第16話 愛おしさと寂しさとすれ違いと……


 「く、苦しい……食いすぎた」


 俺と杏子が久々に帰ってきたということで十六原家の夕飯はパーティながらの食べ物が用意されていた。

 遠慮をしていたが、オヤジさんは「若いんだからたっぷり食え」と言われ、あけびさんは俺の皿の上に大量に入れてきて、残すのは失礼だと思い、ほとんど俺が平らげてきた。


 残っていた自分の元部屋に戻ったのはいいが、腹が重すぎて動くことができなくなっていた。


 「腹が落ち着くまで休んでるか……」


 その場に座り、足を伸ばしながら天井を見上げる


 「……レヴィア、寂しがってないよな」


 むしろ寂しいのは俺のほうか……




 

  「……奏真さん楽しんでいるかな」


 奏真さんと桃乃さんを見送った私は自分の部屋に戻ったけど

 やることがなくて暇を持て余していた。


 いつもなら奏真さんの部屋の掃除や洗濯、夕飯の用意をしたりしているが

彼がでかけているのでそれをする必要がなかった。


 自分の部屋を掃除するも、1日のほとんどを奏真さんの家で過ごしているので

大して汚れていなかったのですぐ終わってしまった。


 「……他の人はこう言う時、どうしているんだろう」


 テレビとかでは1人でショッピングを楽しんだり映画を見たりしている人が多いと話していたのを思い出す。

 映画は今は見たいものはないし、ショッピングに関して言えば


 「この天気の中歩くのはさすがに……」


 外のどんよりした曇り空をみたら行こうとする気が失せてしまっていた。


 「奏真さんが帰るまで降らないでほしいなぁ……」


 スマホに映る彼に話しかけるように呟いていた。




  「よし、腹も落ち着いたからそろそろ帰るか」


 スマホを見るとまだ高校生が出歩いても問題ない時間だった。

 今の時間帯ならそこまで渋滞も少ないから早く帰れるはずだ


 そうと決まったらと思って立ち上がったのはいいが、目の前の窓に何かがぶつかる音が聞こえていた。


 窓を開けてみると、ザーッと雨が落ちて行く音が響き渡っていた。

 しかも結構降ってるし、庭にある花が左右に揺れていることから風もそこそこありそうだ


 「さすがにこの中を走るのは危険だな……」


 仕方ない、今日は泊まって明日の朝に帰るとしよう。


 スマホを取り出して、レヴィアに電話をかける。




 

 

  「そうだ、夕飯の用意しないと……」


 ずっと何もせずに、ただ時間だけが過ぎていた。

 スマホを見ると夕方を過ぎて、夜の時間となっていた。


 いつもなら夕方ごろに奏真さんがお腹が空いたと言うので

それに合わせて夕飯の用意をしているが、彼がいないので時間の感覚がわからなくなっていた。


 「冷蔵庫にこの前買ったお惣菜があったはず」


 用意するために立ち上がると、持っていたスマホが鳴り出し、画面には奏真さんの名前が表示されていた。

 すぐに通話ボタンをタップすると聞きたかった彼の声が聞こえ始める。

 慌てて画面をタップしたことで、テーブルの上でスマホが滑ってしまい、床へと落ちてしまった。


 下にはカーペットが敷いてあるので、そこまで衝撃はなさそうだけど



 『もしもし、って何かすごい音がしたけど平気か?』

 「だ、大丈夫ですよ! それよりどうしました?」


 床に落ちたスマホを拾い、耳元にあてる。

 

 『帰ろうと思ったんだけど、雨降ってきちゃってさ』


 カーテンを開いて窓をみると、大量の水滴が流れており、空をみるとさっき見た時より雲が真っ黒になっていた。

 風もでているのか、ビュービューと音も鳴っている。


 「本当ですね、それじゃ今日はお泊まりですか?」

 『そうするしかないな、明日には止むみたいだから朝こっちをでるよ』

 

 心なしか、奏真さんの声が寂しそうにも聞こえていた。

 

 「わかりました」


 『ってか今日は何していたんだ?』


 それだけかと思っていたら奏真さんが話を続けてきた。


 「することなくてぼーっとしてたらこんな時間でした」

 『そっか、いてやれなくて悪いな』

 「奏真さんが謝ることじゃないですよ」

 『明日は2人でのんびりしようぜ!』

 「はい……って奏真さん、声がいやらしく聞こえますけど?」


 顔は見えないが、如何わしいことを考えている時の声がしていた。


 「そ、そんなわけないだろ! 俺は品行方正な男だぞ!」

 

 慌てていつもの声のトーンに戻す奏真さん。

 いつもなら怒るところだけど、今はそれも許容できてしまっていた。


 ——早く会いたい。


 それを彼に伝えようとしたが、遠くで壁を叩く音が聞こえた。

 

 『誰だろ、ちょっと待っててくれ』

 

 音は奏真さん側から聞こえたものだった。


 『あれ、杏子かどうした?』


 ガラガラと扉を開ける音がすると奏真さんが誰かに話しかけていた。

 『杏子』といっていたのでおそらく、桃乃さんのお姉さんのことだろう


 『雨が強くなってきたけど、どうするの?』

 『しょうがないから今日は泊まって明日の朝に帰る』

 『それならお母さんに言っておいた方がいいよ、泊まって行くならお風呂入っちゃえば?』

 『そうするよ』


 至って普通の家族で繰り広げられる会話が聞こえていた。

 

 『そうだ、風呂上がったら私の部屋に来てよ』


 言っているのはどうやら杏子さんだった。

 お、お風呂上がりに女性の部屋に行くなんて、奏真さんはしない——


 『わかった、後で行く』


 奏真さんの返す言葉に驚いてしまう。

 

 「そ、奏真さん……!」


 そのまま声をかけるが、奏真さんの声は聞こえなくなった。

 スマホの画面を見ると、通話終了と表示されていた。


 すぐに掛け直すが、繋がらないアナウンスが永遠と流れるだけだった。


 『お姉ちゃんにフラれた』


 その時、桃乃さんが話していたことが頭の中を巡り始める。

 もしかして、久々に杏子さんと会ったことで奏真さんの気持ちは……


 「そうなったら……私は——」


 そのまま私は糸の切れた人形のように床へ座り込んでしまった。



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【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。

明日もお楽しみに!


■作者の独り言

昨日から4連休を満喫中!

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