第15話 久しぶりの邂逅


 「何で無理して食べたりしたんですか……!」


 ハーブティを注いだコップを俺の前に置くとレヴィアは大きな声を上げる。

 喉の渇きを潤すためにコップの中身を一気に飲み干した。

 何か胃の中がスゥっとしてきた。ミント系のアイスを食べた時と同じ様な感覚だ。


 「何でってレヴィアの作ったものだからだよ」

 「ひゃっ……」 


 俺の返答にレヴィアの顔が一瞬で真っ赤になった。

 

 「だ、だからって……あんな失敗作を……」

 「レヴィアは俺のために作ってくれたんだろ?」

 「そ、そうですよ……」

 「だったらそれに応えるのに食べなきゃ失礼だろ?」 

 「そ、奏真さん! おかわりいりますよね!」


 レヴィアは俺のコップの中身が空になったのを見て、すぐにポットを取り出して注いでいた。

 ……にしても誤魔化し方下手だな。


 「それに誰にだって得意不得意はある。 料理はダメでもハーブティは美味しく作れるだろ」

 

 俺はすぐにハーブティを飲み干した。

 ようやく喉の渇きがなくなってきた感じがする。

 

 「よかったら今度俺が教えようか?」

 「え……!?」


 レヴィアは驚いた顔をで俺の顔を見る。


 「奏真さん、料理できるんですか……!?」

 「いくら何でも驚きすぎだろ、去年から1人で暮らしているんだぞ」

 「たしかに……!」 


 いつの間にかレヴィアの顔色は元に戻っていた。

 

 「って偉そうに言ってるけど、十六原家にいる時に杏子に教えてもらったんだけどな」

 「杏子さんってたしか、桃乃さんのお姉さんですよね?」

 「そうそう……あっ!」


 桃乃の名前がでて思い出した……

 

 「どうしました?」

 「……モモのことすっかり忘れてた」


 スマホの画面をみると、モモからのLIMEが何件も来ていた。


 「どこに行ってたの! って何でその女がいるの!」


 急いで自分の部屋に戻ると玄関先で、モモが怒りの形相で俺とレヴィアを見ていた。


 「そんなことよりも早くしないと遅くなるぞ」

 「ごまかすなー!」

 

 

 地下駐輪場に行くと、モモにヘルメットを被せてからバイクのエンジンをかけ、モモを俺の背中に乗せる。


 「奏真さん、今日は泊まっていくんですか?」

 「そうはしたくないけどな……」

 

 できることなら帰りたいが、十六原家で唯一の男性で肩身が狭いモモの父親あたりが「今日ぐらい男2人で語り合おうぜ」とか言い出しかねない。

 

 そうなったら彼が寝るまで家を出るのは無理だろうな。

 

 「もちろん、泊まるに決まってるでしょ! 今日こそはお兄ちゃんと一緒に寝るんだから!」


 後ろでモモが話に割って入ってきた。

 

 「……桃乃さん?」


 レヴィアは和かな表情のままモモを呼ぶ。

 ……これまで何回かあったからわかるが内心では絶対に笑ってない。


 「な、何よ……!」


 モモも勘づいたのか、レヴィアの顔をみると怯える様な顔をしていた。


 「奏真さんに変なことしたら許しませんからね?」


 最後にレヴィアはふふっと笑っていた。

 見てるこっちまで怖くなってきた。


 「とにかく言ってくるから、戸締りだけはしっかりな! 何かあったら連絡よろしくな!」


 後ろでモモが背中にしがみついているのを確認して、アクセルをまわしてバイクを発進させた。





 駐輪場をでてしばらく走っていると、ヘルメットにつけたインカムのスピーカーから嬉しそうなモモの鼻歌が聞こえてきた。


 「随分と楽しそうだな」

 「だってお兄ちゃんが家にくるんだもん! 楽しいはずがないでしょ!」

 

 よほど嬉しいのかモモの声のトーンがさっきよりも上がっていた。

 

 「去年は帰ってこなかったし、すごく寂しかったんだから!」

 

 モモはそう言って俺の背中を叩く。

 

 「というか、わたしが来なければ今年も帰らないで、あの女と過ごしてたでしょ!」

 「まあな」

 「即答!? 少しは悩んでよー!」


 叫びながらまた俺の背中を叩く。


 「運転手に危害を加えるな、事故っても知らないぞ」

 

 今は赤信号で止まっているから問題ないが。


 「何がなんでも安全運転で!」

 「無茶言うな……」 


 目の前の信号が青になり、バイクを発進させる。


 「そういえば、お姉ちゃんがお兄ちゃんに会えるの楽しみにしてたよ」

 「何で俺が来ること知っているんだよ」

 「お兄ちゃんを待っている時にLIMEで送ったから」 

 「そもそも杏子のやつも去年帰ってないんだろ? 何で今年は帰ってくるんだ?」


 杏子も場所は違うが高校進学と同時に家を出て学校の寮に入ると本人が話していた。去年帰らなかったってことは俺と一緒で遊ぶことに夢中になっていたんだろう……たぶん。


 「もしかして、お兄ちゃんに会いたかったからとか?」


 モモは揶揄う様な口調で話していた。

 

 「そんなわけないだろ……」

 

 と、冷静を装っているが内心はドキッとしていた。


 「わかんないよー。 お姉ちゃん意外と寂しがり屋だし」


 運転してて顔は見えないが、モモのやつ絶対にニヤニヤしながら話してるだろ。


 「ってかお兄ちゃん、お姉ちゃんから告白されたらどうする?」 

 「ないない……」


 モモの質問を即座に否定する。

  

 「そろそろ大通り入るからしっかり捕まってろよ」

 「はーい!」


 モモが俺のお腹に手をガッチリとまわしたのを確認すると、交通量が多い通りに入り、法定速度ギリギリまでスピードを上げていった。


  


 

 「あら奏真くんいらっしゃい」


 十六原家に到着すると外で庭の掃除をしていたモモの母親のあけびさんに遭遇した。


 「それと……モモ! 話は聞いたわよ!」


 モモは忍び込む様に家の中に入ろうとしたがすぐに見つかってしまう。


 「あ、お母さんいたんだ! ただいまー!」

 「ただいまじゃないの! どれだけ心配したと思ってるの!」


 子猫のように首根っこを掴まれたモモは身動きが取れずジタバタとしていた。


 「罰として今日の夕飯の用意手伝いなさい!」

 「えー! やだー!お兄ちゃんと遊んでたいー!!」 


 モモが怒られているのを尻目に俺はバイクをガレージに持って行った。


 ほとんどの近所の家の壁が白いのに対して十六原家は濃い目の壁を基調とした壁となっており、ものすごく目立っていた。

 モモの父親の趣味の場所であるガレージもあってかより一層目に付く家だ。


 シャッターは空いており、中からガチャガチャと音がしていた。


 「ちわーっす、オヤジさんいますー?」


 バイクを押しながらガレージに入っていくと、奥からヒョコっと帽子を被った男が顔を出していた。


 「おー、奏真! 帰ってきてたのか! バイクはその辺に置いてちょっとこっちにこいよ」


 俺に気づいた十六原家の家主、十六原八朔いざはらはっさくは俺を手招きしていた。

 言われた通りにバイクを停めて、オヤジさんがいる所へ向かう。


 「どうしたんですかって……前よりも増えてません?」

 「まあな、最近は小遣いをやりくりも楽になってな」


 俺の視線はオヤジさんの前にある、ラジコンに目がいく

 最初は俺がやり始めたことだが、ある時に一緒に見ていたオヤジさんが興味をもってからは俺以上にハマっていた。


 ガレージの壁にはパーツがぎっしり詰まった専用棚やラジコン用の収納ケースがズラッと並べられていた。


 「今度近くのサーキット場で大会があるらしくてよ、それにでようと思って絶賛チューニング中だ」

 「……ガッツリハマってますね」


 俺がそう応えるとオヤジさんは歯をニカっとさせて笑っていた。

 

 「あなたー! 買い物に行きたいから車出してー」


 ガレージの入り口からあけびさんの声が聞こえた。


 「おいおい、せっかく野郎同士で語り合ってたのによぉ」


 オヤジさんはブツブツと文句を言いながらもチューニング中の車体やパーツ、工具などをしまう。


 「今日はゆっくりしていくんだろ? また後で話そうぜ」

 「ういっす」


 オヤジさんはガレージにとめてあった車に乗ってあけびさんとふくれっ面のモモを乗せて買い物に行ってしまった。


 「……中に入ってるか」


 ガレージのシャッターを閉めてから家の中に入って行った。


 「変わんないな……」


 玄関のドアを開けて家の中に入ると、家を出た時とほとんど変わっていなかった。

 

 「1年でそんな急激に変わるものはないよな」


 独り言を言いながら十六原家のリビングに入る。


 「あれ、奏真?」


 声がした方をみる。


 「杏子……」


 赤に近い茶髪のセミロングのポニーテールにTシャツにジーパンといったラフスタイルの十六原杏子いざはらあんずが流し場でコップを洗っていた。


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。

明日もお楽しみに!


■作者の独り言

男には趣味は大事なんですよ、マジで!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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