エラい人が来た

 若様との仕合が終わって引き上げられると思っていたのに。

 変な人が現れた。

 絶賛絡まれ中です。

 ・・・逃げたい。

 心底逃げたい。

 

 最低限仕合を諦めさせたい。

 帰らせてください。


 言わないけどさ・・。

 見た目で分かるよ。

 敵いっこない相手だって事。

 

 かなり大胆に着崩しているけど騎士服は格好良く馴染んでいる。根っからの騎士なんだろう。

 この世界の服は貴族でも既製品が殆どだ。つまり体系に合う服はなかなか無い。

 その騎士服が筋肉ではち切れそうな程ピチピチだ。贅肉が全く無い程やべぇ体だ。

 二メートル近い長身で百キロ近くの体重はあるんじゃないかな。

 超只者じゃない。

 人間じゃない。

 身をかがめて突進されたら潰される事必至。


 高い所から着地した身のこなしだけで充分。

 重力を感じさせない動きだもの。羽くらい軽いんじゃないの?


 マスタークラスですよ。


 力ばかりじゃない。

 言葉遣いは乱暴だけどさ。

 ヘーゼルの切れ長の目は鋭く粗暴な光が込められている。

 その奥底は知性的だと思う。決して乱暴者じゃないような雰囲気。

 加えて、この屋敷の当主であるハッテンベルガー伯爵が丁寧に応対している相手だよ。


 だけど行動はハチャメチャだ。

 当主に断りもなしに屋敷に入ってきたみたいだし。

 屋敷って表現しているけどさ。実際には〇〇ドーム何個分とか表現する広大な敷地だよ。

 強引に入ってもボク達がここにいる事を知っている者は使用人でも僅かだと思う。

 どうやって来たの?と思うんだ。

 クレアのように気配を探ってきたのだろうか?

 

 う~ん。

 ともかく相当な地位の人で、武術の達人という事は確実だよ。


 この達人とボクが仕合をするの?

 ・・できる訳ないじゃん。

 万が一殿下が加減を間違ったら。ボク程度は三途の川を渡る即死コース。

 嫌すぎる。

 

 万が一。万が一。

 殿下がボクを殺そうと企んでいた場合。

 仕合の事故に見せかけて殺すのは簡単だよ。加減を間違えたとか、うっかりひねり潰してしまったとか。超簡単な作業だよね。

 無いと思いたいけど。


 御免被りたい。

 

 うっかりでもボクは死ぬわけにはいかない。死ねない。

 真剣に仕合を回避しないと。

 

 ・・。

 それはどうにも無理っぽい気がしてきた。

 なんも良い知恵が浮かばない。

 頼りにできるのはハッテンベルガー伯爵のみ。

 お願いします!


 なんですけど・・。

 その伯爵が押し切られそうな状況だ。頑張って欲しいが、かなり分が悪そう。頑張れ!

 

 だけど何でボクに興味を持つんだろ?

 全く分からない。

 何か気になる行動していたかな?

 仕合しか見ていないはずだから攻撃を避けていただけなんだけど。普通に避けただけだし。

 

 目の前の殿下が想像通りなら・・逃げるのは無理だよね。

 

「ええ。レイ様の想像とおり彼はクリューガー将軍よ。何故この場にいるのかは不明だけど。任せて。最悪クレアが盾になるわ」


 クレアがドキリとする事を囁いてくる。

 ・・やっぱりか。


 クリューガー将軍は帝国最強と呼ばれている。

 ハッテンベルガー伯爵と並ぶ帝国三大将軍の一人だ。それも筆頭格。大将軍と呼ばれているとか。

 この人のターゲットとなった国、集団、人物は生き残れないと言われている。・・恐ろしや。


 百戦百勝の不敗将軍。


 個人の武術も抜き出ている。

 軍の指揮も抜き出ている。

 軍略にも優れている。


 凡そ戦うために生れてきた騎士とか。


 破天荒な所があるため敵も多いらしい。が、圧倒的な武力で沈黙させているとか。

 

 ・・やっぱり怖い人だ。

 この人に気に入られる人物は少ないと噂を聞いた。気に入らなければ簡単にぷちっと潰されてしまう。

 苛烈な性格だと噂されているらしい。

 

 この人だけはやばい。だから接触しないように注意していたんだ。

 サンダーランド王国内での戦争での縁ではあるけど。幸運な事にハッテンベルガー伯爵との縁ができた。

 伯爵の庇護に入れば帝国内でのある程度守って貰えるんじゃないかなぁと思った。ま、伯爵にもメリットがあったはずだし。

 三大将軍が同じ場所にいる事は儀式か余程の有事で無い限りは無いんだって。

 だから噂の危ない人と接触しないと思っていた。

 

 なのに・・・。この光景はなに?

 こうなる事は想定外。

 

 伯爵!断ってください。なんとか頑張ってください!。

 

 と、願っているのだけど。

 今までの流れを見る限りでは・・・無理だね。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る