第2話 性奴隷を購入する

 アニーとの出会いを語る前に、軽く公爵の仕事について説明しよう。おじさんは説明したいのである。嘘。俺が何の仕事をしているかについて説明しなくちゃ変な誤解を招きそうだから、これだけは説明させて。


 俺の仕事は政治である。


 これを元パーティーメンバーに説明したところ、急に眠り始めたので、超簡単に噛み砕いて説明させていただきます。

 噛み砕きすぎてゲロ状なので、逆にこれがわからないんだったら、死ぬまで政治の意味がわからないと思う。



 政治というのは、つまり

 この一点である。


 例を言うなら、みんなから税金としてお金を集め、治安を維持するために警察を作るみたいなことをしている訳である。

 警察自体にお金を生み出す機能はない。だけど必要である。だからみんなからお金を集めて補填するのだ。

 他にも税金としてお金を集めて誰かが病気になった時の医療費にしたり、子育て支援金としてお金を分配したりしている。

 子どもは街の宝なのである。次の世代が生まれないと街は機能しなくなる。

 だから次の世代のことを考えてお金を分配しているのだ。


 だけどお金を集めるのは激ムズなのだ。

 領民からお金を取りすぎると、みんなが貧困になってしまって物が売れなくなってしまう。物が売れないとお金が動かない。お金が動かないというのは領民の収入が減ってしまうということである。

 ココまで付いて来ていますか? 俺の説明下手? 

 アナタの仕事が農家だとする。払う税金が多くて、みんなが節約するせいで野菜が売れなくなってしまう。仕事をしても収入は少なくなってしまう。税金を取りすぎると財布の紐が固くなる。財布の紐が固くなると収入まで減ってしまうのである。


 お金は血液なのだ。血管の中を血が回っていかないと人間の体は死んでしまう。

 だから領民に負担をかけると街は活性化されない。


 それじゃあ、どうしたらいいだよドラ◯もん。←急に猫型ロボット頼み。あのロボットがあったらチートなのになぁ。

 の◯太くんはすぐに僕を頼るんだから。わかったよ。チャッチャラーン、法人税。

 ドラ◯もんの道具である法人税を俺は取ったのだ。


 領民の税金を下げるために、俺は法人税を取った。→これはどこの街も国もやっております。俺がやったのは法人税を下げたのだ。


 はい。わかります。みんなの頭がクエスチョンでしょう? 法人税を下げたら納税が落ちるんじゃないか? 納税が落ちたら、その分だけ領民からお金を集めなくちゃいけないんじゃないか? 

 法人税を下げることによって、よその街や国から商人や道具を製造している人達……いわゆる商会と言ったらわかりやすいのかな? 働いている人達を招く。

 この街で働いたら法人税が安くて儲かりまっせ、と商会を誘致しまくる。たくさんの商会がこの街に集まったら法人税が少なくてもお金が集まるというシステムである。集まったお金は街の暮らしがよくなるように補填していく。

 だから住みやすい街になる。

 住みやすくて、仕事が多い街だから、人が集まって賑わう。

 賑わっているからこそ、発展して、また人が集まる。


 まるで手品みたいでしょ。俺って天才。ただの知識です。こんなことをやっていた国があったな、っていうことを覚えていただけです。ごめんなさい天才じゃないです。だてに日本で32年も生きていたわけじゃない。


 でも人が集まれば悪い奴等も集まる。だから俺はルールを作った。細かいルールはいっぱいある。

 基本的に日本がダメにしているモノはダメである。殺人とか強盗とか、その他etc。

 もちろん麻薬と奴隷の販売には重い処罰がある。


 初めは完全に人に任せていた。

 警察を作っていたので治安維持は彼等の仕事だった。だけど彼等も腐る。

 誰かが監視しないと腐ってしまうのだ。腐ったモノは抜き取って捨てなくてはいけない。


 ワイロを受け取った警察が黙認して、麻薬も奴隷の売買も闇ではびこってしまった。

 だから俺はワイロを貰っていた職員を街から追放する。もちろん奴隷や麻薬を取り扱っていた商人達も街から追放して2度と街に入れさせないようにした。


 だけど追放した奴の手引きで、また別の奴が麻薬や奴隷の売買が闇ではびこってしまった。

 儲けるためなら何でもやるという人種がいるのだ。

 だから俺は追放という甘い処罰ではなく、処刑をすることにした。

 麻薬や奴隷を扱う者は処刑。

 ワイロを貰い、それに関与した職員も処刑。

 この街に持ち込ませたくないという意思をハッキリと示さなくてはいけなかった。


 そこから完全に人に任せる、ということはしなくなった。

 最終的には自分の目で確認する。

  

 遠山の金さんみたいに街に出て悪い者がいないか確認するのは不定期にやった。

 遠山の金さんって比喩表現が古いよな。俺だって急に言われたらパッてイメージできないもん。この桜吹雪が目に入らんか、ってやつ。知らんよな。貴族が領民の格好をして下町を歩くみたいな比喩だと思ってください。


 普段の俺の格好は茶色いスーツっぽい姿に腰に剣を突き刺している。結構、気に入っている服装っす。めっちゃカッコイイと自分では思っているんだけど。

 だけどその日は、その格好じゃなかった。

 奴隷を扱う商店があるとタレコミがあったのだ。

 顔と体を変え、←そういう魔法があります。女好きそうなポッチャリ系ジィジィに変身。服装もピノキオに出てくる相棒の紳士風の虫みたいな服装をしている。

 金貨が詰まった革の鞄を持って、タレコミがあった店へゴー。


 店の中は異世界風のコンビニだった。ポーションも服も何でも売っている。

 俺はレジに立つ店主の元へ行った。

 まだ若い。20代前半の商人である。


「ココにアレが置いてあるって聞いて来たんじゃが」

 と俺は言った。


「あれって何でしょう?」と商人が言う。


「わかってるだろう。あまり言葉にさせないでくれ。この街では禁止されているでな」

 紳士風おじさんっぽく喋っているつもりだけど、この喋り方で合ってるかどうかはわからん。


「そんなものはウチで取り扱っておりません」

 そう来るよね。


 俺は〇〇さんの紹介でココに来たことを言う。この〇〇の中には、ここの常連で、奴隷を何度も買っているらしい人物の名前が入る。

 ちなみに奴隷を購入した人物にも処分はある。

 奴隷契約があるため、それを解除しないかぎり奴隷は解放されない。その手続きは俺達には出来ない。出来ないというか、別の契約を上書きして、この条件に反したら奴隷解除にするということしか第三者は出来ないのだ。

 だから奴隷を購入した処分として別の契約をさせるのだ。

 奴隷に性的または暴力的な行為(言語も含む)をしないこと。一般的人間としての衣食住を確保すること。最低賃金以上の給与を出すこと。この契約を破れば奴隷を解除する。←つまり、ただの従業員としてしか奴隷を扱えなくさせるのだ。

 奴隷が解放された場合、帰る家がある子は家に帰してあげた。

 帰るべき家がない子どもは孤児院に連れて行った。

 帰るべき家がない大人の奴隷は職業訓練所に連れて行った。もちろん次の職業につくまで衣食住は確保した。


 常連の〇〇さんの名前が合言葉になったらしく、隠し扉が開かれた。

「こちらでございます」

 と店主が言う。

 俺が宮本小次郎って知ったら、さぞ驚くんだろうな、と思いながら後に付いて行く。


 隠し扉を抜けて、階段を降りて行くと、そこには牢屋があった。

 牢屋は全部で4つ。


「店にこんなところが……」と俺は呟いた。


「この街は奴隷の販売が重い罪になるので、バレたらヤバいのです」

 と商人が言う。


 今、アナタ、バレてますよ。

 3つの牢屋は空だった。


「今日はこの子しかいないんです」


 牢屋を見る。

 黒髪の女の子が三角座りをして泣いていた。


「エルフの女の子です」


「なぜ黒髪?」


「エルフは耳に魔力が宿っているんです。魔力を持っていると扱いにくいので、耳に穴を開けております。耳に穴を開けるとエルフは魔力が消えます。魔力が消えると黒髪になってしまうんです」


 エルフの耳はとんがっているイメージがあるけど、本当のエルフはそんなに耳はとんがっていない。でも耳には魔力が宿っているらしく、耳が負傷したら魔力は抜ける。

 彼女の耳たぶには小指の爪ぐらいの穴が空いていた。


「お風呂に入れてないのか?」

 と俺は尋ねた。


「そんな設備を作りますととバレてしまうので」


「それでも奴隷は、すぐに売れるのか?」


「もちろん。この街には奴隷を飼いたいお金を持った人達がたくさんいますので」


 そうか、と俺は呟いた。


「それで、どうします? この子にしますか? 今日買わないと、この子も売れちゃいますよ」


「……」


「若いから、いい締まりしてますよ。それに長寿のエルフですよ。歳とっても若いままです」


「……」


「明日来てくれたら別の子も入荷してますが」


 この店に明日はない。

 お前に明日はない。


「この子にしよう」


「金貨200枚になります」

 鞄から金貨の詰まった袋を2つ取り出す。袋1つに100枚ずつ金貨が入っている。


「少々、ココでお待ちください」

 店主はさらに奥の部屋に入って行った。

 お金を数え、契約書を持って来るのだろう。

 一応、性奴隷を購入する手続きをする。

 奴隷契約を交わさずに店主を捕まえようとしたことがあった。その時に店主は逃げられるわ、残った奴隷は逃げた店主に奴隷契約を交わされているわ、っでややこしい事があった。

 それ以来、奴隷契約を一度してから奴隷商を捕まえることにしていた。


 店主が茶色い紙を持って戻って来る。

 俺の目の前で紙に書かれた内容を読み上げた。

 エルフの女の子は俺に逆らわない、という内容である。

「ココにサインを」と店主は言って、羽ペンを俺に差し出した。

 契約書には、すでにエルフの女の子のモノであろうサインが書かれていた。

 受け取った羽ペンで、サインした。


 エルフの腕に奴隷の紋章が浮かび上がり、消えた。奴隷契約が交わされた。


「これで、このエルフは貴方様のモノです」


「この街で奴隷の販売は重い処罰になる」

 と俺は言った。


「存じ上げておりますが」


「今、奴隷売買は成立した。お前を逮捕する」

 

 俺は紳士風おじさんから、元の宮本小次郎の姿に戻る。


「えぇぇーーーーーー」

 と半泣きで商人は俺の顔を見る。

 俺の顔には見覚えがあるらしい。


 商人が走って逃げようとした。

 俺は足を引っ掛けて転ばす。

 そして持っていたお手製の頑丈な手錠で店主を拘束した。

 ちなみに店主はココでは処刑しない。奴隷を売った人を全て吐き出してから処刑になる。


 店主のポケットから牢屋の鍵を取り出す。

 そして俺はエルフの女の子が、三角座りをしている牢屋を開けて中に入った。

 何日もお風呂に入っていないおかげで汗の匂いがした。それとエルフ独特の森の香りもした。

 エルフの女の子が顔を上げ、俺を見た。

 その顔には泥が付いて黒く汚れていた。


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