第20話 安心とお出迎え
「やっぱり、既読がつかない……」
LIMEの送信ボタンをタップして、私は部屋の窓を見る。
大量の雨粒が窓を打ち付けていた。
雨の音も打ち付ける音もさっきよりも強く感じる。
奏真さんを信じたい気持ちと寂しさでメッセージを送ってしまった後で大変なことに気づいてしまう。
——彼なら絶対にこの雨の中でも帰ってきてしまう
信じようと思った気持ちが天に届いたのか、会いたいと送ったメッセージに対してすぐに既読がついた。
だけど、その後に『雨が強いから帰るのは明日にしてください』と急いで送ったが既読がつくことはなかった。
普段なら既読スルーされたら悲しい気持ちになるけど、今回に限ってはスルーをしてほしい。
「この雨どうなるんだろう……」
天気予報を見るためにテレビをつける。
『今行くからなッ!!』
テレビ画面には大雨の中、叫びながら街中を走る、少年の姿が映しだされたアニメが放映されていた。
そういえば前に奏真さんが深夜にアニメを見ていたことを思い出した
リモコンのDボタンを押して、天気予報を表示させる。
明日の朝には晴れる様だが、朝方までは雨が強くなると書かれている。
『俺が行くまで待ってろよ……!』
天気予報が表示される中、深夜アニメの中の主人公は土砂降りの中を必死に走っていた。
今の私には主人公の姿が奏真さんと重なって見える。
そのせいなのか、興味もないのに画面に釘付けになっていた。
十字路が映し出されるが、主人公はそのまま前へと進んでいこうとしていたが——
横から煌々としたライトをつけた大型トラックが主人公と衝突しようとしていた。
「……っ!!」
すぐにリモコンを取ってテレビの電源を切った。
「違うのに、何でこんなに不安になるの……!」
テレビの最後の瞬間が頭から離れず、自分でもわからないけど体が震え出していた。
震えた手でスマホを取り、LIMEの画面を表示させるが奏真さんからのメッセージどころか、私が最後に送ったメッセージに既読すらついていなかった。
「奏真さん……」
あれから何度もスマホの画面を見ているが奏真さんの反応は一切なかった。
もしかしたら奏真さんは桃乃さんの家にいて、ずっと杏子さんと一緒にいるのかもしれない。
——無理矢理にでも自分を納得させたかったけど、さっきのテレビのシーンもあってかうまく切り替えることができなかった。
どれくらい経っただろう……
テーブルの上に顔を乗せた状態でずっとスマホだけを見ていた。
そのため頭もボーッとし始めていた。
その時、こんな時間に鳴るはずのないインターホンの音が鳴りだしていた。
「ひゃっ……!?」
私は素っ頓狂な声を上げながら顔を上げて、ドアホンのスイッチを起動した。
「そ、奏真さん……!」
画面にはヘルメットを抱えて全身雨でびしょ濡れになっている、奏真さんの姿が写っていた。
私は急いで玄関に向かい、ドアを開ける。
「ただいまレヴィア」
奏真さんは出発時には着ていなかった水玉模様のレインコート姿でニカっと歯を剥き出しにした笑顔で私の顔を見ていた。
「奏真さん……!」
彼の姿を見て、すぐに抱きつこうと思ったが……
「奏真さん、シャワー浴びてください! そのままじゃ風邪ひいてしまいますから!」
そう言って私は奏真さんの手を取って洗面所まで連れて行った。
「それじゃ、レヴィアも一緒に入ろうぜ」
レインコートを脱ぎながら如何わしい事を考えてる時の表情を見せていた。
「着替え持ってきますから、早く入ってください!」
私は彼にバスタオルを押しつけて、そのまま洗面所から出て行った。
「体が冷えてる時は、人肌で温め合うのって必要だと思うんだけどなぁ」
ドア越しに奏真さんの欲望が滲み出ていた。
さっきまで心配していた自分がバカらしく思えてくる。
——と、呆れた気持ちになりながらも安心している自分がいた。
彼から渡された合鍵を使って奏真さんの部屋のドアを開ける。
毎朝、起こしたりご飯を用意することが日課になっているので、いつでも入れる様にと渡してくれたものだ。
一応私の部屋の合鍵も渡しているが、ほとんど使っているのを見たことがない、奏真さんが起きてる時は私も起きているし……。
部屋の中に入ってすぐに彼の寝室に入った。
奏真さんが出かけてから軽く掃除はしていたので、汚れてはいないはず。
部屋の奥にあるタンスを開けて、いつもパジャマ代わりに使っているTシャツとハーフパンツとトランクスを取りだして自分の部屋に戻って行った。
部屋に戻り、洗面所の前を通ると私が戻ってきたことに気付いたのか奏真さんが声を上げていた。
「あれ、奏真さんもうでたんですか?」
「まあな、シャワーだけならそんなにかからないだろ?」
シャワーの時でも長時間入っている私からしたらすぐにでることが理解できなかった。
「そうだ、お着替え持ってきましたので、少しドアあけますね」
私は少しだけ洗面所のドアを開けて、持ってきた着替えを渡す。
「全部あけてもいいんだぞ?」
ドア越しに奏真さんの声が話しかけていた。
……顔は見えないけど、如何わしい表情をしていそうな声だった。
「奏真さん、今どんな格好ですか?」
「どんなって、産まれたままの姿だぞ? あ、今トランクスに右足を通したぞ」
「そんなこと実況しなくて結構です!」
バシンと洗面所のドアを勢いよく閉める。
「そういえばさ……」
ドアを閉めると奏真さんは先ほどの人を揶揄う様な声ではなく、いつも通りのトーンになっていた。
「……どうしました?」
「玄関開けた時さ、泣きそうな顔していたけど何かあったのか?」
「そ、そうですか? 気のせいだと思いますけど」
戸惑いながらも何とか答える。
「あ、もしかして……!」
ドア越しに奏真さんが何かに気づいたのか大きな声を上げていた。
「たしか今日、全米が泣いたってキャッチフレーズの映画が地上波でやってたからそれ見て泣いてたんだろ?」
人を揶揄う様な声で奏真さんは笑っていた。
「奏真さん……」
「何だよ、もしかして図星か?」
「明日の朝ごはんはトマトとピーマンどちらがいいですか?」
「それ俺がどっちも嫌いなやつじゃないか!」
奏真さんは今にも泣きそうな声を上げていた。
私はふふっと笑った後、冷蔵庫からハーブティとコップを2個取り出す。
「冗談ですよ、ハーブティ用意しておきますから早くでてきてくださいね」
それぞれのコップにハーブティーを注ぐといつも座る椅子に腰掛けた。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
明日もお楽しみに!
■作者の独り言
何気ないやりとりの会話っていいですよね
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
読者の皆様に作者から大切なお願いです。
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