二刀流彼女

きひら◇もとむ

TWIST OF FATE

『あ、あのー、その、わ、私、先輩のことが好きです。だ、だから……私と付き合ってください!』


二人きりの放課後の教室。目の前に座った彼女はいつものおっとりした口調からは想像できないくらいの早さで想いを口にした。ギュッと握った手は小さく震えている。そして今にも泣き出しそうな顔を僕に向けている。


恥ずかしさからだろうか、下唇を噛んだ彼女が少し俯くと肩に掛かっていた美しい黒髪がサラサラとすべり落ち、その赤く染まった可憐な顔を隠してゆく。


我が東高文芸部に所属する彼女は無類の本好きだ。学校の休み時間や登下校のバスの中、いつも本を読んでいる。身長152センチと小柄で細身。もともと少々病気がちで家の中で過ごすことが多かったらしい。そのせいかどこか儚さを感じさせる。そんな彼女の肌は透き通るように白くきめ細やか。とても柔らかそうでついつい触れてみたくなる。そして肩まで伸びた美しい黒髪は優雅に風に舞う。

彼女が手にした本のページをめくるたびに揺れる長い髪を指ですくい上げる仕草はまるで映画のワンシーンのように美しい。

『小さい頃からずっと本ばかり読んでたから目が悪くなっちゃって』

と微笑みながら言っていた彼女。

『子どもっぽく見られちゃうので変えてみたんですけど、どうですか? おかしくないですか?』

と眼鏡を大きな黒縁からシルバーフレームに最近変えたばかりだ。

そして僕は知っている。普段から俯きがちで髪と眼鏡とマスクに隠れている彼女の素顔が学年一の美少女であることを。


『先輩の書く物語っていつも素敵で、私大好きです』

嬉しそうに話す彼女はまるで地上に降りた天使のようだ。僕は何度もその笑顔に恋をした。


そんな彼女からの告白。

嬉しくないはずがない。

でも……。


『ごめん』


『えっ?』


『キミの気持ちはすごく嬉しい。でも……』


『でも?』


『うん、えーっと、そう、好きな子がいるんだ。だからキミの気持ちには応えられない』


『嘘! そんなの嘘ですよね。先輩はいつも私に優しく微笑んでくれた。私だけを見ていてくれた。あの笑顔は嘘だったんですか!』


『噓じゃない。キミのことは好きだ。でもそれだけ。それだけなんだ』


『…………』


僕の言葉に彼女は沈黙した。

が、次に発した言葉に今度は僕が息を飲んだ。


『……おにいちゃん』


『えっ!?』


『ほんとは先輩、私のおにいちゃんだからでしょ?』


『お、お前、知ってたのか?』


『私が本当は先輩の妹だからダメなんでしょ? 私はそんなのやだよ。だっておにいちゃんのこと大好きなんだもん』


彼女はそう言うと僕に抱きついた。美しい黒髪が大きく揺れた。

そして、抑えていたはずの僕の心も大きく揺れた。

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