第32話 ラストサマーデイズ 後編


 「う、うーん!」

 

 いつも通りの時間に目が覚めた。

 ベッドから降りようと布団を捲ろうとしたけどいつもより重く感じた。

 それもそのはず、ベッドには私の他に……


 「うへへへっ、レイくぅーん……」


 体をくの字に曲げながら夢の中から帰ってこない杏子さんがいるからだ

 昨日は私と杏子さんだけの女子会(杏子さん命名)が夜中まで行われていた。

 話の内容については……


 「うぅ……」


 思い出すだけで顔が真っ赤になってしまう内容だった。


 最初はこの部屋で用意したクッションに座りながら話していたが、いつの間にかベッドで横になりながら

話をしていた。そして本人たちも気づかないうちに寝てしまったようだ。


 起こすために杏子さんの体を何度か揺らすが、起きる気配は全くなかった。

 仕方なく、部屋をでて身支度をする。


 「奏真さん、ちゃんと寝たかなあ……」


 着替えを終えて、奏真さんを起こすために彼の部屋に向かう。


 「おはようございます、奏真さん!」 


 彼の寝室のドアを開けて、声をかける。

 もちろん返事が返ってくることはなかった。

 

 机をみるとPCがつけっぱなしでディスプレイには奏真さんの好きなキャラクターの

 スクリーンセイバーが映し出されていた。

 どうやら夜遅くまでゲームをしていて、ちょっと休むつもりが熟睡してしまったのだろう。

 

 「明日で夏休みが終わるんですから、朝ちゃんと起きないとダメですよ!」


 そう言って勢いよく、布団を捲り上げると、ついさっきどこかで見た

 くの字で眠る奏真さんの姿がそこにあった。


 「レヴィアぁ、俺もう——」


 奏真さんはこちらに話しかけているのではないかと思えるはっきりとした口調で寝言を言っていた。

 夢の中で奏真さんは私に何をしているのだろう……

 

 「奏真さん、起きてください!」


 さっきもやったような気がすると思いながら、彼の背中を何度も揺らす。

 

 「ふが……」


 奏真さんが変な声と共に目を開けてこっちを見ていた。

 完全に覚めたわけではないのか、私の方を見てもボーッとしていた。


 「……あれ、レヴィア…………?」


 ようやく私がいることに気づいたのか、呂律が回らない声で私の名前を口にしながら

 ゆっくりと体を起こす。


 「おはようございます、奏真さん」


 いつもなら挨拶をすると返してくれるのだが、再びベッドに倒れ込んでしまう


 「リアルで夢の続きしようぜ…………」


 奏真さんはいつものにやけ顔だった。

 夢の中で私と一体何をしていたんですか!


 「しません! 寝ぼけてないで起きてください!」


 大声で否定して、そのまま寝室から出ると勢いよくドアを閉める。


 「もう……朝から変なこと言わないでください」


 部屋を出た直後に杏子さんとの会話が脳内を駆け巡ってしまい、私は顔が熱くなっていった。




 「あれ、杏子は?」

 

 体を起こしてから洗顔、歯磨きを終えてリビングにいくと、いつものようにレヴィアが

ハーブティをコップに注いでいた。


 「まだ寝ていますよ、夜遅くまで話していたので当分は起きないと思いますよ」


 レヴィアは俺の前にコップを置くといつものように目の前の席に座る。


 「ってか杏子とそこまで話していたんだ?」

 

 俺の問いかけに関してレヴィアはピタッと動きが止まっていた。


 「え、えっと……」


 なんかあからさまに俺から目を逸らしたんだけど……!?


 「うぅ……」


 今度はレヴィアの顔が真っ赤になっていった。

 え、そんな顔を真っ赤になるような話をしていたのか?!


 「ひ、秘密です!」


 声を震わせながらも必死に叫ぶレヴィア。

 

 「そ、それよりも今日は花火大会ですよ! 忘れないでくださいね!」

 

 誤魔化すの下手か!と言いたいところだが、今のレヴィアの顔をみたら

そんなこと言えなかった。


 「忘れるはずないだろ! 今からレヴィアの浴衣姿を想像しただけで……」


 俺の脳内では花火大会の会場で屋台で売っているりんご飴を食べながら微笑む

レヴィアの姿が……

 燃え上がるような花火大会が終わって寂しさと同時に寂しそうな目で俺を見る彼女

そして、家に帰った俺たちは……!


 「そーうーまさんッ!!」

 

 レヴィアの怒る声がしたと思ったら頬の辺りに激痛が走る

 

 「如何わしい顔になっていましたよ! 朝から何を考えていたんですか!」


 俺の頬をつねりながら大声を上げるレヴィア。


 「もちろん、レヴィアのゆか……いたたたた!!!!」


 つねっていた頬に対して追い討ちをかけるように捻る。


 

 「ほう……客人がいるのに朝から見せつけてくれるねえ」


 レヴィアの攻撃から耐えていると突如、別方向から声がしていた。

 

 「あ、杏子さんおはようございます……」


 レヴィアは頬をつねっていた手を離すがヒリヒリと痛みの余韻が残っていた。

 

 「まったく羨ましいなあ、まったくもう!」


 そう言いながら杏子は俺の隣の椅子に座ると俺の肩に手を伸ばす……


 「ぐえっ……!」


 そのまま首絞め技になり、グイグイと締め上げていく。


 「リア充は首絞めだああ!!!!!」

 「ちょ……! ギブギブ!!!」


 必死に杏子の腕を叩くが緩める気配は全くなかった。

 ……そうだ、こいつ寝起きがいいからオクタ直後は変なテンションになるんだった。


 ふとしたことで思い出したのはいいが、俺の意識は次第に真っ白になっていった。






 「それじゃ私はここでいいや」


 もうすぐ夕方になろうとしている時刻に、杏子を見送るために駅の改札前に来ていた。


 「杏子さん、色々とありがとうございました」


 レヴィアは何度も杏子に頭を下げていた。


 「いいのいいの、昨日は夜遅くまで付き合わせちゃったし」


 杏子は申し訳なさそうな顔で答えていた。


 「それにしても、すごい似合ってるよ浴衣」

 「ありがとうございます……!」

 

 ここにくる前にレヴィアは杏子に浴衣を着付けてもらっていた。

 薄い水色を基調とした浴衣に腰回りにはガッチリと白い帯で止められていた。


 「何、にやけてるのよドスケベ奏真」


 レヴィアの浴衣姿を見ていると横から杏子が低い声が聞こえてきた。

 

 「普通に見てただけだ!」

 「どうなんだか、どうせ帰ったら帯をぐるぐるしたいとか思ってたんじゃないの?」

 

 発想が古すぎじゃないか……?

 興味はないとは言い切れないけど……。


 「ま、いいや! せっかく上手く着付けたんだからうまくやりなさいよ」

 

 杏子は俺の腹を肘でグイグイと押しつける。


 「はいはい、ってかありがとな」

 

 俺が礼を言うと、杏子は照れた表情をする。

 

 「おっと、そろそろ電車が来そうだしいくね!」

 

 杏子はスマホを改札機の読み取り部分にタッチさせてから改札の奥へと進むと

 こちらを向いて大きく手を振っていた。


 「次来る時は彼氏も一緒に連れてこいよー!」

 「えー! 奏真が変なこと教えそうだからやだぁ!」


 と言いながらも杏子の顔は嫌そうには見えなかった。

 

 最後に杏子はもう一度大きく手を振ると駅のホームがある階段を降りていった。

 

 「俺たちも行こうか」

 「はいっ!」


 花火大会の時間が近いせいか、駅には家族連れやカップルなど多くの人で賑わっていた。

 それに置くれまいと行こうとするが


 「あ、あの奏真さん!」

 

 後ろからレヴィアが俺を呼ぶ。


 「どうした?」

 「えっと、よかったらでいいんですけど……手を繋いでもいいでしょうか?」


 レヴィアは恥ずかしそうに俺に手を差し出していた。


 「そ、その! 草履を履くのが初めてで、ちょっと歩きづらいというか……!」

 

 慌てて説明をするレヴィアの姿が微笑ましく思えてきた。

 

 「そんな遠慮しなくても、俺はいつでもウェルカムだぜ!」

 

 そう告げると俺はレヴィアの手を握る。


 「ありがとうございます……!」


 照れながらもニッコリと笑うレヴィア。

 やべえ、たまんねえわあ……


 あと、レヴィアの手がスベスベしててめちゃくちゃ気持ちいいんだけど!





 「はぁ……口の中がベタベタになるぐらい見せつけてくれたなぁ」


 駅のホームで電車を待っている間、最後に見た奏真とレヴィアちゃんの姿が脳内を駆け巡っていた。

 まったくもう、私は明日の夜まで1人で過ごさなきゃいけないっていうのに……。


 いっそのこと帰りに本屋でも寄ってこのモヤモヤを発散させてくれる本でも大量に買い込むのこアリかもしれない。

 そんなことを考えている自分に対してため息をつきながら、耳にイヤホンをさして、スマホで曲を再生させようとすると

 画面にLIMEのメッセージが表示されていた。


 送信相手は愛しの彼氏からだ。

 家族旅行中の写真でも送ってきたのかなと思い、LIMEを起動させると……


 Rei.E

 『両親が仕事で急用がはいったからこれから帰るよ、多分夜には着くと思うから』


 私は送られたメッセージに釘付けになっていた。

 もしかして、今日会えるの……? 


 「いやっほーい!!!! 今日は朝まで寝かせないからな!!!!」


 嬉しさのあまり公衆の面前にも関わらず私は大声で叫び出していた。

 周りの冷たい視線なんて知ったことか!


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は11/2(水)追加予定です。


■作者の独り言

次回で一旦完結となります。もちろんまだまだ続くんじゃよ?

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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