第18話 あなたと思い出話を


 「奏真の大容量がウリのスマホだから結構時間かかるわね」


 自分のスマホの電源が空になっていることに気づき、慌てて杏子の部屋に行き、充電器を借りて充電をさせてもらった。

 レヴィアと話している途中で通話が終了してしまい、しかも電源がつかない状態だからもしかしたら心配しているかもしれないな

 早く連絡してあげたいところだけど……


 ちなみに杏子は飲み物を取ってくると言って部屋をでている。


 「それにしても、杏子の部屋は相変わらずだな……」


 杏子の部屋には机とベッドが大半を占めており、机とつながった本棚があるが、置かれているのは参考書や、中学の時に吹奏楽部に打ち込んでいたせいか、音楽に関する本が並んであった。

 マンガや攻略本など娯楽だらけの俺の本棚とは正反対だ。


 することもなく部屋の周りをみていると、ペットボトルとコップを持った杏子が帰ってきた。

 昼間に顔を合わせた時はポニーテールだったが、今は何もつけていないようだ。

 そして相変わらずの色気のないパジャマ姿に、呆れと残念という感情が混ざり合う。

 

 相変わらずジャージをパジャマとして使ってるのか……と。


 昔から杏子はスポーツとかで使うジャージをパジャマとして着ていた。

 運動をするようなタイプではないが、本人曰く……


 「動きやすいから」


 と、ずっと言っていた。


 「何かじろじろ見ているけど探しもの? ちなみに下着なら後ろのクローゼットの中だよ」


 杏子は床においた小さいちゃぶ台の上に持っていたものを置くとクローゼット式のタンスを指差す。


 「お、サンキュー、そんじゃ……」

 「平然と行こうとするな!」


 軽く背中を蹴られた。

 杏子も俺がどうするのかわかっていて、わざと言ったようだ。 


 「まったく、スケベなところは相変わらずね」


 杏子は呆れた声を出しながら、コップにコーラを注ぐ


 「相変わらずってそんなにスケベなことしてたか?」

 「中学の修学旅行の時に女子風呂覗こうとしてたり、学年トップの可愛い子のいる部屋に行こうとしてたでしょ」

 「いや、あれは他の連中に誘われて行っただけで俺は——」

 「はいはい、今更言い訳しないの。 私はその後が面白かったからいいんだけど」 

 

 杏子が言うその後とは、杏子が言ったことが夜中に教師連中にバレて長々と説教をされたことだ

 しかも、それを全クラスの前で言われるという今でも最悪な出来事だ。


 「はいはい、不貞腐れてないでこれでも飲んで機嫌直しなよ」


 そう言って杏子はコーラが入ったコップを差し出す。


 「よく覚えてたな、俺が好きな飲み物」

 「あれだけずっと同じものを飲んでたら嫌でも忘れないわよ」


 杏子は自分が飲む麦茶をコップに注ぐと机の椅子に座った。


 「それにしてもお前から声をかけるなんて珍しいな、何かいいことでもあったのか?」


 俺が聞くと杏子はニヤけ顔でスマホの画面をみせてきた。

 画面にはモモとのLIMEのやりとりが映っていた。


 「モモから聞いたわよ、彼女ができたんだって?」


 杏子は画面をスライドさせてモモからのメッセージを俺に見せる。


 『お兄ちゃんに彼女ができてたー! しかもめちゃくちゃ美人なんだけど!!!』


 いかにもモモらしいメッセージだった。最後には怒りの顔文字が何個も付けられている。


 「モモのやつお前にまで言ったのかよ」

 「女の情報網をバカにしてると痛い目をみるわよ」

 「……知りたくもないな」


 杏子はふふっと笑っていた。


 「そんで、写真とかないの?」 

 

 さっさと見せなさいよと言わんばかりに杏子は要求してきた。


 「残念ながら、全てスマホの中だ」 


 俺は杏子のベッドの上にある俺のスマホを指差す。

 ちなみにまだ電源はついておらず画面は真っ暗のまま。


 「もーっ! タイミング悪過ぎでしょ! ってか何でちゃんと充電しとかないの!」

 「言ってることがめちゃくちゃだな!」


 俺はコーラに口をつける。


 「あ、そうだ……!」 

 「え……! なになに!?」

 

  スマホを取り出すとカバーを開いた先にある小さなポケット部分に指を入れ、中にあるものを引っ張り出した。

 

 「これがあった」


 取り出したものを杏子に渡す。


 「これってゲームセンターとかにある写真撮ってプリントするやつ?」 

 「そうだよ、ショッピングモール内にあるゲームコーナーにあったから撮ったんだよ」


 数日前にレヴィアと一緒に食料品を買いに行った時に、ゲームコーナーの横を通り過ぎた際に

 プリント機があることにレヴィアが気づき、撮ることになった。


 写真はガチガチに立っている俺とレヴィアが写されていた。


 「モモが言う通り、美人じゃん、奏真にはもったいなくない?」

 「さらっと失礼なこと言ってんじゃねーよ、俺にピッタリだろ!」

 「えー、ものすごく清純って感じがするし、スケベな奏真の餌食になってると考えると不憫……」

 「言っておくけどなまだ何もしてないからな!」


 ……うん、ハプニングはあったけどまだ何もない。


 杏子は「ほんとかなぁ」と疑いの目で俺を見ていた。


 「どこで知り合ったの? 高校で?」

 「同じマンションの隣に引っ越してきて、挨拶の時に一目惚れして告白した」 

 「え? それで付き合っちゃったの!?」

 「もちろん!」


 恭一や雫の時にもそうだったが、正直に話したとしても信じてはくれないだろう

 杏子にゲームで攻略したキャラが実際に現れましたなんて言ったら真面目な顔で


「病院行った方がいいんじゃない?」

 

とか言われそうだ。


 「一目惚れで告白なんてアニメだけの話だと思ってたけど、実際にあるんだ……」


 杏子は驚いた表情のまま、プリントシールを再度見てつぶやいていた。


 「でも、奏真の幸せそうな顔を見て安心したよ」


 杏子はシールを返すと同時に俺にむけて話す。


 「どういうことだよ……」


 「だってさ、奏真が引っ越しする日にさ、私に何も言わないで行っちゃったでしょ?」

 「そ、そうだっけか?」

 

 ごまかすためにコップの中のコーラを一気に飲み込む。

 炭酸が食道でピリピリと刺激してきて、むせ返りそうになってしまう。


 「まあね、フラれた相手に声をかけるなんて気まずかったよね……」


 空になった俺のコップにコーラを注ぎながら杏子先ほどよりも静かな口調で話す。


 「ち、ちげーよ、あの時だって杏子も引っ越しの準備が忙しかっただろ? モモが行っちゃダメってしがみついてたし」

 

 中学卒業後に俺も杏子も十六原家を出て、学校の寮に住むと決めていた。

 俺は明星市の学園都市区域、杏子は明星市よりも離れた俺の高校よりもハイレベルの学校の寮に入っている。

 

 「ホントだよ! 奏真に慰めてもらいなよって言おうとしたら、とっくに出発してたし」

 「おまえ実の妹を邪険に扱うなよ……」


 俺の言葉に杏子は「てへっ」とあざとい笑いをしていた。


 すぐに真剣な表情に戻っていた。


 「ねえ、奏真……」 

 「なんだよ?」   

 

 俺が返事をするも杏子は麦茶がはいったコップをに口を付けながら黙っていた。

 

 「私さ……」


 少しして、杏子はコップをちゃぶ台に置くと俺の顔を見る。

 俺の心臓がドクンドクンと外にも消えるぐらいの音を立てていた。


 「奏真に告白された時、嬉しかったんだよ……」


 杏子はさっきのような笑顔ではなく物憂くような表情で告げていた。



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【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。

明日もお楽しみに!


■作者の独り言

今日もいい天気でしたね……(遠い目)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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