第33話 夏の終わり、そして……


 「うわ……多すぎだろ」


 杏子を見送った俺とレヴィアは花火大会が行われる会場に到着すると、会場である

明星大通り公園は今年最後の夏を楽しむ人で溢れかえっていた。

 大半が男女のカップル、中には市外から来た家族連れもちらほらみかけた。

 去年はこの会場のイチャつくカップルを見ながら嫌々花火をみたが、今年は……!


 「奏真さん」


 俺にはレヴィアがいる!

 さらば独り身!

 さあ、俺とレヴィアのイチャイチャぶりを目が焼けつくぐらい見ていくがいい!


 「奏真さん!」

 「うおっ!?」


 レヴィアの大声に驚く俺。すぐに彼女の方を見る。


 「椅子に限りがあるって今、放送が……!」


 耳を周囲に傾けてみると、「場所に限りがありますので——」と

ノイズ混じりの声が響き渡っていた。

 周りにいる人たちも慌てて椅子を探し始め、会場が慌ただしくなっていた。


 「俺たちも確保しちゃおうぜ!」

 「はい!」


 


 

 何とか椅子を確保した俺たちは安堵のため息をつきながら座った。


 「ギリギリでしたね……」

 「ホントだな……」

 

 会場に急いで向かうと俺が、最後の2つのパイプ椅子に飛びついていった。

 周りから冷たい視線が浴びせられたが、勝者への祝福の眼差しだと思うようにしていた。

 

 「にしてもパイプ椅子に座るって、なんか学校の全校集会みたいで嫌だな」


 ましてや、週明けから学校も始まるから余計、そのことを連想してしまう。


 「あ、奏真さんすごい汗……」


 レヴィアは浴衣と一緒に借りた巾着袋からハンカチを取ると俺の顔をふいてくれた


 「ありがと、そんじゃ俺も拭こうか?」

 「……奏真さん、顔がニヤけています」


 どうやら考えている事が顔に出てしまっていたらしい。

 

 そんなやりとりをしていると、公園全体に花火大会の始まりを告げる放送が響いていった。

 そしてすぐに——


 ドン!

 と、辺りに響く音がすると同時に上空に向かって花火が舞い上がっていき 

 バン!

 と、空に火花を散らしていく。


 「おぉ〜!」

 「たーまやー!」


 周りにいる人たちはそれぞれ歓声を上げながら空に舞い上がっていく花火を眺めていた。

 もちろん、俺とレヴィアも同じように、お互いの手を握りながら……


 最初の花火が上がってから、どれくらい時間が経っただろう。


 「次で最後になります、この一発は学園都市区域のデザイナー志望の学生による……」


 説明が終わると、その花火玉がセットされ、爆音と共に上空に飛んで行った。

 その後を追うように、三発ほど連続で発射される。

 空には火花で描かれたスイカや水着など、夏をイメージさせる絵柄が映し出されていった。

 その最後にはノートと鉛筆が浮かび上がると、ちらほらと落胆するこえが。

 

 「嫌な事思い出させるなよ、せっかくいい気分だったのに」


 そう言いながらレヴィアの方に目を向けると、俺の顔を見て微笑んでいた。


 全ての花火があがり、花火大会が終了の案内が放送されると座っていった人たちが一斉に立ち上がり

 帰路に着こうとしていた。

 俺たちも流れに乗って、帰ろうと思っていると右肩ににコツンと何かが当たる。

 そちらに視線を向けると、レヴィアが俺の肩に頭を乗せて寄りかかっていた。


 「レヴィア……?」

 

 俺は驚いてレヴィアの名前を呼ぶが返事はなかった。

 その代わり、「すぅ」と穏やかな寝息が俺の耳に当たっていた。


 「……寝てるのか?」


 そう言えば、昨日は杏子と夜中まで女子会をやっていたとか言ってたな……

 にもかかわらずいつも通りの時間に起きていたから眠くなったようだ。


 俺は腕をレヴィアの背中から肩に持っていき、ゆっくりと俺の方に引き寄せていった。


 


 あれ……なんか体が揺れている。

 しかも目の前が真っ暗。

 たしか私……奏真さんと一緒に


 あ、花火大会……! 



 「ふぇ……!?」

 

 真っ暗だった空間が一瞬で色がつきはじめる。

 

 「おっ、起きたか?」


 奏真さんが声をかけてきた。

 

 「あ、あれ……」 


 目の前には奏真さんの背中が映り、ゆっくりではあるが上下に視界が揺れている。 

 あれ、もしかして……おんぶされてる!?


 「大丈夫か?」

 「えっ……私、どうしちゃったんですか!?」

 「終わった途端、寝ちゃったみたいだな」

 

 お昼過ぎあたりから眠たさはあったけど、花火大会が楽しみのあまり

ずっと我慢していた。まるで遠足直前で寝れない子供のようである。


 「あ、奏真さん! もう大丈夫ですよ、ごめんなさい!」

 「へーきへーき」

 

 疲れていると思い、降りようとするが奏真さんはそのまま私を背負い続けていた。


 「それにこの状態ならレヴィアのお尻に触れるしな」

 

 そう言うと奏真さんの手は私のお尻の方に進んで行く。

 お尻に近づく前に奏真さんの頬を力を入れて引っ張る


 「いだだだだだ!!!!! 嘘ですごめんなさい! ひっぱらないでー!!!!」


 奏真さんの叫び声を聞いて私は勝ち誇ったように微笑む。

 

 

 「まだヒリヒリするな……」 

 「如何わしい事しようとした罰です!」

 「起きる前にやるんだった!」


 奏真さんはつねられた頬をさすっていた。

 

 「にしても、夏休みも終わりか……」


 最後にため息をつく奏真さん。

 私は明後日から新しい学校に通えるのが楽しみで仕方ない。


 「あー……レヴィアと朝から晩まで一緒にいられるのも明日で最後かよ」


 奏真さんの言葉に照れてしまった私は彼の背中に顔を押し付けていった。 


 「どうした?」

 「……な、何でもないです!」

 

 奏真さんとすっと一緒にいたいのは私も一緒です。


 「なぁ、レヴィア」

 「ひゃっ!?」


 声をかけられて変な声がでてしまう。


 「来年の夏もこうして、過ごそうな!」


 奏真さんは正面を向いたまま、話を続けていた。

 ふと、耳に目を向けると真っ赤になっている。 

 それを見ながら私はふふっと笑ってしまっていた。

 

 「えぇ、もちろんです」


 だって私は……

 彼、大神奏真さんと結ばれるためにここにいるんですから!


 「あ、でも……」

 「でも?」

 「如何わしいことはダメですからね!」

 「そこは前向きに考えてほしいんだけどなあ!!」 


 大声を上げる奏真さんを見て、私は微笑んでいた。






 花火大会か行われてから2日後、いつも通りレヴィアに起こされ、眠い目をこすりながら

学校に行き、何日かぶりに校長の長い話を聞いていた。


 登校日と同じように他の教職員連中に静止されるが、さすがに新学期早々無意味かつ中身のない

長話を聞かされるのは精神的にも肉体的にもキツかった。


生徒のほとんどが体をふらつかせながら教室に戻り、ホームルームを終わるとすぐに帰路につく。

もちろん、俺もその一人だ。


 去年は帰ってから夏休みにクリアできなかったゲームの続きをやっていたが今年は——


 「その様子だと、レヴィアさんが家で待っているのかい?」

 

 早々に帰ろうとする俺に声をかける恭一


 「ふっふっふ、待っているのはあっているが、家じゃなんだな!」

 

 これからのことを考えると嬉しくて仕方ない。

 今なら空だって飛べそうな気がする。

 

 「……もしかして登校日にできなかったことをするのかい?」

 「あぁ! レヴィアと一緒に——」

 

 ——制服デートだ!

 そう叫びながら俺は教室を出ていった。


 駅に向かうと改札前で登校日の時と同じ制服姿のレヴィアが立っていた。

 声をかけるとレヴィアはこちらを向いて少し照れた表情をしながら手を振っていた。


 「おまたせ、待ったか?」

 「私もいまさっきついたところですよ」

 「そっか……それじゃ——」

 

 ——行こうか

 そう言って俺は彼女の手を取って歩き始めた。




 制服デートと行っても、どこかに行くわけではなくこのまま家に帰るだけ。

 途中、お互いに学校であったことなど話していた。

 どうやらレヴィアは雫と同じクラスになれたようで、明日からの学校生活が楽しみだと話していた。

 

 知らない人がいるよりはいた方がいいなと返すとレヴィアは元気な声で「はい!」と返す。


 話しているうちにお互いの部屋があるマンションが見え、自分たちの部屋がある階へと登っていく。


 「あれ……?」 


 階段を登り終え、部屋に向かって歩いていると俺の部屋の隣のドアが少し開いていた。

 

 「誰か引っ越してきたのでしょうか?」

 「かもしれないな」


 2人で話していると、ドアが開いて中から人がでてきた。

 出てきた人物をみて俺とレヴィアは一緒に声をあげてしっていた。


 その声が耳に入ったのか、ドアからでてきた人物はこちらを向くと

 満面な笑みを浮かべながら俺の方へ向かってきた。


 「おにいちゃああああああん!!」

 

 そう言いながら俺の体に抱きつくのは……


 「モモ!? 何でお前がここにいるんだよ!」


 モモこと、十六原桃乃だった。


 「何でって今日からここに住むからだよ?」

 「住むっておまえまだ中学生だろ!?」


 その直後、ズボンのポケットに押し込んであるスマホが震え出していた。

 取り出してから画面をみると『十六原八朔からの着信』と表示されていた。

 ……杏子やモモの父親だ。


 「もしもし、オヤジさん?」

 『おう、奏真か? 元気にしてるか?』

 「昨日まで元気だったけど、今日になって一気になくなったよ」

 

  俺の返答にオヤジさんは豪快に笑っていた。


 『それでだ、今日からモモがそっちに行ってるんだが、会ったか?』

 「ってか目の前にいるよ」


 モモは俺の顔を見てニコニコと笑顔を浮かべていた。


 「夏休みにさ、モモのやつが受験勉強頑張りたいって言うから、ダメ元で明星市に申請だしたら通っちまってさ! で、部屋もお前の隣だって言うじゃねーか!」


 意気揚々と話すオヤジさんの声に反して俺は静かに「そうだね」と答えていた。


 「高校はお前と同じ高校に行くって言うからさ、これからモモのことを頼むわ! 幸いあいつもおまえにべったりだしな!」


 オヤジさんは最後に「そんじゃ頼むな!」と言うと一方的に通話を終了させた。

 肩を落としながら、スマホをポケットにしまう。

 

 「ってことで、よろしくねお兄ちゃん!」

 

 再度俺の体に抱きつくモモ。

 

 「桃乃さん、奏真さんから離れてください!!」


 それを引き剥がそうとするレヴィア。

 

 「いーっだ!」

 

 気がつけば俺の目の前でいつぞやも見たレヴィアとモモの歪み合いバトルが始まっていた。


 「あーあ……レヴィアとの2人きりの甘い生活は遠いなあ」


 天を仰ぎながら俺は心の底から思ったことを口にしていた。

 

 1st Season Fin


 ==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


この話で一旦終了とさせていただきます。

もちろん、これで終わりではなくまだまだ続きますので

引き続き、応援いただければと思います。


続きにつきましては、決まり次第Twitterや近況ノートで

ご連絡をさせていただきます!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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