Suelo

「……っし、今回もやっぱり」


 男たちの炎は毎回地面へと落ちている。


 俺の力はあくまで『逃げるための力』であって、『攻撃を落とす力』ではない。


 なのに地面に落ちるということは、同じ時を繰り返しているか……精神魔法をかけているやつにとって落ちる以外が不都合ということだ。


「さてさて、地面には何があるか……エス、見といてくれ」


「わかっ、た」


 大男たちはエスへ襲いかかろうとする……が


「させねぇよ!」


 使える魔法は少ない。初級の魔法と少しの中級魔法。そして、Runaway・Dreamだけだ。


「それでも……やらなきゃ、やられるんだよッ!」


 勝つには、Runaway・Dreamを駆使……逃げながら戦うのが一番だ。しかし、相手は二人。逃げていたら片方が追ってきて、もう片方が……ん?


 ここでもう一つ疑問が浮かぶ。何故一回目、大男は二人共追ってきた?


 馬鹿だからという一言で終わるかもしれないが、こういう細かいところに脱出の糸口があふかもしれない。


「たしか、二人がかりで倒して、その後追おうとしていたな……」


 二人である必要性は?これは必ず二人でないといけなかったのか?この二人が繰り返しの犯人か?


 戦いながら思考する。


 二人で追いかけてきた理由として思いつくものは


『馬鹿だったから


 一人では無理な自信があったから


 二人でないと意味がないから』


 取り敢えず思いつくのはこれぐらいだ。


 馬鹿は置いといて、一人では無理な自信は多分無いだろう。


 確かに二人がかりで魔法も使っているのにエスに追いつけなかったことを煽ったが、それで釣られるということは自分の実力にある程度自信を持っているということだ。


 それに、実力を煽られて釣られたのに後に二人がかりというのは矛盾しているように感じる。


「っ……にしても、炎だけと思ったらちゃんと魔法使うんだな。見た目はただのチンピラなのに」


「!これ、は……!」


「エス?なにか見つけたのか?」


「汚れ、た人形、が!あった!」


 ……その人形に炎が当たったからこれが始まったのか?だとすると、人形を綺麗にしないといけないが……


「それを持って逃げるぞ、エス」


「う、ん!」


「あっ!おい!!」


「待ちやがれ!」


 後ろから迫る炎は……建物の壁へとぶつかった。


「この人形を掘り当てたら、炎の軌道も変わった……。地面に当たる必要性がなくなったからか」






「さて、あと数メートルでまた戻るわけだが……」


「ど、うやってなお、す?」


「この周りにある水場は川だけだ。しかし、川できれいにしようにもあいつらにおいかけられる……」


 あぁ、こういうとき本当に逃げたくなる。


 ……あれ、前にもこんな風に逃げたくなったことがあった気がするけど、何だっけ。


「とり、あえず初級のみ、ず魔法できれ、いにしよう」


「ん?あぁ、そうだな」


 エスに話しかけられ、さっきまで考えてたことなんか忘れてしまった。


「きゃあっ!!」


「うわぁ!」


 人形を洗っていると、急に首が取れた。いや、正確に言うと文字通り首の皮一枚で繋がっている


「こ、これ大丈夫なの?」


「わ、からないよ……」


 その人形は首が取れるだけでなく、首周りに縄の跡が見えてくる。


「……まるで首吊りみたいだな、不気味……だ……」


 首吊り……何だっけ……なにか思い出しそうなのに……。


「だ、いじょうぶ?」


「あ、あぁ、なんか忘れてる気がしてたけど、大したことじゃあないだろ」


「……」


 このあとも10分程度人形を洗ったが、なかなか汚れは落ちなかった。また、首周りの跡のせいか、それは血のようにも見えて、よけいに不気味に感じたのだった。

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