第26話 もうゴールしたいんだよ!


 「御子神学院の生徒さんですね、拝観料はございませんので——」


 駅からバスに乗って『新明星水族館』に到着し、水族館の中に入っていく俺と恭一

 

 「……何か、やけにカップル多くないか?」

 

 もうすぐ8月も終わるとはいえ、夏休みなのか、辺りを見渡すと男女や女性同士の組み合わせをよく見る。男同士の組み合わせはおそらく俺たちだけなんじゃないかと思えるほどだ。


 「まあね、別に男同士で入っちゃいけない決まりがあるわけじゃないんだし、気にしなくてもいいんじゃない?」


 恭一は周りに目もくれず水族館の先へ進んで行く。

 進んでいくと海水魚と書かれた空間が広がっていた。


 一番最初に目についたのは『カクレクマノミ』

 オレンジと白の模様が特徴的な海水魚。

 解説のプレートには少し前に全米で公開されたアニメ映画の主人公にもなったと書かれている。


 目の前に広がる大きな水槽の中ではゆらゆらと揺れるイソギンチャクの中からひょっこりと顔をだしていた。


 「あったあった、あれかな」

 

 後ろにいる恭一の声に反応してそっちを向く。

 

 「なんだあれ……?」

 

 目の前の水槽の中にある砂から大量の長細い紐のようなものが伸び、ゆらゆらと左右に揺れていた。

 それに合わせてなのか、水槽の前で子供たちが手を合わせてから腕をピンと伸ばし、体を左右に揺らしていた。


 「チンアナゴだよ、知らない?」

 「……名前は聞いたことあるけど、実物みるのは初めてだ」 


 よくネットで名前だけは出ていたのは覚えている。

 

 「って何でそんなに詳しいんだよ」

 「前にテレビでやっててね、雫が食いつくように見てたんだよ。 珍しかったから僕も一緒になって見てたんだけど」


 恭一は照れながら語っていた。


 「お、珍しい光景だから写メに撮っておこうかな」

 

 恭一はスマホを取り出して、水槽の方にレンズをむけていた。

 水槽では先ほどまでは体の半分を砂の中に埋まっていたチンアナゴの一匹が海中を泳いでいる。恭一曰く、チンアナゴが砂から出て泳ぐのは珍しいことなんだと話していた。


 砂から出たチンアナゴは誰もいない砂に到着するとあっという間に中へと潜っていった。


 「泳ぐところと潜るところが撮れたよ、帰ったら雫にも見せよう」


 どうやら恭一は動画で一連の流れを撮っていたようだ。

 保存されたのを確認するとスマホをしまう。

 

 「それじゃ先に進もうか」

 

 恭一は珍しいものが撮れたことが嬉しかったのか、楽しそうな表情のまま先へと進んで行った。


 「……ずいぶん楽しんでるなアイツ」


 俺は恭一の後を追っていった。

 

 


 「どうやら雫はここで写真を撮って奏真に送ったみたいだね」


 海水魚のエリアから先に進むとカフェと土産売り場が併設しているエリアに出た。

 土産コーナーにはさきほどみたチンアナゴやカクレクマノミ、この先にいるのであろうペンギンやイルカなどのぬいぐるみやキーホルダーが置いてある。

 また、周りにはどこからでも海の生物たちが見れるように大きな水槽が置かれている。

 俺の目の前では変な顔つきの魚が群れを作ってゆっくりと泳いでいた。


 「みたいだな……」


 雫から送られた写真を見てみると、俺の目の前で泳いでいる目の前で泳ぐ変な顔つきをした魚たちの一部が写っていた。

 水槽には『新明星水族館』と貼られたロゴも見えている。

 恭一の言う通り写真と一致はしたのはいいが……


 「肝心の2人の姿は見当たらないと……」

 

 いて欲しいと思うごく僅かな望みを持って見たものの、俺の願いは天に届くことはなかった。

 肩をガックリと落としていると、ポケットの奥が震え出していた。


 ズボンのポケットから振動の元を取り出し、画面をみるとまたもや一枚の写真が送られていた。


 「もしかして雫からまた写真が送られてきた?」

 「もしかしなくてもそうだよ……」


 スマホの画面には2人で美味しそうにクレープを食べている写真が写されている。

 自撮りでやったのか、写真が少し斜めになっていた。


 「あー、ここって雫がよく行ってるクレープ屋さんだね」

 「……よく知ってるな、場所はどこなんだ?」

 「千年原学院がある通りって聞いてるよ」

 「ってことは……」

 「駅まで戻って南口を歩けば行けたはずだよ」


 俺はマジかよと言いながら肩をガックリと落としていた。




 水族館をでると駅に向かうバスが来ていたので飛び乗り、一番後ろの横長の座席が空いていたので恭一と一緒に座った。


 「なんか1日早いね、もうこんな時間だよ」


 恭一はスマホで時間を確認すると俺に画面を見せてくる

 スマホの時間はもうすぐで夕方になりそうな時間を表示していた。


 隣に座る恭一の言葉に俺はため息で返す。

 バスに乗っている乗客のほとんどが駅に向かう人だったのか、あまり停車することなく駅に到着した。


 バスを降りてからすぐに南口に向い、千年原学院の場所を駅に立てかけてある周辺マップで確認する。


 「駅からこの通りをまっすぐいけば千年原学院か」

 「そうだね、そろそろ帰って夕飯の準備をしなきゃいけないからここで終わりにしてほしいけど」

 「ラストバトルで魔王シズクを倒せば平和が訪れると俺は信じてる……!」

 「……まったく、いつから僕の相方は魔王になっちゃったんだろ」 


 

 南口を出てから歩くこと、数十分。


 「奏真、ここじゃない? 雫が送ってきたクレープ屋さん」


 俺の横を歩いていた恭一が突如立ち止まり、建物を指差していた。

 恭一の指先にはカラフルな建物があり、窓を隔てた奥ではクレープの皮を作っているのが見える。窓の横には様々なクレープのサンプルが展示されていた。


 「雫が買い食いしたくなる気持ちがわかってきたよ」


 クレープのサンプルを見ていると中からほのかに甘い匂いが漂っていた。


 「うん、僕も誘惑に負けよう……!」


 恭一は財布を取り出して店の中に入っていった。

 俺も一緒に店の中に入ると恭一がレジの前でメニューとジッとみていた。


 「もしかしておまえって甘党だったのか?」

 「そうでもなかったんだけどね、気がついたら甘党になってたね」


 メニューを見ながら腕を組んで悩み出す恭一。


 「シンプルなカスタードクリームもいいけど、『たっぷり黒胡麻クリーム』も見た目美味しそうで捨て難いんだよね……」

 

 恭一は次第に頭を抱えて悩み出していると、聞き覚えのある声がする。


 「私のおすすめは『溢れ出る生クリーム&フルーツ』クレープだぞー」


 俺と恭一は声のした方をみると、店の奥の席で袖をひらひらとさせている雫の姿があった。


 「でたな、魔王シズク! おまえを倒してレヴィアと添い遂げるぞ!」

 「お、魔王シズクってひびきいいなー! ふっふっふー、私の仲間になればキョウくんのクレープの半分をくれてやるぞ」

 「……だすならおまえのを出せよ」


 雫としょうもないやりとりをしながらも辺りを見てみるが、店内にいるのは俺と恭一と魔王の3人でレヴィアの姿が見当たらなかった。


 「雫、レヴィアはどうした?」

 「ふっふっふー」


 俺の問いに雫は袖をひらひらとさせながら不敵に笑っていた。


 「奏真よ、お主のスマホをみてみるのじゃー」


 ……なんか、キャラが変わってないか?

 そう思いながらもスマホを取り出し、画面をみるとLIMEが届いていた。

 また雫が何かを送ったのかと思い、開いてみると——


 Revia.T

 『ここで待っています』


 と、いったメッセージと一緒に添付されていたのは

 学校の校門らしき場所で立っているレヴィアが写された写真。

 自撮りなのか画面が斜めどころか、慣れないせいか若干ブレていた。

   

 「早くいってあげなよー、それまで私はキョウくんとラブラブするからー」


 雫はニシシと笑いながら俺のことを見ていた。


 「僕らはここで待ってるから行ってあげなよ」

 

 いつの間にか恭一は注文したイチゴやら生クリームが溢れそうなクレープを手にしていた。


 「戻ってきたら俺とレヴィアのラブラブっぷりを見せつけてやるからな! 覚悟しとけよ、このバカップルども!」


 俺は2人にそう告げてから店を出ていった。


 「キョウくん」

 「どうしたの?」

 「一口もらっていいかなー?」

 「……嫌だと言っても食べるんでしょ」



 店を出ると全速力で千年原学院が見える方へ走っていくと、正面に校門が見えてきた。

 

 「って信号赤になるのかよ、空気読めよ!」


 校門の目の前にある信号がタイミング悪く赤になってしまう。


 渡りたい気持ちを抑えながら校門をみると——


 『千年原学院』と書かれた学校名盤の前に海のイメージさせる青いロングヘアーを書き上げながら憂いた表情をしている月城レヴィアが立っていた。


 ……ってか早く青になってくれ!!


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は10/12(水)追加予定です。


■作者の独り言

健康診断でストレートにメタボ言われました……

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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