第28話 ラストサマーデイズ 前編


 「結構買い込んじゃいましたね……」

 「来週から学校始まるから朝のセールの時間に買いに来れなくなるしな」


 午前がそろそろ終わろうとしている時間に、俺はレヴィアに連れられて駅のショッピングモールにある

食品売り場に来ていた。


 目的は食料品の買い出しだが、朝からセールをやっているということを知り、慌ててきたのはいいが……


 「たくさんいますね……」

 

 俺の横に立っていたレヴィアがレジへと続く列の前後を見る。


 「みんな考えることは一緒なんだな」


 レジは10個以上あったと思ったが、どのレジも長蛇の列ができていた。

 ちなみに俺が今いるのは5番レジで、ちょうど真ん中ぐらいだ。

 並び出して、30分ほどでここまでだからレジに行くにはもう30分ほどかかるかもしれないと

考えると思わずため息が出てきてしまう。


 「レヴィアがいてくれてよかったよ……」

 「どうしたんですか、急に?」


 俺が呟いたことに反応してか、レヴィアは不思議そうな顔をして俺を見ていた。


 「1人でこの長蛇の列の中にいることを考えたらさ、ぞっとしないか?」

 「そう……ですか?」 


 もちろん恐怖ではなく、あまりにも暇すぎてなんだが、どうやらレヴィアには通じなかったようだ。



 

 「お買い上げありがとうございます。 またどうぞお越しくださいませ!」


 レジのおばちゃんが丁寧に頭を下げる中、俺は大量の食料品が詰めこめられたカゴを持って

 先にもっていった食品を袋にいれているレヴィアの元へ向かった。


 「あ、それで最後ですね!」

 「そうだよ……っと!」


 勢いをつけて持ってきたカゴを台の上に置く。


 「多めに袋もらってきたから、さっさと入れちゃおうぜ」

 「ありがとうございます!」


 と、言ったのはいいが、残っているのは俺が持ってきたカゴのみだったことに気づく。



 「よし、これで最後だな」

 

 カゴに残った最後の食料品、味噌汁の元を袋にいれて、飛び出さないように袋の口をギュッとしめる


 「ミッションコンプリート、そんじゃかえ——」

 

 帰ろうぜと言おうと思ったが、レヴィアが一心に目の前を見ていた。

 

 「どうしたんだ?」


 俺がこれをかけると、レヴィアはいつものように変な声をあげていた。


 「あ、ごめんなさい! これが目に入っちゃって……」


 レヴィアは目の前を指差していた。

 その先には1枚のポスターが貼られていた。

 内容はと言うと……


 「あぁ、花火大会か」

 

 ポスターには夜空にあがる花火を見る浴衣姿の男女の絵が描かれていた。

 

 「はい、今週の土曜日に行われるみたいですね」


 他の地域の花火大会は7月の終わりから8月の初旬にかけてやると思うが、この明星市の学園都市区域では

夏休みの最後の土曜に行われるのである。理由はよくわからないが、夏と夏休みの終わりをわからせるためではないか言われている。

 もちろん、噂ベースで。


 「それじゃ行くか?」

 「え、あ……、ごめんなさい、荷物持たせたままで」


 ポスターをじっとみつめていたレヴィアは、慌てた様子で台に置いてある荷物を持とうとしていた。


 「あ、いや……花火大会。 行きたいんだろ?」

 「は、はい……」


 レヴィアは俯いたまま、小さな声で答える。


 「ってそんな申し訳なさそうな顔するなよ、俺もレヴィアと一緒に見たかったしさ!」


 ちなみに去年はフラれまくった挙句の独り身で行く気などなかったが、恭一と雫のできたてペアに

半ば強制的に連れ出されたのはいいが、周りはカップルだらけ、挙句に連れ出した友人は彼女とのイチャつきっぷりを

みせつけられるといった嫌な思い出しかなかった。


 だが、今年は俺にも彼女がいる!

 花火大会のデートといったら、何が起きても不思議ではない!

 ……もちろん、アニメやゲームでの話だが。


 「そう言ってもらえると嬉しいです……!」


 レヴィアは嬉しかったのか、いつものにこやかな表情になって顔を上げる。

 台に置いてあった荷物を取り、「行きましょうか」と言って先に歩き出して行く。

 



 「あ……!」

 

 バイクを停めた駐輪場に向かう途中でレヴィアが足を止める


 「どうした?」


 レヴィアは立ち止まった先の店の中を見ていた。

 

 「レンタル衣装専門店?」 

 「はい! 浴衣の貸し出しやってないかと思いまして……」 

 「浴衣?」

 「さっき見たポスターでも浴衣姿の人が描かれていたじゃないですか、私も着たいなと思って……」


 浴衣……レヴィアの浴衣姿か。

 あまり見ることのない、和服の姿。

 長い髪をかきあげた時に見えるうなじ……

 

 『花火きれいですね、奏真さん……』


 それに浴衣姿といえば……


 「そーまーさん……!」

 「うおっ!?」


 レヴィアの大声で現実に戻される。


 「ど、どうした、そんなに大声を上げて!?」

 「もう、何度呼びかけても返事がなかったからですよ!」


 レヴィアはムッとした表情で俺の顔を見ながら話を続けていた。


 「顔もニヤけていましたし、またいかがわしいこと考えていたんじゃないですか!」

 「そんな真っ昼間からいかがわしいこと考えるわけないだろ!」

 「それじゃ、何を考えていたんですか?」 

 「そりゃ、レヴィアの浴衣姿をだな……」

 「……何で、私の浴衣姿のことを考えて顔がニヤけるんですか!」

 「そりゃあ……」


 可愛い彼女が浴衣姿で隣に立つんだぞ……

 まともな男子高校生ならそっから先のことを考えるわけで……

 もちろんそんなことを言ったら怒られるに決まってる。


 「ほ、ほら早く浴衣借りようぜ!」


 下手な誤魔化し方だなと自分でも思いながらお店の中に入っていった。



 「申し訳ございません! 浴衣は全て予約が決まっておりまして……」


 お店に入り、浴衣を借りたいを告げたところ、無情なる言葉が返ってきた。


 「1着もないんですか?」

 「えぇ……残っているのは幼児用の浴衣でして」


 店員は幼児用の浴衣がある方へ手を向ける。

 壁に白の生地にアサガオが描かれたいかにも幼児用らしい浴衣が展示されていた。

 

 店員に礼を言って店を出ることに。



 「うぅ……」

 

 相当ショックだったのだろうか店を出てから駐輪場までレヴィアの口からは言葉にならない声がでていた。


 「別に浴衣じゃなきゃ花火大会に行けないわけじゃないしさ……」


 ずっと慰めの声をかけるが、効果はあまりなかった。


 「そうなんですけど……せっかくと思ったのに」 


 凹むレヴィアの姿をみていると、何だか俺まで気分が沈みそうになる。

 どうにかしてあげたいけど、浴衣なんてもってない——


 「あー!」


 俺は思わず声を上げていた。

 鉄筋コンクリートの中で声が響いたのか、レヴィアは耳を抑えながら俺の方をむいていた。


 「ど、どうしたんですか……? 突然大声をあげて……?」


 俺はレヴィアの顔をみると同時に彼女の両肩をガッチリと掴む。


 「ひゃっ……! そ、奏真さん!?」


 レヴィアは目を大きく開けていた。


 「いたんだよ、浴衣を持ってるのが!!」

 

 レヴィアの表情に気づくことなく俺は再び大声を上げてしまっていた。



 ==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は10/19(水)追加予定です。


■作者の独り言

今の季節って何でしたっけ?

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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