第14話 悔しい……けど!
「どうしてこうなった……」
疲れを取るには自分のベッドの上が一番。
そのはずなのに今日に限ってはそれはできなさそうだ……
「何であんたがお兄ちゃんのベッドにいるの!」
「それをあなたに言う必要はないです!」
俺の右隣にはレヴィア左隣にはモモ。
つまり俺は2人に挟まれているわけである。
時は遡ること、数分前——
日付が変わりそうな時間になっていたので、そろそろ寝ると2人に伝えたところ……
「それでは私も部屋に戻りますね、今日はありがとうございました」
レヴィアはお礼を言って帰ろうとしていたので家まで送ろうとしていたが……
「お兄ちゃん寝るの? それじゃ一緒に寝ようよ!」
モモの言葉に終結を迎えそうだったバトルに再び火がつき、俺の目の前で言葉の暴力合戦が始まってしまう。
体力の限界だったので、放っておいて寝ようとして、ベッドに倒れ込んだのだが
腕の辺りに柔らかい感触があたり、目を開くとそこには俺の左腕にしがみつくモモの姿が。
「桃乃さん、奏真さんから離れてください!」
そして左腕からもふにっとした感触がしたので見てみると右側のモモと同じ様にレヴィアが俺の腕を組んでいた。
「やだよー! あんたこそ自分の部屋があるなら帰りなさいよー!」
お願いだから俺のお腹のあたりでバトルを始めないでくれ……
そんな俺の悲痛の叫びなど2人に聞こえるはずもなく、俺は眠れぬ夜を過ごしていくのだった……
「……朝かぁ」
大きな欠伸をしながら体を起こす。
レヴィアとモモはどうやら起きている様だ。
相変わらず掛け布団があらぬ方向へ吹っ飛んでいた。
あれから2人が力尽きてそのまま寝たのはいいが、腕から伝わるふにふにとした柔らかい感触が脳を刺激したことでまったく寝付けず、朝方近くまで起きていた。
「ってか今何時だよ……」
枕元に置いたスマホをみると、もう少しで午前が終わりそうな時間だった。
寝た時間を考えればそうなるよな……
「……リビング行くか」
お願いだから今日はいがみ合いはやめてくれよ。
心の奥底で切実にそう願いながらリビングに向かった。
「おはよ……」
大きな欠伸をしながらドアを開ける。
「あ、お兄ちゃんおはよう!」
真っ先に気づいたのはモモで、すぐに俺の方へ向かってくると抱きつき始める。
あれ……レヴィアの姿が見えないけど家に帰ったのか?
「ねえお兄ちゃん、お腹空いてる?」
抱き着いたままモモが俺の顔の見上げるように見ていた
「言われれば腹減ったな……」
ここ最近、レヴィアと一緒に朝ご飯を食べることが多いせいか、ちゃんとした時間に腹がなるようになっていた。
「それじゃ、座って! ご飯用意したから」
そう言ってモモは俺から離れると電子レンジの中から形と色といい、よくできた卵焼きを取り出して俺の前に置いた。
「もしかしてこれ、モモが作ったのか?」
「もしかしなくてもわたしが作ったんだよ!」
俺の目の前でモモはえっへんと言わんばかりのポーズをとっていた。
……幼さが残る顔だからか、とてもよく似合っていた。
箸立てから箸をとって卵焼きを一切れにして口に運ぶ。
ふわふわ感と絶妙な甘さがマッチしていた。
気がつけば口の中にあった卵焼きは無くなり、次の一切れを口に運ぶことを繰り返しているとすぐに食べ終わってしまった。
「料理できたんだな」
手を合わせてから、モモの顔をみる。
「それってどう言う意味!?」
「いや、十六原家にいる時におまえが料理してるところ見たことなかったし」
「だっていつもお母さんがやっていたし」
「おばさんとおじさんが出かけた時は俺と杏子に任せっぱなしだったろ?」
「もー! 昔の話なんていいの!」
怒りだしたモモの顔を見て、俺は思わず笑ってしまう。
「もうすぐ出発するから、忘れ物ないようにしとけよ」
「だいじょうぶー!」
モモはリビングでまったりテレビを見ていて俺の話が耳に入っていなかった。
むしろそれは好都合だったので、俺は玄関を開けて隣のレヴィアの部屋へ行った。
いつもならレヴィアは俺を起こしに朝早く来るのに、いないことに不安を感じていた。
もしかして昨日の疲れが取れずに体調を崩したのかもしれない
しかも夜中までモモといがみ合いを続けていたし……
様々な不安要素が脳内の中でで巡らせながら、インターフォンを押した。
「あ、奏真さん……起きていたんですね」
インターフォンからレヴィアの声が聞こえ始めた。
何かいつもより声に覇気がない感じにも思える。
「おはようレヴィア、何かいつもいるのにいなかったからさ、やっぱ朝はレヴィアの顔見ないとやる気がでないんだよな」
俺の話にレヴィアはふふっと笑っていた。
「今、行きますのでちょっと待っててくださいね」
ブツっとインターフォンをオフにする音が聞こえると部屋の中から急いでいる様な足音が聞こえてくるとドアからガチャっと音がする。
「鍵開けましたので、どうぞ中へ!」
ドアを開けてレヴィアの家の中に入ると、この前来たよりも綺麗になっていた。リビングに入ると光が差し込んでいる窓に小さな植木鉢が置かれている。
部屋の構造は俺のと同じだが、置いてあるもので随分と変わるんだな……。
「何か飲みますか? と言ってもハーブティぐらいしかないですが」
「それでオッケー!」
レヴィアは冷蔵庫からポットを取り出して、コップに注ぐとハーブ特有の匂いが鼻の中に入ってくる。
彼女と会ってから毎朝これを飲んでいるので、最初は違和感があったが今ではこの匂いを嗅ぐと落ち着くようになっていた。
「それよりどうされたんですか? 奏真さんがこちらに来るなんて」
レヴィアはコップを俺の前に置くと俺の前の椅子に座った。
「いや、いつもなら朝起こしに来てくれるのにいないからさ、心配になったんだよ。昨日は夜までバタバタさせてしまったし」
「心配をおかけしてすみません」
レヴィアは頭を上げる。
「謝ることじゃないから、こっちが勝手に心配しただけだし」
俺は頭を上げるように促す。
「朝は奏真さんの部屋にいたんです」
「え、いたの?」
「……と、いうよりも朝起きたら奏真さんのベッドにいました」
レヴィアは顔を下に向けて話していた。
真面目なレヴィアにとっては恋人とはいえ、男のベッドで寝ることは恥ずべきことなんだろう。
……俺はいつでも大歓迎なんだけど。
「でもそれは桃乃さんもいらしたので、3人で仲良く寝たってことにしたんですが、その後に——」
「その後何が?」
「桃乃さんの料理です」
「モモのって……あの卵焼きか?」
「はい、ものすごく綺麗で美味しそうに作っていましたよね! 食べてみたらものすごく美味しかったんです!」
「それはよかったんじゃないか?」
俺の問いかけにレヴィアは「そうなんです」と呟くように答えてるとすぐに下げていた顔をあげて俺の顔を一心にみる。
「なので、わたしも同じものを作ってみたんです……奏真さんに食べてもらおうと思って!」
食べたいと思ったが、レヴィアの表情をみると良い結果ではなさそうだ
「けど、できたのは桃乃さんのはまったく違うものでした……」
「なるほどな……」
それを見た桃乃は勝ち誇った表情でレヴィアを見ていたようだ
完全に負けを認めたレヴィアは部屋に戻り何度も作ったが、結果は同じだったようだ。
「……ちなみにこれです」
レヴィアはシンクの上に置いてあった皿をテーブルの上に置く。
皿の上には真っ黒の卵焼きのようなものが3つ存在していた。
「私、昔から料理はダメなんです……いくら練習してもうまくいかなくて……」
そう言われれば、毎朝レヴィアが朝ご飯を用意してくれてはいたが、いつもはコンビニやスーパーで売っているパンとかおにぎりだった。
レヴィアと一緒に食べれるから全く気にしてなかったが。
「……レヴィア、箸ある?」
「ありますけど、どうするんですか?」
「もちろん食べるんだよ」
「えぇ!? どうみても美味しくないですよ」
「実際に食べてみなきゃわかんないだろ?」
「そうですけど……」
俺はレヴィアから箸を受け取ると黒い物体に箸をつける
何かジャリって音がした気もするが、気にせず半分にして口に入れる。
レヴィアはその様子を見ては大きく息を飲んでいた。
口の中でもジャリジャリと音がでているが、噛んでいくと、ちょっと
しょっぱい感じがするが食べられなくもない。
レヴィアが心配そうに俺の顔を見ていたので俺は右手の親指を立てる。
皿に乗っているものを全て平らげて、手を合わせる。
「ど、どうでしたか……?」
レヴィアは声を震わせながら聞いていた。
「美味かったよ、まあ若干しょっぱい気がするけどなんとななるレベル」
「……奏真さん、無理していませんか? 顔が軽く引き攣っていますけど」
何事もない感じを装っていたが、どうやら顔にでていたらしい……
「……レヴィア、お茶もらえる?」
俺は喉の潤いを求めてレヴィアの前にコップを差し出した。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
明日もお楽しみに!
■作者の独り言
卵焼きは甘いのも大根おろしと醤油どちらもいけます
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
読者の皆様に作者から大切なお願いです。
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