性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
第1章 黒髪のエルフ、アニー
第1話 俺みたいなタイプが異世界に転移するのは間違っている
「なんて美しい女性なんだ」
ため息交じりに誰かが呟いた声が聞こえた。
みんな俺の隣にいる女性を見ている。
俺の隣にいるのは14歳の髪が黒いエルフの女の子である。名前はアニー。肩が見える純白のドレスを着て、宣伝用のポケットテッシュを配るように愛想を振りまいている。
決して結婚式ではない。ただの貴族のパーティーである。元勇者も魔王を討伐した後は貴族のパーティーに出席しないといけないのだ。ちなみに元勇者っていうのは俺のことである。
アニーは、このパーティーにいる女性のなかでダントツで美しい。いや、この国で一番美しいのではないだろうか。いや、もっと言えば世界で一番美しいのではないだろうか。
このパーティーにいる人達は貴族らしいドレスを着て、みんな俺の隣にいる美少女に目を奪われて高級グラスを落としたり、人の足を踏みつけたりしている。
パーティー会場はアニーが美しすぎるせいで大慌てである。
ここにいる人は誰も彼女が性奴隷として売られていたことを知らない。
ここにいる人は誰も彼女が絶望して自殺しようとしていたことを知らない。
もう誰も彼女のことを罵る人はいないだろう。
もう誰も彼女のことを笑う人はいないだろう。
■□■□
いわゆる俺は転移者って奴である。
家族旅行で淡路島にいたはずなのに気づいたら家族と離れて異世界にいた。
一緒にいたはずの4歳の娘と妻はいなくなって見知らぬ土地で冒険がスタート。
そりゃあ妻と娘を探したよ。めちゃくちゃ探しまくった。でも辺りは草原で人の影もなかった。体が裂けるチーズになって死んでしまうぐらいに絶望した。
小説やアニメや漫画の主人公はすぐに異世界転移して来たことに気づくけど俺は気づかなかった。
まず初めに疑ったのはドッキリである。
おいおいマジか。これってモニタリングってヤツですか? TBSもこんなことをするようになったのかよ。素人を拉致って草原に放置って炎上するぞ。
どれだけ経ってもテレビのクルーは来なかった。
水曜日のダウンタウンの方か。
アレなら素人を拉致って放置ってありえそうだもんな。つーか芸人でやれよマジで。
日が暮れて朝が来た。
俺は初日を草原で過ごした。
朝日を見つめながら俺は妻の名前と娘の名前を呼んで泣いていた。
湖があった。
水を覗くと、おぞましい顔が水面に映っていた。
17歳の頃の顔が映っていたのだ。あんなに頑張って生やしたヒゲも綺麗さっぱりなくなって、童貞だったあの頃の初々しいイモさが水面に映っていた。
テレビってこんな特殊メイクもするのかよ。
服を脱いで確認。タルンタルンの32歳の腹ではなく、野球をやっていた頃の腹筋ボコボコの17歳の肉体に戻っている。
「テレビが素人を拉致って17歳の肉体にするわけがねぇー」
だけど異世界に転移したという事実にはなかなかなかなかなかなかなかなか辿りつかなかった。
そもそも小説やアニメや漫画で、異世界転生ものや転移ものが流行っているっていうか、もう1つのジャンルとして確立していることは俺だって知っている。だけど正直にいってソッチの方は疎かった。
俺が好きだったのは舞城王太郎とか乙一とかだったから、転生&転移して俺TUEEEEEEみたいなモノは読んでいなかった。
歩いて歩いて行き着いた街の景色は中世のヨーロッパみたいな感じだった。みんな外人っぽいし、どうやらココは日本じゃねぇー。でも不思議なことに会話が通じる。
金はあるけど日本銀行券は使えねぇー、車の鍵はあるけど車本体はどこにもねぇー、アイホンあるけどWiFiどろこか4Gもねぇー。それにバッテリーも切れそう。
無いものづくしで行き着いた場所は冒険者ギルド。
ココは異世界だ、と俺の冴え冴の頭が思いついた。
異世界っぽい街並み。ゴツゴツのお兄ちゃん達の腰には剣。魔法使いっぽいローブを着た人達の手には杖が握られている。
馬も走っているし、ダチョウに似た生き物←チョ◯ボっぽい生き物も馬車を引いてるし、なんだたったら小さい恐竜も馬車を引いている。
逆にココが異世界じゃなかったら日本のどこだよ? ユニバか? マジでユニバって恐竜リアルだよな。
そんなのいいから帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰って娘をギュッと抱きしめたい。
別に俺はチートスキルとかほしくないし、俺TUEEEEEとかしたくない。
俺って転移するようなタイプの人間じゃなくねぇ?
そもそもまだチートスキルを手にした訳ではないけど、……でも明らかに俺みたいなタイプが異世界に転移するのは間違っている。
俺、異世界に来ても全然嬉しくないんだけど……。
それで冒険者ギルドに行った流れで冒険者登録する。
その時に職業適正みたいなモノを測られた。
水晶みたいな物に手をかざし、自分が何に適した職業なのかを測るのだ。
俺が手をかざした瞬間、水晶が眩い光を放った。ギルド職員達は驚き、ギルドにいたゴテゴテの冒険者達は光に驚いて腰を抜かしていた。
「職業、勇者」
と受付のお姉さんが呟いた。
木で作られたカウンターの奥。別のお姉さんが慌てて、「王都に連絡をします」と言って、手紙を書き始めた。
電話ねぇーのかよ。
「宮本小次郎様」
と受付のお姉さん。
俺の名前は
「はい」と俺は返事をした。
「貴方の職業は勇者でございます。これから貴方は王様に会いに王都に行ってもらいます」
「それよりお腹が空いているんだけど」と俺は言った。
それから俺は王様に会いに行って魔王を倒す命令を受けた。
その時にはっきりと思った。魔王を倒したら、この異世界から日本に帰れるんじゃねぇ? 別に俺TUEEEEEをやりたい訳じゃない。
だから現実の日本に帰るために俺は頑張った。
一年ぐらいで魔王を倒した。
だけど俺は日本に帰ることはできなかった。
そう言えば誰も魔王を倒したら日本に帰れるよ、なんて言っていないのだ。
日本に帰れず、魔王討伐という目的も無くなった俺はこの世界に普通に生きることになった。
ちなみに魔王討伐したことで報酬として特別公爵の称号と領地を与えられた。
特別公爵は子孫に称号を与えることはできないらしい。
俺の代で公爵の称号は終わり。
別に異世界で子どもを作る気はないけど。
俺が貰った領地は、俺が死んだら国に返却しなくてはいけないらしい。
なんだかんだで異世界に来て、もう10年が経とうとしている。
異世界に慣れてきていた。
それが俺には無性に寂しかった。日本に家族を置いて来ているのだ。
それでも特別公爵としての日常は続く。
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