第19話 似たもの同士


 「じゃあ何であの時俺のことをフったんだよ……」


 杏子の言葉に俺は大声をあげてしまう。

 

 「大きな声をだーすーなー!」

 「あ、悪い……」


 部屋の時計を見たら良い子は寝ていてもおかしくない時間だった。

 俺はその場で正座をして頭を深く下げる。


 「別にあの時は、奏真のことが嫌いでフったわけじゃないんだよ」

 

 杏子が話し出したので俺は頭をあげて正座の姿勢を崩した。


 「私ね、奏真のことは今でも好きだよ——」

 

 杏子の言葉に俺の心臓がドクンと脈が飛ぶ。


 「——もちろん家族としてだよ」


 続いた言葉に何故か安堵していた。


 「……一瞬ドキッとしたでしょ? ダメだよ可愛い彼女いるんでしょ」

 「あ、あたりまえだし! 別にお前にそんなこと言われても嬉しくもなんともないからな!」


 勢いに任せてコーラを一気に飲み干す。

 炭酸が軽く抜けていたせいか、今回は食堂を心地よく抜けていった。


 「私さ、中学の時に好きになった人がいるんだけどさ」

 「へぇ、初耳だな。誰だったんだ?」

 「……九重くんって覚えてる?」

 「俺らの学年で一番イケメンって言われてた……」


 中学の時にいた、学年一のイケメンと呼ばれていた男だ。

 毎年バレンタインの時にクラスのみならず、他のクラスの女子から大量にチョコをもらっていたな。


 「ちなみに奏真は後輩の子たちから大量のチョコをもらってたよね」

 「……よく覚えてるな」

 「だって妹がその一人だったし」


 杏子は笑みをこぼす。


 「で、それで九重とはどうなったんだ?」

 

 恥ずかしくなったので、話を元に戻す。


 「もちろん何もないよ」 

 「なかったのかよ……」

 「うん、告白しようとしたら他の人と付き合ってたしね」

 

 当時の俺からしたら羨ましい話だ。


 「奏真も選り好みしなければ付き合えた子たくさんいたでしょ?」

 「さっきから俺の考えてることにぴったりの答えが返ってくるんだけど実は俺の心の内読めてたりするのか!?」

 「奏真の場合顔に出るから一発でわかるわよ」 


 レヴィアにもよく顔がにやけてるって言われるな……

 そんなに顔に出やすかったのか、俺。


 「で、その時に思ったの。 九重くんと奏真に対しての気持ちが違うってことに」

 「……俺に対してはどういう?」

 「家族……としてかな。 言うなればお父さんやお母さん、モモに対しての気持ちと同じ」 


 家族か……。

 ずっとこの家で兄妹の様に暮らしていたんだから仕方ないのかもしれない。


 「……だから奏真に告白された時も恋愛対象として見れなかった」

 「それなら何ですぐに言ってくれなかったんだ?」

 「あの時はうまく言葉にできなかったの! 言えるとおもったら私のこと避ける様になってたし! いつの間にか引っ越ししてたし!」


 杏子の怒涛の言葉責めに俺はたじろいでしまう。


 「振られた時のこと絶対に引きずっていたでしょ?」

 「そ、そんなわけないだろ! 俺がそんな風にみえたのかよ!」

 

 悟られない様に真剣な表情で杏子の顔を見て答える

 だが、杏子は「ふーん」と目を細めて俺の顔をじっと見ていた。

 俺の心の内を見ている様な表情だ。


 「……すみません、結構引きずってました」


 しばらく黙って耐えていたが、気まずいのと体がムズ痒くなる感覚がしてきたため、素直に白状することにした。


 素直に頭を下げる俺を見て杏子はクスッと笑う。


 「でも、可愛い彼女ができたんだから私のことは良き思い出ってことにしとけばいいと思うよ」

 

 「そうだな……」

 

 俺にはレヴィアという可愛い彼女がいるんだしな!


 「そういや……」

 「どうしたの?」


 杏子は驚いたのか目をパチリと開けて俺を見ていた。


 「そういうおまえはどうなんだ? 俺を盛大にフったんだから彼氏に1人や2人できててもおかしくないよな!?」


 今まで杏子に主導権を握られていたような気分がしたので、ここぞとばかりに問い詰める。


 「おいおい、それを聞いちゃう? まあいいけどさぁ!」


 杏子はよくぞ聞いてくれた!と言わんばかりの表情でスマホを操作して画面を俺の顔に突きつける。

 杏子が隣に立つ男に顔を寄せていた。男の方は女にも見えなくもない中世的な顔つきをしており、顔を寄せ付けられて少し戸惑っている様に見えていた。


 「じゃーん!見たか! このかわいい子を!!!」

 「ってスマホを押し付けるな!」

 

 杏子はよほど見せたかったのか、興奮気味にスマホを俺の顔に押し付けていた。

 

 「吹奏楽部の1つ下の子なんだけど、めちゃくちゃ可愛くない!?」

 「わかったから、声のトーン下げような……」

 「もうさ可愛すぎて2人きりでいる時、理性を保たせるのが大変なんだよ、わかる私のこの気持ち!」


 杏子はスマホを持ったまま自分の体を抱きしめていた。

 

 「この前なんか、ベッドに押し倒しちゃって——」

 「——ストップ! ストーップ! それ以上のことは聞きたくねーからお前の心の中にしまっておいてくれ」


 何が悲しくて振られた相手からその手の話を聞かなければならないんだ。


 「ってな感じで私は今ものすごい幸せ! 奏真もそうでしょ?」

 「まあな! レヴィアと一緒にいられるだけでハッピーだぜ!」


 それからも杏子は彼氏との浮かれ話を続けたせいで俺も一緒になってレヴィアとの浮かれ話を話していた。

 その時にベッドに置かれたスマホの画面が明るくなったことに気づく。


 「電源つくのにどれだけ充電必要なの?」

 「さあな?」 

 

 俺は適当に流しつつスマホを手に取って画面をみると、ピロンと軽快な音と同時にLIMEの通知が届いた。


 送信者はレヴィアでタップしてLIMEを開く——


 Revia.T

 『ご家族の方と楽しんでいるところすみません』  

 『いつも一緒にいたので、寂しくて送ってしまいました』 

 『明日になれば帰ってくるのに何を言っているんですかね、私……』


 俺は画面を食い入るように見ていた。

 時間を見ると、30分も経っていなかった。


 俺はスマホをポケットにしまうと立ち上がり——


 「杏子、今から帰るわ」

 「え!?」

 

 驚く杏子の顔に自分のスマホを見せる。

 画面には先ほどのレヴィアのメッセージが表示されたまま。


 「こんなこと言われたら帰るしかないだろ!」


 俺は自分でも引くぐらい興奮状態だ。

 今なら何でもできるんじゃないかって思えるぐらい。


 その様子を見た杏子は呆れた表情をしながらも「そうだよねぇ」と答えていた。






 「レインコートサイズ大丈夫?」

 「まあ、ないよりはマシだな」


 自分の部屋に戻って帰る準備をしてガレージに行き、杏子に渡された水玉模様のレインコートを羽織ってからバイクのエンジンをかける。

 ガレージの入り口を少し開けて外の様子を見ると先ほどよりも雨が強くなっていた。

 

 「この時間なら車の量も少ないと思うけど、気をつけて帰りなよ。 あとお巡りさんに捕まらないようにね、時間も時間だし」


 スマホで時間を確認すると、高校生が外を歩いていたら怒られる時間になろうとしていた。


 「わかったよ、気をつける」 

 

 俺はハンドルにかけたヘルメットを被る。

 

 「ねえ奏真」


 俺はヘルメットのバイザーをあげる


 「どうした?」

 「今度落ち着いたらさ、レヴィアちゃんにあわせてよ」

 

 杏子はニコッとした表情で話していた。


 「そんじゃ次はダブルデートだな! おまえの彼氏にもあってみたいし」

 「やだ! 奏真のことだから絶対に思い出したくないこと話しそうだし」

 「おまえだってレヴィアに言うつもりだろ?」

 「もちろん言うに決まってるでしょ!」 


 杏子の返答に俺も杏子も笑いだしていた。


 「それじゃ、ぼちぼち行くから、オヤジさんとあけびさん、あとモモによろしくと言っておいてくれ」

 「わかったよ!」


 敬礼のポーズをする杏子をみるとバイザーを下げてバイクを発進させた。

 外にでると瞬時に大量の雨粒が俺の体に打ち付けてきた。


 「今から帰るからまってろよレヴィア!!!」 


 心の中で叫びながらスピードを上げていった。





 「あんな奏真見たら私まで会いたくなっちゃったじゃん……」


 奏真の姿が見えなくなるまで見送った杏子はガレージのシャッターを締めながら口にしてしまう。


 「明日も泊まるつもりだったけど私も戻ろっと!」


 シャッターが閉まったのを確認した杏子は飛び上がるような足取りで自分の部屋に戻ると愛しい彼へメッセージを送る。


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。

明日もお楽しみに!


■作者の独り言

次の連休はいつ……(震え声)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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