第12話 夏の1ページ そして……


 「やっちまったぁぁぁぁぁぁ!!!」


 海岸に戻った俺は同じことをずっと叫んでいた。

 原因は不可抗力とはいえレヴィアの胸を掴んでしまったこと……


 これが「ラッキースケベか!」なんて思いながら内心喜んでいたが

 いくら何でもやりすぎたと悔やんでも悔やみきれない。

 しかも両手に感触が残っているので余計……。


 レヴィアは自分のせいでもあるので仕方ないと言ってくれてはいるが……


 

 「それにしても遅いな……」


 気をつかってくれたのか、俺が勢いで何度も土下座をしていたので

居た堪れなくなったのか定かではないが、飲み物を買ってくると言って売店の方へ行ってしまった。


 売店まではそんなにかからないはずなのに、20分近く経っても帰ってきてはいない。


 「……探すか」


 俺はすぐに立ち上がり、売店がある方へ歩いて行った。




 辺りを見ながらゆっくり歩いていると、レヴィアの姿が見えた

 ——チャラそうな男2人の姿も一緒に。

 しかも男の1人がレヴィアの肩に手をかけたことでレヴィアはビクッと体を震わせていた。


 「……クソがッ!」


 俺は走ってその場に向かって行った。


  


 

 「す、すみません待たせている人がいますので……!」

 「すぐ終わるからさ、ちょっとだけ付き合ってよ」


 目の前の茶髪の男の人は私の腕を掴む。

 それが不快に感じて私の体が震えだしていた。


 「離してください……」

 「俺たちと一緒に来てくれたら離してあげるよ〜」

 

 2人の男の人たちは不敵に笑みを浮かべていた。

 

 逃げなきゃ……

 そう思っていても体が震え出していて動くことができなかった。

 

 いやだ……助けて……!


 「やっべ、今日は楽しくなりそうだな」

 「ほんとだな〜!」


 奏真さん……!


 私は心の中で大好きな人の名前を呼ぶ。


 「お、いたいた探したぞ」


 奏真さんは私の掴んでいた男の人の腕をパシっと払うと、男の人と私の間に割って

入ってきていた。






 「おい兄ちゃん、横取りするとはいい度胸じゃねーか」


 何か後ろで耳障りな声が聞こえてきたが、今はそんなのはどうでもよかった。

 

 「大丈夫か、あっちで休憩でもしようぜ」


 俺はレヴィアの体全体を海岸の方に向かせてポンポンと背中を押す。


 「そ、奏真さん……押さないでください!」

 

 レヴィアは足がつまづきそうになりながらも海岸の方へ歩き始める。

 俺も後をレヴィアの後を追う様に後ろを歩く。


 「おいてめえ! 人の言うこと無視してんじゃねーよ!」 


 無視されたことに腹が立ったのが、男は怒鳴り声を上げる。


 「お、もしかしてそっちはコーラ? さすがレヴィアわかってるぅ!」


 何か言うのも面倒だったのでさらに無視を続ける。


 「てめえ、女の前だからって調子に乗ってると、痛い目見るぜこんな風にな!」


 男の方を見ると、俺に殴りかかろうとしていた。

 ……が、男の握り拳は俺に当たる前に別のものに当たる。


 ちょうどよく男の前を歩いていた、ガタイのいい男の人に。


 「あら、ごめんなさいね……って」


 ガタイのいい男の人は独特の声で謝りながら男2人の方を見ていた。


 「あら、ボウヤたちなかなかいい男ね、よかったらワタシと一緒に遊ばない?」


 誘いの声をかけているが、既に男2人の腕を掴んでいた。

 俺の何十倍もある太さをもつ腕で。

 

 「け、けっこう……ってか離してー!!!」

 「いやだ〜!!!!」


 もちろん、男2人は簡単に振り払うことはできずそのままガタイのいい男性に連れていかれてしまう。


 滅多に見ない光景に俺は呆然と立ち尽くしていた。

 

 「と、とりあえずもどろう——」 


 レヴィアに声をかけようとすると腰のあたりがギュッとするような感触がしていた。

 視線を向けるとレヴィアが抱きついていた。


 「ど、どうしたんだよ!?」

 

 慌てながらも声をかける。


 「怖かった……何もできなかった……!」

 

 レヴィアは体を震わせながら微かな声を上げていた。


 「奏真さんがこなかったら……私……!」

 

 顔を上げたレヴィアの目尻には大量の涙が溜まっていた。

 危機がさったことで緊張の糸が切れて泣き出してしまっていた。


 「……俺こそ遅くなってごめんな」

 「奏真さんは……悪く……ないです……」 


 レヴィアは顔を下に向けて本格的に泣き出してしまっていた。

 

 俺は彼女の頭に手を置き、ゆっくりと撫でていく。

 レヴィアはそのことにびっくりしたのか驚いた顔で俺の顔を見る。


 「やば……またやっちまった!?」


 先ほどのことを思い出し、すぐに手を上げる。


 「……もっとしてください、私、奏真さんに頭を撫でられるの嫌いじゃないですから」


 だが、レヴィアは小さな声で喜んでいた。


 「それじゃお言葉に甘えて……」


 俺はもう一度レヴィアの頭を撫でていく。


 



 「2人ともおかえり」

 「おかえりー」 

 

 日が沈み始めたので、海の家に戻ると、恭一と雫はポータブルゲーム機で遊んでいた。


 「……持ってきてたのかよ」

 「特典のゲーム内で使えるシリアルコードもらったらすぐに使いたくなってね」

 「で、いいの当たったのか?」


 俺が聞くと、雫が「ドヤッ」と口ずさんでいた。


 「超レアアイテムゲットしたぜー」

 「ちなみに僕は全てハズレ」

 

 恭一は残念そうな顔をしていた。


 「まあ、雫にレアアイテムがでたから僕は満足だけどね」

 「そういえば俺とレヴィアの分はどうだったんだ?」


 特典アイテムをもらうにはこの海の家を利用していることが必須で

 入る時に英語と数字が混ざり合った用紙を渡したのだが……


 「奏真のはハズレでレヴィアのやつで超レアアイテムがでたんだー」

 

 それを聞いたレヴィアはよかったと喜んでいたが、多分理解できていないだろう……。


 「そろそろここも閉めるみたいだから、2人とも着替えてきちゃいなよ」

 「へーい」

 「わかりました!」


 2人揃って返事をするとそれぞれの更衣室へ向かって行った。



 「ねぇねぇ、キョウくんー」

 「うん、どうしたの?」

 「何か、奏真とレヴィア朝とは違う感じがするなー」

 「そうだね、僕らがいない間に何かあったのかもね」

 「奏真とレヴィアはレベルアップー。何かとは言わないけどー」

 

 雫はニヤリと不敵な笑みを浮かべながら恭一の顔を見ていた。

 

 「わかったから、ゲーム機しまおうね帰る準備しなきゃいけないんだから」


 恭一は母親のような口調で雫のゲーム機を取り上げていた。





 「つかれたぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 マンションの地下駐輪場にバイクをとめてエンジンを切ると一気に疲労感が押し寄せてきた。

 俺とレヴィアが着替えてすぐに出発して、途中で近くのファミレスで夕飯を食べてきたため

 マンションに着く頃には辺りはすっかり真っ暗になっていた。 


 「奏真さん長時間の運転、お疲れ様でした」

 「レヴィアもな、ずっと乗ってるのも疲れただろ?」

 「そんなことはないですよ、夜の風景も綺麗でしたし!」


 先にバイクから降りてレヴィアの手を取って、彼女が降りるのを手伝う。

 リアボックスから荷物を取り出りだして、自分達の部屋のある階へ上がって行く。


 「明日はたぶん丸一日寝てそうな気がする」

 「ふふっ、私もです」

 「いっそのこと一緒にね——」

 「——奏真さん、部屋の前に誰かいませんか?」 


 『一緒に寝ようぜ!』

 言うなら今だ!と思ったのにレヴィアの声で遮られてしまう。

 

 がっくりと肩を落としながらレヴィアが指差した方を見ると、たしかに俺の部屋の前で

 体育座りをしている女の姿が見えた。


 「……ってマジかよ!?」


 その姿には見覚えがあり、俺は驚きの声を上げる。

 声に気づいたのか、座っていた女はこっちをみるとすぐに立ち上ると、こちら目がけて走ってきた。


 「もうどこいってたの、お兄ちゃん!」

 

 女は俺の体に勢いよく飛びついてきた。

 

 「いやいや、何でモモがここにいるんだよ!?」

 「お兄ちゃんに会いたかったからだよー!」


 俺に飛びついてきた女——

 十六原桃乃いざはらもものは満面な笑みで答えていた。



 ==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


少し短めですが、今日はここまでになります

明日もお楽しみに!


■作者の独り言

海のエピソード終了! 次は修羅場・・・?

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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