第30話 ラストサマーデイズ 中編その2


 「おかえりなさい、奏真さん」


 自分の部屋の玄関を開けるとちょうど、玄関の付近を掃除していたレヴィアが出迎えてくれた。


 「ただいま」

  

 いつもならこのままレヴィアに飛びつきたいところだが……


 「うわあ、写真で見るよりもすごい美人じゃん!」


 俺の後ろでひょっこりと顔を出した杏子がレヴィアを見るなり驚きの声をあげていた。


 「ひゃっ……!?」

 

 レヴィアは杏子の顔を見てここ最近聞くことの多い、独特の驚きの声をあげていた。

 突然俺の後ろから顔がひょっこりでてくれば、誰だって驚くに決まっている。


 「おまえが、前触れもなく顔を出すから驚いてるだろ」

 「私の前に立っているでかい奏真が悪い!」

 「言いがかりもいいところだな……」

 「はいはい、そんなこと言ってないでちゃんと紹介しなさいよ!」


 お前は何様だ……と言ってやりたかったがどうぜ

 『杏子様だ!』と言われるだけなので口に出さず、レヴィアの方を向く。


 「驚かして悪かったな、こいつが杏子だよ」

 「はじめまして、奏真の姉をやっておりました、十六原杏子です」


 杏子はレヴィアの方を向くと同時に頭を下げていた。


 「何だ、その姉ってのは」

 「事実でしょ?」

 

 俺は言葉ではなくため息で返す。

 変に反論すると永遠に言い返して来そうなのでやめておいた。


 「えっと……月城レヴィアです、この度はありがとうございます」


 持っていた掃除機を壁に立てかけると杏子の方を向いて頭が膝のところまでくるんじゃないかってぐらい、丁寧にお辞儀をしていた。


 「レヴィアちゃんか、いい名前だね」

 「あ、ありがとうございます……」 


 杏子の言葉に照れているのか頭を上げたレヴィアの頬は若干赤くなっていた。


 「もうすぐ掃除機かけ終わりますので、先にリビングへ行っててください」


 レヴィアは壁に立てかけたスティック型の掃除機を取ろうとしたが、その手を杏子が掴む

 

 「ひゃっ……!」

 

 もちろんレヴィアは突然のことでまたも驚きの声をあげていた。


 「掃除なんて奏真に任せておけばいいんだから、先に行ってようよ」


 杏子はレヴィアに告げるとスティック掃除機を俺に押し付ける


 「で、でも奏真さんとお話とかあるのでは……?」

 「奏真とはさっきまで話してたから平気よ、今はレヴィアちゃんと話したいから」

 「えぇ!? でも……」


 レヴィアは俺の方を見ていたが、杏子に背中を押されてそのままリビングへと促されてしまう

 

 「……強引なところは相変わらずか」


 ため息をつきながらレヴィアが立てかけたスティック型の掃除機を見る


 「いつもやってもらってるし、たまには自分でやるか……」


  


 玄関付近の掃除が終わると同時に掃除機の充電が底を尽きていた。

 自分の中で満足のいく綺麗さになっていたので、2人のいるリビングへ戻ることに

 

 「おーい、おわったぞー」

 

 リビングのドアを開けると、中ではレヴィアと杏子がハーブティとお茶菓子のクッキーを食べながら話をしていたようだ。


 「奏真さんありがとうございます! 何か飲みますか?」

 

 レヴィアは俺の姿をみると立ち上がり、棚から俺がいつも使うコップを取り出す。


 「それじゃいつもので」

 「行きつけのお店!?」


 いつもの=レヴィアが入れるハーブティなんだが、もちろん杏子にはそれが伝わるわけもなく

 驚きの声をあげていた。


 少しの間リビングでまったりとした空間になっていた。


 「そうだ、浴衣の試着してみようか!」

 

 その空間を吹き飛ばすように杏子が声を上げる。

 

 「ってことで奏真は外に行くように」 

 「何でだよ!?」

 「だって奏真のことだから、覗こうとするでしょ!」


 杏子はビシッと利き腕の人差し指で俺のことを指す。

 

 「人を指差すなって親に言われなかったのか? まったく親の顔がみてみ——」

 「——この前充分みたでしょ?」

 「たしかに……」


 先日、杏子の両親の顔はバッチリみている。

 俺は思わず頷こうとするが……


 「いや、そうじゃねーよ! 何で俺が覗くこと確定なんだよ!」

 「過去に事例があるでしょ?」

 「1回だけだろ、しかも未遂だし!」

 「未遂でも1回は1回でしょ!」

 「ぐぬぬ……」

 

 そう言われてしまうと何も反論できなくなってしまう。

  

 「わかった、ついでだから今日の夕飯の買い出し行ってくるよ」

 「今日の夕飯、最高級のお肉が食べたいんだけど!」

 「スーパーの肉で我慢しろ……」

  

 椅子の背もたれに掛けたライダージャケットを羽織るとそのままリビングから出ていく。

 読んでいた漫画の新刊がでたしついでに本屋に寄っていくか。




 「杏子さん、よかったんですか……?」

 「なにが?」

 「奏真さんを追い出した感じになってしまいましたけど……」

 「平気平気、どうせ読んでいる漫画の新刊でもついでに買おうとか思っているし」


 杏子さんはニッコリとした表情のまま答えていた。


 「仮に怒ってたとしてもレヴィアちゃんの浴衣姿みたらそんなこと忘れるわよ」


 杏子さんはボストンバックの中を開けながら答えていた。

 ……今にも飛びつこうとする奏真さんの姿が容易に想像できたのはここだけの話。


 「それじゃ、奏真の部屋でやろうか」


 ボストンバッグの中から浴衣を取り出すと私の方をみていた。


 「は、はい! 宜しくお願いします!」


 

 

 

 「もうそろそろ帰ってもいいよな……」


 家を追い出されるように外に出てから1時間近く経っていた。

 今日の夕飯の食材や漫画の新刊の購入、あとはバイクでブラブラするなどして時間を潰していた。

 いくら浴衣に着替えるとはいえ、2時間かかることはないだろう

 と、言うことでレヴィアの浴衣姿を楽しみにしながらバイクのアクセルをまわしていく。


 地下駐車場にバイクを停めて、すぐに自分の部屋に戻っていく。

 

 「おーい、帰ったぞー」


 玄関を開けて2人に向けて声をかけていくが返ってくることはなかった。

 

 「……あれ、でかけたのか?」


 買ってきた食料品を置くためにリビングに行くがそこにも2人の姿はなかった。

 出かけたのかと思ったが、リビングの奥にある俺の部屋から微かに声が聞こえていた。


 「俺の部屋でやってたのか……」


 テーブルの上に食料品が入った袋を置き、そのまま部屋のドアを開ける


 「レヴィア、浴衣はどうだ——」

 「ひゃっ!?」 


 部屋の光景を見て俺は最後の一声がでなくなり、その場で固まってしまう。

 俺の視線の先にあるレヴィアも同じようで……


 ——浴衣を開いた状態で目を大きくあけたまま固まっていた。


 いつも見ることができない部分が露出されていた。

 あぁ、白い肌に水色縞柄の下着って似合うんだな……

  

 目の前に広がる夢のような光景に俺の脳は考えることをやめてしまったようだ……

 

 「って、いつまで見ているんだ!」


 だがそれも雑音によって現実に戻される。

 

 「見てないでさっさと部屋から出なさい!」


 目の前に現れた杏子に押し出され、部屋を後にするとすぐにドアが勢いよく閉められてしまう


 「まったく! 油断も隙もないんだから!」


 部屋の奥で杏子が怒りの声をあげていた。


 「いやいや、いくら何でも不可抗力じゃね!?」


 必死に自分の意見を主張するが、部屋の奥から呆れた声しか返ってこなかった。


 しぶしぶリビングに戻り、2人が戻ってくるのを待っていたが

 先ほどのレヴィアの姿が強烈すぎたのか、頭から離れることはなくずっと1人で悶えながらこう思っていた。


 「まさかリアルでラッキースケベを体験するとは……」


  

 ==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は10/26(水)追加予定です。


■作者の独り言

今年も10週間をきったことに驚愕しております

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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