The Dream

「おい、お前ら」


「ああん?うるせえなガキ!今アイツを追いかけてるんだよ!」


「反応まで同じ……どうやら、俺だけ繰り返しているのか」


 やはり、俺への精神魔法なのか?……いや、他の可能性も見てみるべきか。例えば……


「その女の子を俺も追いかけるぜ。あ、捕まえた時には買わせてくれ」


 大男たちは俺を怪しい目で見ながらも「勝手にしろ」と止めはしなかった。


 グダグダな追いかけっこだったので省略するが……結果としては、俺は女の子を捕まえて、1万Gで買った。


「これでなにか変わるなら安いな。変わらなかったら戻ってくるだろうし」


 さて、この女の子に名前でもつけたほうがいいが……。


「……」


「……」


 手入れがされていない茶色の髪に、エメラルドのような目。ところどころに汚れがあるが、それでも可愛いということは伝わってくる。


「ふむ……今から君の名前はエスメラルダ……エスだ」


「……」


 反応は……無し。そりゃ、逃げようとしたのにそれを捕まえた奴に心を開く訳が無い。


「まぁ、取り敢えず家に帰ってみるか」


 俺は川原をチラリと見て、家の方向へと歩く。


「……はぁ」


 予想はしていたが、川原に戻っていた。


「しかし、何故繰り返している……?」


 なにか手がかりでも見つけないと……!


「……だ!……く…い!」


「……いや、待てよ。さっきと同じなら何故アイツらは俺の方へ来る?」


 怒った顔でこっちに走ってくる。


「……まさかっ!」


 俺は後ろを振り向く。するとそこには……


 エスが怯えた表情で立っていた。


~前章 Runaway~


「このエスはどっちだ?俺が助けたやつか?それともまだ助けてないやつか?」


 落ち着け、落ち着いて考えろ。まず、コイツがいる位置は……逃げていたときとは違うッ!


「おいエス!」


「ッ!」


 俺の言葉にも反応している!つまり……


「お前も記憶があるってことか、なるほど。説明する余裕もねぇし、逃げるぞ!」


 手錠がかけられたエスのか細い腕をつかみ、一緒に走る。


「……っ!Runaway・Dream!」


 男たちの炎は地面へと落ちていく。




「はぁ……はぁ……」


「……っ……」


 言葉や表情には出していないが、だいぶ疲れた様子のエス。……今なら、説明ができそうだ。


「いいか、エス。今俺はコレを3回繰り返しているんだ。


 まず1回目はお前を助けるために囮になった。


 2回目は現状打破のために、今のお前……エスを買った。


 そして、3回目がこれだ。お前を買ったことにより、色々と変わっていた……つまり、他にも現状を打破できる行動があるはずだ」


 エスはこちらを見ている。話は聞いてくれているようだ。


「エス、手伝ってくれないか?」


 エスは少し驚いたような顔を見せた(勘違いと言われればそれまでな程に少しだった。もしかしたら、本当に勘違いかもしれない)。


「……い」


「……!い、今なんて言った?」


 エスが喋った!俺に心を開いてくれたのか?


「そ、それが命令なら、し、従います」


 ……どうやら。


 心を開いてもらうにはまだまだ時間がかかるようだ。

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