仕合の結果って?


 仕合結果に勝者はいない。

 審判役が優劣を判定する程度らしい。要は日々の精進を試す場なんだとか。

 決して殺人をする場ではない事だけは断言していいと思う。決闘じゃないもんな。

 目的を間違えて解釈する人が今回いたような気がするのですけど。

 これについてはボクから突っ込む事はしない。これ以上ヘイトを向けられたくないしね。

 仕合の判定は双方とも有効打が無いため引き分けだそうな。

 そのままでその通りだね。ボクは避けてばかりだったし。寸止めで当ててなかったしね。

 攻撃を避ける技術は評価されないらしい。避ける技術が優れても有効打がなければ意味なしって事だ。

 

 通常仕合は無関係の人達も観覧できるらしい。成果を披露し、指摘を受ける場でもあるからなんだって。

 ふむ・・。でも今回は観客はいなかったんだよね。

 当然のように若様は納得いかなかったようだ。結構しつこく食い下がっていたようだ。

 分かんないけど・・自分の強い所を騎士や使用人に見せつけたかったのじゃないかな。

 ・・当初は・・ね。


 結果として無観客だったのは若様のプライドにとっては良かったんじゃなかったのかな?

 本当の実力がどこまで知られているのかわかんないけど。まずは良かった、良かった。よね?

 

 若様とボクの仕合に立ち会っているのは少なかった。

 審判役は必須。これはハッテンベルガー伯爵が務めてくれた。若様の要求を伯爵が審判役になったみたい。

 更に仕合の申し込みも伯爵経由だったんだよ。捉え方によっては父親を使って自分の要望を通したって感じだ。若様は大物みたいなの?

 仕合をするボク達の介助役でそれぞれ一名参加。介助役は通常従者がその役につくそうな。

 若様の介助役は専任従者なんだって。初めて見たよ。結構大柄な人だなぁという印象。

 クレア情報だとハッテンベルガー家の騎士隊でも五指に入る実力者なんだって。やっぱり若様は大物か。

 ボクの介助役は当然のようにクレアだ。まるで自分が仕合をするような気合の入り方だったなぁ。絶対勝てという圧が凄かった。でも・・今回は勝っちゃいけないでしょ。


 最低限の参加者が見守る中で仕合は終わったんだけど。

 双方の介助役の顔色の対比が何気に面白かった。

 若様の介助役はショックを隠してなかったみたい。若様が勝つと思っていたのかな?わかんないけどね。

 クレアは当然だとばかり笑みが漏れていた。ちょぃ照れるけど。嬉しいな。

 クレアはボクに汗を拭く布を渡してくれる。仕合が終わったので距離を取る必要はなくなったしね。相変わらず笑みが零れている。

 ま、ボクにしか分からない違いだけどね。

 

「クレアありがとう」

「そんな大した事じゃないわ。それにしても想像以上に練度が低かったのだわ」

「ああ、そうだね」


 ・・確かに若様の剣術レベルは低かった。どうして仕合をしようと考えたんだろうという程度だもの。

 話題の若様は伯爵に何か食い下がっているみたい。再戦を主張しているのだろうか?

 でも、もうやらないよ。伯爵にも一回だけと承諾貰っているからあり得ないもの。

 

「まあ、それを確認するための仕合だったんじゃないかな。そう思う事にしたよ」

「剣では敵わないと今回理解した筈だからいいと思うのだけど。他の手段で勝とうとしてくると思うわ。正直面倒」


 同じく若様をチラリと見つつ舌打ちをするクレア。

 おいおい。見られたらどうすんのよ。ブラックなクレアは危ない。心の声が漏れすぎる。ボクしかいない時だから良いのだけどさ。

 その後も何やらブツブツ言っているけど聞かない事にする。呪言かと思う程だよ。

 ま、溜め込んでしまうのは精神衛生上良くない。誰にも迷惑かけていないのだから容認。

 色々吐き出してスッキリしたのだろう。クレアは振り返ってボクに笑みを向ける。うん、ヨカッタネ。

 ボクと二人だけでいるときはクレアの表情は豊かだ。コロコロと変わる。

 第三者がいる時はお人形さん。表情が殆ど変わらないし。喜怒哀楽の感情は内に秘めてる。何があっても無表情をキープする。

 その反動で後でブラックになるんだけどね。

 無表情なんだけど・・人付き合いは良いんだよね。

 気づいたらこの屋敷の使用人と仲良くなってる。彼らから種々の情報を入手している。

 あのトラジェット家にいた時も使用人とは良好だったもの。

 クレアの能力の真骨頂。情報収集能力がとっても高いんだ。

 お陰でベルフォール帝国の一般的な知識は比較的早めに入手する事ができた。完全にクレアのお手柄。

 本当にクレアが一緒についてきてくれて良かった。感謝しまくりましたよ。


 ちょっと回想に浸っていたのに・・・。


「レイ!ちょっと来い!」


 若様の喚きで台無しだ。

 なんとなくだけど面倒くさそうだな。

 この場合はすぐにでも側にいかないといけないんだ。機嫌が悪くなるから。

 そして側にきたら跪かないといけない。見下ろさないと機嫌が悪くなるから。

 とにかく意のままにならないと、機嫌がとっても悪くなる。

 この件については色々言いたい事はあるよ。でもボクは居候だし。強く出れないんだよね。

 心証悪くしたら追い出されるかもしれない。もうちょっとだけ我慢する必要がある。


 なんだけど・・。


 あ~。クレアの機嫌が悪くなっちゃったよ。若様相手だとクレアは超塩対応なんだ。ボクを敵視している一点での判断らしい。

 ま、別に仲良くしてもらいたいとは全く思って無いからいいんだけど。

 だけど・・このままじゃ不味いよ。少し落ちついてもらわないと。

 いくつか方法はあるけど今回は・・・。

 クレアのお尻をチョンとつつく。

 

「ぴゃっ!」


 突然のボクの行為に可愛い声を出すクレア。ごめんよ。落ちついてね。

 クレアは頬を赤く染め、グリーンアイを潤ませボクを見つめてくる。

 あ・・やば。誤解させたかも。そのサインじゃないってば。

 やり方間違えた・・・。

 慌てて誤解を解かねば。


「ち、違うよ。苛々しちゃダメだって事。もう仕合はしないという約束は取り付けているからし。大丈夫、大丈夫。伯爵もいるし酷い暴言は無いはずだしさ」


 ニッと笑ってクレアを落ちつかせる。

 状況を思い出したらしい。頬は染めたままだけど落ちついたみたい。

 ・・・うん。大丈夫。戻った。

 ニッコリはしているな。・・・うん。あとでお勤めありだね。


「レイ様ったらこんな所でやだわ。でも気をつけてね。クレアも警戒はするけど安易に無理難題を受けちゃだめよ」

「気をつけるよ。イライラをぶつけたいだけだと思うよ」


 大丈夫でしょ。ボクは伯爵達のほうに向かって歩く。この場合従者は普通待機なんだけど。当然のようにクレアはついてくる。

 アレ以来極力ボクの側を離れたくないらしい。

 ボク達が行動を共にする事は伯爵は認めているからセーフなんだけど。若様はそういうのも不満みたい。

 ボクの知ったこっちゃないっす。

 特に今回は若様が無理難題を押しつけてくるかもしれない。それを未然に防ぐ目的もあるのだろう。

 もうボクはクレアがいないと困っちゃうくらい頼りにしている。

 ほんと助かっているもの。

 

 そんな気分を壊すように「走ってこい」とか罵声があがっている。・・まったく。気にしないでゆっくりと向かう。

 伯爵は自分の息子を見て微妙な表情をしているように見える。・・・珍しい。

 その間も若様は何やら言っている。半分以上は無視しているから何いっているか分からない。相当ヒートアップしているんですけど。

 自分の剣の腕がこんなもんじゃないと言いたいんだろう。

 と、思ったんだけど。


「レイ!今回の仕合で卑怯な手段を使っただろう。正直に父上に説明しろ!」


 はぁ?

 何言っているんだ?この若様は・・・。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る