第31話 ラストサマーデイズ 中編その3


 「奏真……」

 「なんだよ?」

 「……前よりも料理の腕上がってない?」


 気がつけば日も沈み、夕飯時になり全員の腹の虫が鳴り出していたので、簡単にパスタを使った料理を作った。

 最初に口にした杏子が悔しそうな声をあげる。


 「……そりゃほぼ1人で暮らしているんだから多少は腕があがってもおかしくないだろ?」

 「ちがう!」


 杏子は大声を上げながら俺の方に使用したフォークをむける。

 良い子も悪い子も向けられた方はビックリしちゃうからこういうことはしないようにな


 「家にいた時からアンタの料理は美味しかったの!」

 「そりゃどうも」


 十六原家にいた時はオヤジさんとあけびさんが仕事でよく家を空けることが多く、その度に俺が杏子とモモの夕飯を作っていたのである。

 

 「ってかおまえも1人暮らしだろ……料理ぐらいつくってれば——」

 「——怜クンの料理が美味しくてさ」


 杏子は俺から顔を背けながら小声で呟いていた。

 どうやら怜クンというのはコイツの彼氏のことだろう。


 「別に美味しい料理が食べれるならいいんじゃねーの?」

 「何て言うか、女としてのプライドというか……レヴィアちゃんもそう思うよね!?」


 杏子は隣で食べていたレヴィアに話を振る。

 レヴィアは驚くと同時に勢いよく飲みこんでいった。


 「え……えっと」

 

 レヴィアは困惑した表情で杏子の顔を見ていた。


 「奏真さんの料理、美味しいから……私は別にいいかなって」


 顔を若干赤くしながらも答えるレヴィア。

 見た俺は思わずガッツポーズ。

 

 「ふはははははッ! どうだ杏子、これが愛の力なのだよ!」

 

 レヴィアの言葉に色々とハイになった俺はここぞとばかりに

 杏子のことを指差し、豪快に笑い出していた。


 「うわあ……奏真の口から愛っていう言葉を聞くことになるなんて……!!」


 杏子は悔しそうな表情を浮かべながらフォークで豪快にパスタを刺していた。




 

 「もどったぞー」


 夕食後、風呂が沸いたのでレヴィアと杏子を先に風呂に入れて俺が最後に入る。

 風呂から上がり、ロビーに戻って2人に声をかける。

 

 「あ、これからレヴィアちゃんの部屋で女子会やるから」

 「わかった、俺も女装すればいいんだな」

 「寝言は寝てから言え」


 杏子の言葉と表情がまったく一致していなかった。

 

 「レヴィアちゃんだって色々溜まってるものがあると思うし、そこは女同士じゃないと話せないことだってあるでしょ?」

 

 杏子の言葉にレヴィアは驚きの表情を浮かべていた。

 ……どうやら女子会自体、杏子がいまこの場で決めたことのようだ。


 「まさかとは思うけど、私がいるのにレヴィアちゃんとイチャつこうだなんて思ってないわよね?」

 「いや、もちろんそのつも——」 

 「——ってことでレヴィアちゃん行こうか!」 

 「人の話を最後まで聞けよ!!」


 大声をあげる俺に対して杏子はそっと俺の肩に手を置く

 

 「な、何だよ?」


 驚く俺をよそに杏子は顔を俺の耳元に近付くと微かな声で呟く 

 「机の上に積まれてるギャルゲー、やるなら今日中なんだじゃいか?」……と。


 「って何でわかるんだよ?」

 「さっき、調べるのにPC借りたんだけど、デスクトップに大量にショートカットがあったからね」

 

 なぜか、俺の背中から大量の汗が流れ始めていた。


 「大丈夫、レヴィアちゃんには言ってないから!」 


 そう告げた杏子は俺から離れるとレヴィアの手を取り、部屋から出て行ってしまう。


 「……そろそろパスワード変えておくか」


 好きだった相手だから教えたパスワードをいまだに覚えてるとは……

 


 


 「お菓子よし! 飲み物よし!」


 私の部屋のリビングにつくなり、杏子さんは持ってきた袋の中身をテーブルの上に置いていく


 「ふっふっふ、今日は寝かせないわよー」 


 不敵な笑みを浮かべながら杏子さんは私の目の前の椅子に座る。


 「杏子さん……」


 棚からコップを出しながら杏子さんに声をかける


 「どうしたの?」

 「女子会って何をするんですか?」


 そもそも女子会をする自体、奏真さんがお風呂に入っている時に決まった事だ

 

 「別にこれと決まってるわけじゃないよ、女子2人だけの空間すなわち女子会なんだから」

  

 杏子さんは最後に「ま、考え方は人それぞれだけど」と話していた。


 「ここは男子禁制、女だけの空間だからどんなこと話しても全然オッケーよ!」

 「どんな話もですか……?」

 「そうよ、たとえば……」  


 杏子さんはニヤニヤとした表情になり……


 「奏真と一線越えちゃったとか!」

 「んぐ!?」 


 杏子さんの言葉にむせかえってしまう。


 「あれ、もしかして……図星?」

 

 私はテーブルに置かれたティッシュで口元を抑えながら必死に首を左右に振る。

 

 「だよね〜、奏真にそんな度胸ないもんね!」

 

 杏子さんはお菓子の袋を開けながら嬉々として笑っていた。

 

 「……そういう杏子さんはどうなんですか? 彼氏さんいらっしゃるんですよね?」


 やられっぱなしも嫌だったので抵抗して話を振ってみる。

 

 「それがさ、私はいつでも準備オッケーなんだけど、あっちがそういう気分になってくれなくて……」


 杏子さんは恥じらう様子もなく話を続ける。

 火に油を注いだようなものだった。


 「だからって、私から迫って押し倒すのもどうかと思うしなあ……うーん、もどかしいなあ」

 

 腕を組んでうーんと唸り声をあげる杏子さん


 「レヴィアちゃんはどう思う〜?」

 「ひゃっ!?」


 逆に話を振られてしまい、変な声がでてしまう。

 完全に反撃失敗だ……。


 「な、何が……ですか?」 

 「え〜! この流れでそういうこと言っちゃうの? 何ってもちろん——」

 「——それ以上は言わなくてもいいです!!」


 杏子さんの前で両手を左右に振りながら彼女の言葉を静止させる。


 「そ、そういうのは……すぐにしちゃだめだと思います……ましてや女のほうから……」


 言葉を選びつつ自分の意見を話したのはいいが、顔が次第に熱くなっていた。

 

 「じゃあさ、レヴィアちゃんは思わないの? 奏真に対して」

 「わ、私がですか……!」

 「うん、だってレヴィアちゃんも奏真が好きなんでしょ?」 


 気がついたら杏子さんは私の方に身を乗り出していた。


 「そうですけど……! それはまだ、早いというか……」


 自分でも何を言っているのかわからなくなり、下を向いていた。

 何だか自分が小さくなったようにも感じる。


 「奏真がレヴィアちゃんを好きになった理由がわかったよ」


 先ほどまでのテンションの高い声のトーンとは違っていた。

 私は顔をあげて杏子さんの顔をみるとニコニコと微笑んでいた。


 「奏真って、いかにも『お嬢様』って女性が好きなんだよね」

 「そ、そうなんですか……?」

 「うん、清楚とか大和撫子とかお堅い感じの女性、ギャルゲーでもそういうキャラを真っ先に攻略していたしね」

 

 杏子さんは何かを思い出したかのようにふふっと笑っていた。

 それに対して私は何も言えず黙っていた。


 「そんな絵に描いたようなお嬢様なんていないと思ってたのになあ……」


 そっか、だから奏真さんはあの時、私を選んでくれたんだ……。

 他からも選ぶことができたのに……。


 「——レヴィアちゃん?」

 「ひゃっ!?」


 目の前で声をかけられてまたもや変な声がでてしまう。

 

 「ずっと黙ってるけど大丈夫?」

 「だ、大丈夫です!」

 「ならいいんだけどさ」 

 

 杏子さんはクッキーを取り出して口の中に運んでいた。


 「何だかこんなこと言うのも変かもしれないけどさ」

 

 口の中に入れたクッキーをハーブティーと一緒に飲み込んだ杏子さんは

 先ほどまでと違う口調で話し出す。


 「……奏真のこと頼むね」 

 「え……?」

 

  杏子さんは寂しそうな口調で私に告げる。


 「ど、どうしたんですか……急に!?」

 「別にどうってことじゃないけど、奏真は自分にとって理想の相手を見つけたんだし、レヴィアちゃんも奏真のことを思ってくれてるなら嬉しい限りだしね」


 最後に杏子さんは『家族として』という言葉を強調する。


 「もちろん、奏真への愚痴とかはいくらでも聞くからさ! 今後のために奏真の弱点でも教えておこうか? いざと言うときに黙らせることができるよ?」


 寂しい表情から一変して今度は和かな表情で私を見ていた。


 「うん、湿っぽくなっちゃったね。 夜はまだまだこれからだしもっと面白い話をしようか!」


 杏子さんは再度私の方に身を乗り出していた。


 「……如何わしい話じゃなければいいですよ」


 

 奏真さんには申し訳ないけど、たまにはこういうのもアリかなと思ってしまっていた。

 杏子さんが最初に言った通り、今日の夜は寝ることは無理かも。


 ==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は10/29(土)追加予定です。


■作者の独り言

もうすぐ冬になりかけているのに話はまだ夏……

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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