BED OF NAILS

「……って、センパイ、本当にコレで行くつもりですか?」


「何だよ、その不満そうな顔は?」


「えー、だって今どきこんな展開古いですよぉ。今は令和ですよ、令和。これじゃあ昭和のドラマですよ」


「え? そう? ダメ?」


「全然ダメです! だいたい後輩の設定に無理があります。こんな絵に描いたようなステレオタイプな文学少女なんて。どうせセンパイの好みを形にしただけですよね?」


「あ、わかっちゃった?」


「わかりますよ。願望ダダ漏れじゃないですか。今どきこんな楚々とした女の子なんていませんて。絶滅危惧種、いや絶滅してます。それにどうせセンパイのことだから『学年一のかわいい後輩の文学少女は実は幼い頃に生き別れた妹で、彼女からの告白を断ったら今度はおにいちゃんと呼ばれ思わずデレてしまう件について』とかって無駄に長いタイトルつけてるんじゃないですか?」


「……ぐっ、ぐう……」


彼女の的確な指摘に、俺はぐうの音を出すのがやっとだ。


放課後の放送室で俺たちはラジオドラマコンクールに出す作品を練っていた。目の前に座っているのは日焼けした肌にベリーショートがよく似合う後輩。短めのスカートからはカモシカのようなしなやかな脚が伸びている。まぁ簡単に言うと、俺が作ったラジオドラマのヒロインとは対極に位置するような存在だ。

我が校は部活の掛け持ちが出来るようになっている。実は彼女、陸上部にも所属していて短距離では県大会に出場するほどの韋駄天さんである。そんな優秀なアスリートが何故かこの放送部にも所属しているのだ。今日はあいにくの雨模様で陸上部の練習が中止になり、放送部の活動に参加しているというわけ。ついでに言っとくと彼女は俺と同じ中学出身。先月部活終わりに一緒に帰ったら、降りる駅までずっと同じだったことでで発覚した。そういえば俺が中3のとき、全校集会で表彰されてた1コ下の陸上部の子がいたような気がする。

いやはや世間とは狭いものだ。


「まったくセンパイったらひどいなぁ。こんなに可愛い後輩がいるというのに妄想世界を驀進するんだから」


「え? どこに可愛い後輩がいるって? そもそもなぁ、女の子というものは清楚で純情で可憐で控えめで文学が好きで色白で風に揺れる黒く長い髪で、」


「はいはい、そうですねー。センパイはそういう妹が欲しいんでしょ。『おにいちゃん』って可愛い声で呼ばれたいんですよね。ったくラノベばっかり読んでるからそんな拗れた趣味嗜好に走っちゃうんですよー」


「ち、違うぞ。確かに俺には三人も姉貴がいて、いいように使われてるからそのトラウマで可愛い妹が欲しいのかもしれないが、俺は決してそんな……」


「おにいちゃん、ごめんなさい。てへっ」


「お、お前、何を言い出すんだっ! 

お前におにいちゃんと呼ばれる筋合いはない。だいたいそのアニメ声で話すのやめろ!」


「えへへ、ねぇ今日は一緒に帰ろ。ね、おにいちゃん! 私、小さい頃みたいにおにいちゃんと手を繋いで歩きたいな。いいでしょ? おにいちゃん」


「はぁはぁはぁ……」


上目遣いに『おにいちゃん』とアニメ声で連呼された俺は、過呼吸となり、そして意識を失った。

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