第17話 I believe…He believes ……
「奏真さん……」
あれから何度電話をかけても繋がらず、無機質な声で繋がらない内容が淡々と流れるだけだった。
彼と話しているときは嬉しかったのに、それが急に終わってしまったので夕飯の準備をしようとしていたことすら億劫になり、テーブルの上に突っ伏していた。
夕飯の準備もしようと思っていたけど別にお腹も空いてないし、今日ぐらい食べなくても良いかなと思い始めている。
「やはり奏真さんは……杏子さんのことを」
「わかった」と言っていた奏真さんの声は嬉しそうにも聞こえた。
今頃2人は——
私の頭の中では奏真さんと空想の中での杏子さんが仲良く話している光景が映し出されていた。
そんな映像を打ち消す様にスマホが鳴りだした。
「奏真さん……!」
顔を上げて画面を見るが、望んでいた相手ではなく画面には見たことのない電話番号が表示されていた。
「もしもし……?」
通話ボタンをタップして恐る恐る話しかけた。
変な相手ならすぐ切って、着信拒否設定に入れるつもりだ。
『その声はレヴィアじゃな、よかった番号合ってたようじゃな』
スマホのスピーカーからはざらざらと枯れた様な声が聞こえていた。
「もしかして、お祖父様ですか……?」
『もしかしなくてもそうに決まっておるじゃろ』
「いやでも、電話番号が……」
『携帯電話を川に落として壊れてしまったんじゃよ、おかげで新規で買う羽目になってしまったんじゃよ』
私の番号はお祖母様の携帯電話を見て直接入力したようだ。
『それにしてもこのスマホっていうのは使いづらいなぁ、やっぱガラケーが一番じゃな!』
お祖父様は豪快に笑っていた。
『おじいさん、そんなことよりも言うことあるでしょ?』
おそらくお祖母様が隣にいるのだろう、微かに声が聞こえていた。
『おっとそうじゃった』
お祖父様はゴホンと咳払いをする。
『千年原学院の手続きが終わったから、9月から編入ができるぞ』
そういえば、お祖父様に手続きをお願いしていたことを忘れていた。
「ありがとうございます……」
『それとじゃな、制服もできたと連絡が来たから、そちらへ送るように手配をしておいたぞ』
そうだ、ここへくる前にサイズ合わせをしていたことを思い出した。
有名なデザイナーがデザインした制服で、サイズ合わせの際に見本を見た時は早く着たいと思っていたほどだ。
でも今は——
「ありがとうございます……」
お礼の言葉を言うとお祖父様は少し間をあけから「ふむぅ」と呟く。
『レヴィアよ、さっきから声に覇気がないようじゃが、何かあったのか?』
お祖父様の言葉に驚いてしまう。いつもなら何でもないと言ってしまう所だが、今回に限ってはその言葉がすぐに出てこなかった。
『隣にばあさんもおるから、よかったら話してくれんかのう』
『ふむ……』
事の経緯をお祖父様と横で聞いているお祖母様に話した。
それ以外にも奏真さんと一緒に起きたことや、海にいったことなども
『そうじゃなぁ……』
しばらく何も話さなかったお祖父様が口を開いていた。
『レヴィアよ、今回お主は、その奏真某と添い遂げるために家をでたのじゃろう?』
「はい、そうです……」
『だとしたらお主には足りないものがある?』
足りないもの……?
『真面目なお主のことじゃ、相手に尽くしたりすることが愛する事だと思っておるのじゃろ?』
全くもってその通りだった。
『だからこそ、相手もお主に尽くすのが当たり前だと思っておるのじゃろ?』
「は、はい……」
ずっとそう思っていたのだけど、違うのだろうか……
好きな本に出てくる登場人物は今の私のように一緒にいる男性に対して接していて、最後には結ばれたけど。
『たしかにそれも大事だと思うのじゃが、今のお主は相手に自分の考えを押し付けているのと同じじゃな』
「お、押し付けですか……」
もちろん、そんなつもりは一切ない……つもり。
『自分は他の男性には近づかないから相手も近づいてはダメだと思っておるじゃろ?』
そう言われてしまうと何も言えなくなってしまう……
『今のお主に足りないのは相手への『信頼』じゃよ』
「信頼……ですか?」
『そうじゃ、今回の件でいえばなぜ、奏真某が女性の部屋に行っただけで、自分への気持ちが離れたと思ってしまうのじゃ?』
「それは——」
先ほどのお祖父様の言葉通り、私はそう思っているから……
「その奏真という男はお主のことを好きだと言ってくれたのじゃろう? だからこそお主のために色々としてくれたのではないか?」
たしかにそうだ……
奏真さんは海が苦手なのにも関わらず私のわがままを聞いてくれて
長時間運転して連れて行ってくれた。
『にも関わらず、お主は些細なことで相手を疑っておる』
お祖父様の言葉が私の体に突き刺さるような感覚になっていた。
『その奏真某はわからんが、ワシならその場で縁を切るじゃろうな』
私は何も言えなくなっていた。
『レヴィアよ、まずは相手のことを信頼することじゃ、何があってもじゃ』
「信頼……ですか」
『そうすれば相手だってお主のことを信頼してくれる』
私が何も言えずにいるとお祖父様は「それに」と大きな声をあげた。
『話を聞いている分にはその奏真某は信頼するに値すると思うんじゃ』
「……どうしてですか?」
『ばあさんと付き合ったころのワシにそっくりじゃか……ってばあさんや耳を引っ張るでない!』
ずっと黙って聞いてお祖母様がお祖父様の耳を引っ張っているようだ
よく見た光景のため想像が容易につく。
『何をおっしゃいますか、あの頃のおじいさんは色々な女性に現を抜かしていたではありませんか、孫の前だからって良い事いわないでください』
『いやいや、それでもワシはお主ひとす……それ以上は耳が! 耳がちぎれてしまう!』
スピーカーごしにドダドダと音が聞こえていた。
『レヴィアちゃん』
しばらく何も聞こえなくなったと思ったらやわらかい声が聞こえてきた。お祖母様だ。
「は、はい……!」
『おじいさんの昔のことはさておき、相手を信頼するのは大事なことですよ』
私は黙ってうなづいていた。お祖母様からすれば見えないので黙っている様にしか感じないとは思うけど。
『たしかにおじいさんとは若かりし頃は色々あったし、それこそ離れようとも思ったけど、それでも今現在も続いてきました』
「えぇ……」
2人の孫である私から見てもお祖父様とお祖母様は仲睦まじい夫婦だと思っている。
『それは私がおじいさんを絶対的に信頼していましたし、おじいさんも同様だと思います……。 もしあなたも奏真さんとずっと一緒にいたいと思うのなら、あなたも彼のことを信頼することです』
やわらかいお祖母様の声から力強い言葉が発せられていた。
「わかりました……私、奏真さんを信じることにします」
お祖母様は安心したのか、ふふっと微笑んでいた。
「でもレヴィアちゃん」
すぐにお祖母様は私の名前を呼ぶ
「信頼した結果、彼の気持ちがあなたから離れた時は——わかっていますね」
その言葉にドキッと心臓が跳ね上がる様な感覚になっていた。
「……えぇ、わかって、おります」
私は心臓のあるところを手で押さえながらゆっくりと答える。
最後にお祖母様は「何かあったらいつでも連絡してきなさいね」と言うと通話を終了させた。
通話が終わった後も私はスマホを持ったまま
「奏真さん……」
今一番会いたい人の名前を静かに呟いていた。
==================================
【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
明日もお楽しみに!
■作者の独り言
気がつけば連休が過ぎ去っていく……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
読者の皆様に作者から大切なお願いです。
「面白そう」
「続きが気になる」
「応援する」
などと少しでも思っていただけましたら、
【フォロー】や【★星評価】をしていただけますと大喜びします!
★ひとつでも、★★★みっつでも、
思った評価をいただけると嬉しいです!
最新話or目次下部の広告下にございますので、応援のほどよろしくお願いします
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます