第7話 それであなたが喜んでくれるなら

 

 「それじゃレヴィアは9月から千年原学院に編入するのか、一緒のクラスになれたらいいなー」

 「もしかして雫さん、千年原学院なんですか?」

 「そうだぞー」

 「よかった、知っている人が誰もいなかったので安心しました」

 

 海に行くことが決まり、当日の待ち合わせなどを恭一と話していたがその横ではレヴィアと雫が話していた。


 「雫がこんなにも早く打ち解けるなんて珍しいな」


 その光景を見ていた恭一がボソッと呟く。


 雫は極度の人見知りで気を許した相手でなければ話しをするどころか

近づくことさえしないという。


 俺の時は恭一の友人ということもあり、何回か顔を合わして何とか普通に喋るようになった。


 「やっぱ女性同士のほうが気が楽なのかもしれないね」

 

 そう話す恭一の表情は嬉しそうにも悲しそうにも見えていた。 


 「っと、もうこんな時間だそろそろ帰らないと」


 リビングにある壁掛け時計を見ると夕方になろうとしている時間だった。


 「雫、そろそろ帰るよ」

 「わかったー」

 

 前々から思っていたけど、恭一、おまえ彼氏というか親だな。


 「それじゃあ、イベントは今週末だから忘れないようにね」

 「レヴィア、また今度なー」

 「はーい!」


 そう言い残して恭一と雫は帰っていった。

 玄関まで見送り、出たのを確認してドアを閉めてリビングに戻る。


 リビングではレヴィアがテレビやネットでよく聞く歌を口ずさみながら

 使ったコップや皿を洗っていた。


 「なんかすごいご機嫌だな」


 俺は椅子に座り、タオルでテーブルの上を拭きながらレヴィアに話しかける。

 

 「そうですか?」

 「なんか声のトーンからして上機嫌ってのがでまくってるぞ」

 

 レヴィアが嬉しそうにしているのを見ていると俺まで嬉しくなってくる。

 正直言えば、海じゃなければ俺ももっと喜んだんだと思うが……


 「でも、よかったんですか? 嬉しさのあまり、強引に押し切っちゃいましたけど。 奏真さん海が苦手なんですよね……?」

 

 洗い物が終わるとレヴィアは俺の前の椅子に座る。


 「正直に言えば、抵抗はあるけどな」

 「……そうですよね」


 申し訳ないと言った感じの表情で答えるレヴィア 


 「レヴィアが喜ぶ姿が見れるなら、どうでもいいかなと思ってる」

 「奏真さん……!」


 レヴィアはすぐに明るい表情に戻っていた。


 「それに……」

 「それに……?」

 「レヴィアの水着姿が見れるしな!」

 

 これが一番重要事項。

 海と言ったら水着! しかも自分の彼女の水着姿!

 これが見ることができるなら苦手なものなんか簡単に克服してやる

 ……って気持ちになれる。


 それを聞いたレヴィアは呆れたと言いたそうな表情で俺を見ていた。

 

 「もしかしてものすごい呆れている?」

 「呆れ8割、安心2割です……。少しでも心配して損した気分です」 

 

 表情は先ほどと変わらず呆れ顔だった。

 いやあ、レヴィアの水着姿が楽しみになってきた!


 「……奏真さん、また顔がニヤけていますよ」

  

 おっと、考えていることが顔にでてしまったようだ。

 俺はパンと軽く自分の頬を叩いて気を引き締める。

 それを見てレヴィアはため息をついていた。







 「それじゃ、奏真さんおやすみなさい」

 「おやすみ、また明日な!」

 「はーい!」


 奏真さんの家の玄関を締めてからすぐ隣の自分の部屋のドアを開けて中に入る。

 昼間に奏真さんが手伝ってくれたおかげで段ボールや適当に置かれて家具で埋め尽くされていた倉庫のような空間は、やっと部屋と呼べるものになっていた。


 寝室に入り、目の前にあった白い段ボールに驚く。

 もちろん中身は奏真さんにも見られた自分の下着類。

 全部取り出して、タンスの中に閉まっていく。


 そして、その段ボールの奥深くに置かれたフリル付きの薄いピンクの水着を手に取り、部屋の鏡の前で自分の体にあてる。


 『レヴィアの水着姿が見れるしな!』


 奏真さんは私の水着姿をとても楽しみにしているようだった

 本心もあるし、奏真さんのことだから下心もあると思う。


 仮にそうだったとしても、好きな人には早く見せてあげたいと思ってしまう。それで奏真さんが喜んでくれるなら、私だって嬉しい……。


 「……うん、決めた」


 私は段ボールから水着を取り出してタンスの中にしまう。

  


 

 

 

 『おはようございます、起きてますか奏真さん?』

 

 寝ぼけながらも枕元に置いてあったスマホの画面をタップすると

 レヴィアの声が聞こえてきた。

 

 「おき……てる……」

 「声が寝ぼけてます、もう8時ですよ!」

 

 朝一番から彼女の声を聞けるのはいいけど。言ってることが母親と一緒なんだよ……


 「それよりも、奏真さん! いますぐ私の部屋に来てください」


 彼女の言葉に眠っていた脳が一気に動き出すと同時に体を起こす


 「い、いまから!?」

 「そうです、今です!」

 

 なんかいつもよりテンション高くないか??


 「なるべく早く行くから待ってて」

 「早くきてくださいね……!」


 通話を終了すると、ベッドから降りて洗面所へ向かう。

 顔を洗ってから、その場にあったシャツとハーフパンツに着替えて自分の家を出る。


 レヴィアの部屋のインターホンを押すと、「空いてますよー!」という声が聞こえたので、玄関のドアを開けて中に入る。


 「っていたのか!?」


 レヴィアは膝まで覆うほどの大きなパーカー姿で玄関に立っていた。

 ずっと下を向いたまま。 


 「一体どうしたんだ……ってちょっと!?」


 俺が声をかけるとレヴィアは黙って俺の手をつかみ、部屋の奥へと歩き出して行った。

 

 引っ張られるように連れてこられたのはレヴィアの寝室だった。

 ベッドの上に座らされて、俺はレヴィアを見上げるような姿勢になっていた。

 何か俺の心臓がものすごい音を立てはじめたんだけど……!?


 「奏真さん……!」

 

 ずっと下を向いていたレヴィアは顔をあげる。

 彼女はここ最近よく目にする真っ赤に染まった顔をしていた。

 

 「は、はい!」


 なぜか俺は背筋を伸ばし、両手は自分の膝の上に置いていた。

 こんな姿勢になったのは高校の面接の時以来だ……。


 「私の……を…みてください!」


 口にすると同時にレヴィアはパーカーのチャックを勢いよく下げていった。


 「ちょ……レヴィア!?」


 条件反射なのか分かっていないが、俺は目の前を手で覆うがそのスキマからレヴィアの姿が見えてしまっていた。

 

 パーカーの下には薄いピンクの下着が見えていた。


 「パーカーのチャック閉めて! さすがに朝から心の準備が」


 俺は見えないように両手で覆う。


 「奏真さん……これ水着です……」

 「え……」


 そう言われて、俺はゆっくりと両手を下ろしていく。

 改めて見ると、胸元や腰の辺りにフリルっぽいのがついており

 テレビやネットの広告で見かけたものと似た形をしていた。 


 「……というか、何で水着?」

 「奏真さんが見たいって言っていましたし……」

 

 レヴィアは下を向いて微かな声で話を続ける


 「……好きな人に早く……見てもらいたかったから」

 

 レヴィアの言葉を聞いた途端、身体中が燃えたんじゃないかと言えるぐらい暑くなっていた。


 「……どうですか、私の水着姿は……?」


 水着を着ているレヴィアが……というよりも、

 それを俺に早くみてもらいたかったというレヴィアの姿にグッときてしまっていた。


 俺の脳は興奮と暑さでオーバーヒートを起こしてしまい、そのまま彼女のベッドに後ろ倒しに倒れてしまった。


 「そ、奏真さん……!」

 





 「あれ……?」

 「あ、起きましたか?!」

 

 俺はベッドで横になっていた。額には熱を下げる用のジェルタイプのシートが貼られていた。


 「ビックリしましたよ、突然倒れてしまったので……!」

 

 レヴィアは安心したのか安堵の表情を浮かべる。

 俺が倒れている間に着替えたのか、先ほどの水着姿ではなくブラウスに膝下まであるスカート姿になっていた。

 

 「そっかぁ、ごめんな」

 

 そう言って俺は体を起こす。


 「もう大丈夫なんですか?」 


 若干体がふらつくような感じはしなくもないが、そのうちなくなるだろう。両腕を上に伸ばしてから立ち上がり、額に貼ってあったシートを剥がす。


 「へーきへーき、ありがとうな」

 「よかったです……あ、そうだ一緒に朝ごはん食べませんか?」

 

 朝食のことを聞いて俺の腹の虫が鳴き出す。

 相変わらず正直な奴だな……。



 朝食中も先ほどの顔を真っ赤にしながら俺に早く見せたいと話すレヴィアの姿が頭から離れることがなかった。

 ……おかげで昨日の段ボールの中身のことはすっぽりと抜けていた。


 ==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


明日もお楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

読者の皆様に作者から大切なお願いです。


「面白そう」

「続きが気になる」

「応援する」


などと少しでも思っていただけましたら、


【フォロー】や【★星評価】をしていただけますと大喜びします!


★ひとつでも、★★★みっつでも、

思った評価をいただけると嬉しいです!

最新話or目次下部の広告下にございますので、応援のほどよろしくお願いします

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る