。性奴隷として売られていた女の子の腕を掴んで歩いているところに、元勇者パーティーのメンバーであるマスコットキャラクターが現れた。
現れた、っいうか、俺が念話で呼び出した。念話ってめっちゃ便利。携帯電話が無くても脳内で電話ができるみたいなもんである。
マスコットキャラクターと表した通り、チェルシーは可愛い。
もともと喋ることができない野良猫だった。
悪い奴が野良猫を改造して最強の動物を作ろうとしたのがチェルシーである。
つまり可愛い殺人鬼である。
俺が異世界にやって来て、初期に戦って仲間になった猫である。
今は二足歩行で日本語で犬と書かれたTシャツを着ている。
チェルシー曰く、日本語マジでナウいらしい。それに犬という文字を選ぶあたり、チェルシーの捻くれを示している。
「お前さ、そんなに汚い娘を買ってどうするつもりなの? 性奴隷を飼うってことは朝から晩までウッヒョーってことか?」
チェルシーが腰を振る動きをする。
俺は軽く頭を蹴る。
「聖人君主様は性奴隷を飼っても手も出さねぇーのか? ご立派だこと。もう憧れちゃう。カッコいい、魔王との戦いでティンポコを切られたみたい」
俺はチェルシーの頭をド突く。
俺達は今、街を歩いている。
みんな領主である俺に手を振ってくれたりしている。
だからゼロ円スマイルを見せながら俺は手を振り返していた。
でも隣を歩く女の子を見て、みんな顔をしかめていた。
「なんかプンプンと臭うんですけど」とチェルシーが鼻を摘む。
「俺の嗅覚は人間の3億倍なんだぜ。犬はつらいぜ」
「チェルシーは猫だろう」と俺が言う。
「おい、そこの女。聞いているのか? お前のせいで鼻が曲がりそうなんだよ」
「……」
「宮本小次郎の隣に歩きたかったら綺麗なお姉ちゃんになれよ。こんなゴミクズでも元勇者で今は特別公爵なんだぞ。この街の領主様なんだぞ。お前みたいな汚いクソガキが隣を歩けると思うなよ」と猫。
「いいかげんに黙れよ」と俺が言った。
「ほらクセェ〜ガキのせいで俺が怒られたじゃねぇーか」
「黙ってくれ」と俺は溜息をついた。
「へいへい。それより特別公爵の特別ってなんだよ。へへへへへ。特別って。ハハハ。超笑える。世界を救ったのに、特別だってさ」
思わず俺はチェルシーの頭をグーで殴った。
「暴力反対」
と猫が大声を出す。
「元勇者が猫を殴っていいんですか? 動物虐待じゃないですか?」
「俺は暴力でのし上がったんだよ」
「そうだった。コイツ、暴力マスターだったわ」
「いい加減に仕事の依頼していいか?」
「猫遣いが荒い奴め。それで何だよ? 言うな。要件はわかってる。当てていいか? 性奴隷を隣に連れて歩いているってことは、そういう事だよな? わかった。もうわかったよ。お前のティンポコを俺が洗えばいいんだな」とチェルシーが言った。
「なんで俺がお前にティンポコを洗ってもらわなくちゃいけねぇーんだよ」
「違うのか? 名探偵の俺が推理を外すとは……もう俺も焼きが回ったのかもしれねぇー。仕事を引退して隠居でもするか。野良猫でハーレムでも作るか。それも飽きたしな。獣人の子とヤルか。いや、体格があわねぇーわ。つーか、いつになったら獣人差別が無くなるんだよ。お前ちゃんと仕事してるのか?」
とチェルシーが言って俺の足を蹴った。
「話を逸らすな。今はお前に仕事を依頼したい」
「わかった。仕事の依頼だな。それで何だよ。言うな。要件はわかってる」
とチェルシー。
また推理が始まろうとしている。
だから推理が始まる前に俺は依頼を口にした。
「要件は奴隷商から奴隷を購入した人物を洗い出して、新しい契約書を上書きすること」と俺が言う。
「チェ」と猫が舌打ちした。「いつものしょーもねぇー依頼か」
「お前にしかできない」と俺が言う。
「俺のことを何だと思ってる。俺は元勇者パーティーのチェルシー様だぞ」
「知ってるわ。俺がその勇者なんだから」
「勇者なら何でも言っていいのかよ。汚い大人になっちまったな」
と猫が顔をしかめて言った。
「チェルシーのスキルが役に立つんだよ」
「わかったわかった。報酬はたんまり頼むぜ。それとさっきも言ったけど早く獣人差別を無くすように仕事しろよ」
「差別を無くすのは難しいんだよ」と俺が溜息をつく。
そんなに簡単に差別撤廃できたら、すぐにでもしている。
俺の街にも差別はある。獣人差別。この街に俺は獣人を受け入れていた。だけど元々人間を襲って殺して金品を取っていた種族なのだ。差別を撤廃するように動いていても根付いた差別意識を払拭するのは難しい。
「それと今日の晩御飯は豪華な骨つき肉で頼む」
そう言って、チェルシーが警察署に向かって走り出す。
処刑されるまで奴隷商は警察署が預かっているのだ。
「悪い奴じゃないんだ」と俺は言った。「ただ少しだけ口が悪いだけなんだよ」
木や葉で作られたエルフの民族衣装はボロボロで、やっぱりチェルシーが言うように臭う。何日もお風呂に入れられていなかったせいだろう。
年齢はわからないけど、めちゃくちゃ若いと思う。
挙動というか、メンタリティーというか、もう全てに幼いオーラーが全快である。
長寿であるエルフの年齢は、見た目ではわかりにくい。
だけど、この子はもしかして10代かも。
ショックで喋れなくなっているみたいだし。
出来れば親の元に帰してあげたい。
家に到着。
自分で言うのも何だけど、すごい豪邸。
ザ・貴族の館。
「この子をお風呂に入れてくれ」
と俺はメイドに言った。
メイドと言っても、可愛らしい女の子のメイドじゃなくて、メイド歴20年のベテランメイドである。
若い子よりベテランさんの方が気遣いも細かくて俺は重宝しているのだ。
うちには5人のメイドと1人の執事がいる。
メイドと執事の違いは、あれっす。男女の違いって訳じゃなく、執事が家事を監督する人のことを示す。つまり執事というのは宮本家の家事部の部長なのだ。
みんなベテランである。
「お風呂はミナミ様が入ってらっしゃいます」
とメイドが言った。
ミナミ、というのは元パーティーメンバーの1人で、唯一の女である。
「それじゃあ、その次に入れてくれ」
「なんだよ。その汚いねぇーちゃんは?」
と声が聞こえた。
バランという大男である。なぜか上半身が裸だった。
ドワーフのくせに、魔王軍に家族が殺されたストレスで髪が全て抜けて、ヒゲも無い。
出来る限り口が悪い元パーティーメンバーのことは割愛していきたいんだけど、今も一緒に住んでいるから登場してしまうのだ。
「奴隷で売られてた子だよ」と俺は言った。
「また性奴隷を買ったのかよ。お盛んだな」とバラン。
「街の外の魔物は退治したのかよ?」
と俺は尋ねた。
今のコイツの仕事は街に入って来そうな魔物を退治することである。
「しましたよ。親分さん」とバラン。
「その岩のように邪魔な尻を退けてほしい。この子をソファーに座らせたい」と俺が言う。
「俺の尻は岩じゃない」とバランが怒った。
「のように、って言っただろう。比喩だよ」
「触ってみろよ。ちゃんと肉感がある尻だ。岩じゃない」
「わかってるよ。だから比喩だよ。わかるか? 比喩って」
「ちゃんとココからウンポコも出るんだ。岩じゃない」
「わかってる」と俺が言う。
エルフの女の子に俺は向き直った。
「ごめん。悪い奴じゃないんだ。どうぞお座り」
と俺は言って、ソファーを手で示す。
「オォエーー」とバランが吐くフリをした。
吐きそうなほどエルフの女の子は臭くないぞ。
ちょっと汗臭いスエた臭いと、木の香りが混じっているような臭いがするだけである。
「失礼だろう」と俺がキレる。
「ちょっと想像しちまったんだ。奴隷って、性奴隷として売られていたんだろう? つーことは抱くんだろう? 俺がこの子を抱いている姿を想像してしまったんだ」とバランが言った。
とんでもねぇー失礼な奴だなコイツ。
「バランには抱かせねぇーよ」
「いや、頼まれても抱かねぇーよ。想像しただけで吐き気がする。俺は口髭が生えそろった女の子しか抱けねぇー。こんなツルペタな汚い子とヤってるのを想像しただけで、ティンポコがポロリと落ちてしまう」
ヒゲが生えそろった女しか抱けない方が俺にとっては変な性癖に思えるんだけど。
失礼なことを言われて、エルフの女の子が萎縮していた。
「大丈夫だ。お前の体は誰も求めてねぇー」
とバランが言う。
「それもそれで失礼だな。もう喋るな」
と俺が言った。
「その粗大ゴミは?」
と女性の声が聞こえた。
振り向くとボンキュボンのナイスバディーな女だった。普段は髪をポニーテールで結んでる。だけど今は風呂上がりで肩まである濡れた髪をタオルで乾かしていた。
風呂上がりで髪が濡れているのに、女性用のフォーマルなスーツを着ている。
冒険者だった頃は戦士風ファッションだったけど、外交の仕事をするようになってスーツを着るようになった。隣国では昔から女性用スーツがあったらしい。
彼女の仕事は、現代の日本的な言い方をするなら企業に、うちの街で働いた方が儲かりまっせ、と交渉するのが仕事である。
キャリアウーマン的な女性がミナミだった。
クソ猫、ハゲのドワーフ、キャリアウーマン、それと俺を含めた4人のパーティーで魔王を倒したのだ。
これで元勇者パーティーメンバーは全員紹介できたわけだ。
ちなみにミナミが粗大ゴミ、と言っているのはエルフの女の子のことらしい。
どいつもこいつも口が悪い。
マジで口を閉じろよ。
「性奴隷を買って来たんだって」
とバランが笑いながら言う。
「今日はこのねぇちゃんとバコンバコンやるみたいだぜ。グハハハハハ」
とハゲのドワーフは言って、お腹を揺らして笑った。
ミナミがイライライした目でコチラを睨んでいる。
このパターン何回やるんだよ。
今までも奴隷の子を買っても、何もせずに家に帰して来ただろう。
奴隷は買うけど、飼わない。
「この子をお風呂に入れて、エルフの村に帰して来る」
と俺は言った。
「グハハハハハ」
とバランが大爆笑。
コイツが笑うと腹が立つ。
「家に帰すだって。髪が黒くなったエルフを、エルフ達は受け入れないのに」
「えっ、そうなのか?」
「それに、エルフが住む森にはすげぇー大きなケンタウルスが住み着いているっていうじゃねぇーか。エルフなんて全員ケンタウルスに殺されてるよ」
巨人のケンタウルスなんて聞いたことない。嘘を付くにしても、マシな嘘を付いてほしい。
エルフの女の子が、ハッとなり、暗い顔をする。
「そう落ち込むな。これから人生は長い。こういう事もある」
とバランが言った。
「コイツの言うことは嘘よ。いいから早くその粗大ゴミを森に放棄して来なさいよ」とミナミが言った。
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