背信者グレゴリオ・カルバン

シャルルードーブルゴーニュ

1

グレゴリオ・カルバン。

齢は30代の後半に差し掛かっている。

敬虔な男であり、配属先の村人からの信頼も厚い。


あるとき村人の1人がグレゴリオ・カルバンのもとに訪れた。

男は言う”嫁と娘がゴブリンに拉致された!先生どうか助けてください。”

グレゴリオ・カルバンは村人と協力し、ゴブリンの生息する洞窟へと赴いていった。

ゴブリンと村人の戦いが始まった。

グレゴリオ・カルバン達はゴブリンに勝利をし、拉致された村人の妻を見つけたが、娘が見当たらなかった。

グレゴリオ・カルバンはゴブリンを捕縛し、教会で尋問し娘の居場所を吐かせようとした。


「醜悪なゴブリンよ。村人の娘の居場所を吐け」


だがゴブリンはニタニタと笑うだけでいっこうに居場所を吐こうとしない。

グレゴリオ・カルバンはゴブリンの手の爪を剥ぎ取った。

ゴブリンの悲鳴が村の全体に響き渡った。

それでもゴブリンは娘の居場所を吐かなかった。

グレゴリオ・カルバンは2本、3本、そして手足全ての爪を剥いだ。

ゴブリンは鼻水や涙を流し、よだれをたらし、失禁をしながら絶叫してもなお居場所を吐かなかった。


「なぜ村人の娘の居場所を吐かぬ?苦痛の時が長引くだけだぞ」

ゴブリンは言った。

「私は殉教者なのだ」

グレゴリオ・カルバンは理解に苦しんだが、ゴブリンが信仰する土着信仰の影響なのだろうと理解した。

「貴様は殉教者などではない。醜悪で女子供を狙うただの卑怯者だ」

ゴブリンは反論する。

「私は自分の正義を信じてこの場に居る。醜悪というが、悪とは何だ?我らには理解できない」

グレゴリオ・カルバンとゴブリンのやり取りは続き、ゴブリンは一族の延命を条件に村人の娘の居場所を教える提案をし、グレゴリオ・カルバンはこの条件を飲んだ。

村人の娘は無事解放され、ゴブリン達は村が被った損害を賠償するために、一族郎党全てが村所有の奴隷となった。


ある時村長はグレゴリオ・カルバンに依頼をした。

ゴブリン達が反乱するのではないかと心配だ、奴らを従順にしてくれと。

グレゴリオ・カルバンはその依頼を受ける事とした。

まずは神の教えを説く必要があるとグレゴリオ・カルバンは考えた。

彼らは神の教えに反している為に改宗させる必要があった。

改宗をすれば同じ仲間として、村人の気持ちを理解できるため、反乱を起こすはずがない。

だが、ゴブリン達を改宗させる事がうまくいかなかった。

ゴブリン達を改宗させる為に、グレゴリオ・カルバンはゴブリン達の信仰を研究する事にした。

彼らの中に精霊と交信するもの、シャーマンが居てシャーマンの言葉で全ての行いを決めるとの事だ。

シャーマンは幻覚作用のある薬物を摂取し、精霊を自身に憑依させるとの事だ。

憑依された者は常人には理解できぬ言葉を発する傾向があり、踊り狂うような場面もある。

ゴブリン達はシャーマンの言葉を信じるというのだ。

グレゴリオ・カルバンは幻覚作用のある薬物を摂取しながら、ゴブリン達に説法をした。

ゴブリン達は改宗し村人達は安心して生活ができるようになった。


グレゴリオ・カルバンはいつものように説法をしていると、1匹のゴブリンが質問をしてきた。


「悪とはなんですか?」


グレゴリオ・カルバンは答えた。

「悪とは生前の魂が転生先に転生するときに、自身が決める属性の事である。その決めた属性によって種族も決まる」

ゴブリンは精霊のお言葉で回答を聞きたいと言い出した。

グレゴリオ・カルバンは薬物を摂取する前に、予め答えを決めておこうと思った。

ゴブリン達が村人に危害を加えぬようにする言葉を発しようと。

1つ法律を守る事、2つは人を殺さぬこと、3つ盗まぬこと。

だが、この日に限ってグレゴリオ・カルバンは、幻覚作用のある薬物の摂取量をいつもより多めに取ってしまった。

視界がぐるぐると周り、まともに立っていられないような状況が続き、周りから見れば踊りを踊っているようであった。

気が付いた時にはベットに寝ていた。

グレゴリオ・カルバンは記憶が無くなっていた。

周りの者に自分はどうなったのかと、尋ねたところ1人の村人はこう答えた。

「悪とは悪と自覚してその行いを行った者が悪であると」

グレゴリオ・カルバンはこの言葉を残して倒れたと。


説法をするたびにグレゴリオ・カルバンは、幻覚作用のある薬物を摂取し続けた。

ゴブリンは精霊の言葉にしか従わないのでしょうがないのである。

グレゴリオ・カルバンは説教の度に、自信が信仰する聖書の言葉とは違う別の言葉を発してしまう自分に罪の意識を感じていた。

悪しき薬物と分かっていながら、その悪しきものを自覚して使用している自分はまさに”悪”なのではないか?と。


村人は問う。

「生活が厳しいのですどうすれば楽になるのですか?」

グレゴリオ・カルバンは答える、

「よく働き。貯蓄し備えよ」

グレゴリオ・カルバンは頭を抱えた、貯蓄するという事は神の教えに反するではないか!資産を全ての者に分け与えるのが教えであろう!


村長は問う。

「重税に苦しんでいます。どうすれば楽になるのですか?」

グレゴリオ・カルバンは答える

「税で苦しいなら貴族の庇護下から離れるがいい。それで生きていけるならそうするがいい」

グレゴリオ・カルバンは自らが法を軽視して、反逆罪や動乱罪を誘導してしまった。


ゴブリンは問う。

「法や信仰に反したという理由で村人は全員処刑命令を受けました。我々はそれを受け入れるべきですか?」

グレゴリオ・カルバンは答える

「生きて信仰続ける事が神の教えである」


苦しい、苦しい、苦しい。

グレゴリオ・カルバンは生きているのが苦しくなっていた。

何故苦しいのか?己が心に問いただしてみた。

自分が神の教えに反しているからか?

いや違うそうではない。

己が心の内を受け入れないからだろう。


「私は悪だ」


そしてグレゴリオ・カルバンは破門をされ、王都にて裁判を受け斬首刑に処された。


彼の村はまた新たな司祭が配属されたが、村人の生活は日に日に悪くなっていき、ゴブリン達も精霊の言葉を発しない司祭のいう事を聞かなかった。

彼らはグレゴリオ・カルバンの教えを守り生活するようになり、そして皆裕福となり周辺国は真似をするようになっていった。

彼らは同じ教えを共有する者たちで同盟を組み、お互いを支え合って行き独立をした。

血の同盟国永遠連合の誕生である。













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背信者グレゴリオ・カルバン シャルルードーブルゴーニュ @balalaika0604

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