ベルフォール帝国軍は凄い事が分かった
ベルフォール帝国のハッテンベルガー将軍とフォレット家当主マーヴィン叔父さんとの再度の話し合いは行われなかった。
アーサー叔父さんが内々に打診したのだけどハッテンベルガー将軍に即拒絶されたそうだ。明日戦を仕掛けるから見学しているがいい、と言われたとか。
なんとも・・高飛車だよ。
ボクはベルフォール帝国とサンダーランド王国の力関係が分かっていない。でも、今までの対応を考えるとベルフォール帝国が上なんだろうな・・と思う。ハッテンベルガー将軍の身分は分からないけど特殊な将軍じゃないだろうと思う。
その後、ベルフォール帝国の所に王都の使者が来たそうだ。ハッテンベルガー将軍に面会してらしい。援軍の謝意を述べたんじゃないのか、とはアーサー叔父さんの弁。フォレット家は入れてもらえなかったそうだ。マーヴィン叔父さん再び憤る。
その面会が終わった後に使者がフォレット家の陣幕に立ち寄ったんだって。そこでマーヴィン叔父さんがまたもや切れたとか。話し合いの後に使者と一緒にマーヴィン叔父さんは王都に慌しく向かって行った。
アーサー叔父さんに理由を尋ねたんだけど。子供は知らなくていいってさ。・・都合のよい時だけ子供扱いはずるいよな。
そんなサンダーランド王国サイドでごちゃごちゃしている時にもベルフォール帝国側は動いたそうだ。
ハッテンベルガー将軍は明日戦端を開くとカゾーリア王国に使者をだしたんだって。
カゾーリア王国側のカルデナス将軍もしきたりに則って明日の会戦に同意したそうだ。ふうん。・・そんなもんがあるんだ。
でもさ・・・本当にフォレット家を・・サンダーランド王国をどっちの国も無視をしたんだ。
モヤモヤしながら翌日の早朝がくる。ボク達はその戦いを見物に来ている。
サンダーランド王国はこの戦いに参加しないんだけどね。マーヴィン叔父さんは王都にいって不在。アーサー叔父さんは王都へ侵入されないように防衛すると戦場から引き上げてしまった。
ボクも一緒に引き上げようと言われた。でも、なんか悔しいからせめて戦いの結果だけでも見たいとゴネた。アーサー叔父さんは苦笑して好きにしろと言ってくれた。
フェリックス隊やウエストブリッジ隊もアーサー叔父さんと一緒に行動させた。全員でいても仕方ない。何しろサンダーランド王国は参加しないんだ。多少でも戦力を置くと、いらぬ誤解を受けるそうな。
だからボクに同行しているのは二名だ。
フェリックス隊からはボクの護衛を自認する・・ジャスティン。相変わらず入口の前で夜も居る。・・止めて欲しい。
ウエストブリッジ隊からは白いローブの人がきた。隊長であるコーディが推薦なのだ。索敵が滅茶苦茶凄いらしい。そのおかげで助かったとジャスティンも認めている手練れらしい。・・分からん。
だって、全身白ローブにヘンテコな意匠のマスクをしているんだよ。色は違うけど・・思わず黒ローブの男を思い出してしまった。万が一にも化けてないよ・・・と思ってしまう程怖い。ボクなりに注意はしておくしかないか。
この三人で戦場から離れた丘で見物する事になった。この丘はレッドヒルと呼ばれているけど全然赤くない。寧ろ黄色だ。脆い土なんで行軍は簡単じゃない場所だ。
レッドヒルという土地は・・あのトラジェット家の領内にある。軍隊が領内に集結しているのにトラジェット家からは現状何のアクションもないそうだ。何か企んでいないか不安しかない。
太陽が高い位置になる頃に戦端が開かれる。
ベルフォール帝国軍は五千程。殆どが槍衾を構えた歩兵隊だ。機動力のある騎馬隊は少ない。青い軍装に統一されて見た目も綺麗だ。軍の行動も揃っているから美しい。
カゾーリア王国軍は一万二千程。ほぼ歩兵。所々で騎馬や魔獣みたいなものが見えるけど少ない。隊長格が乗っているのかも。軍装はバラバラで行動も統一されていない。どことなくちぐはぐな進軍だ。
サンダーランド王国の軍制もどちらかというとカゾーリア王国寄りだ。王家は王都を守る精鋭一万のみ所有。他国への侵略、防衛は各地の諸侯が軍を組織して行動する。家によって軍装や規律もバラバラだもの。
数では劣るのだけど・・ベルフォール帝国軍が負けるのがボクには想像できない。そんな印象を感じる。
参考までに二人に意見を求める。
ジャスティンは数で勝るカゾーリア王国を推した。敵軍を推してどうする。おそらくだけど・・戦闘参加を断ったハッテンベルガー将軍の態度に腹を立てている。そういう気持ちも加味されている可能性ありだ。
白ローブはベルフォール帝国が勝つと断言。理由を聞くと見たら分かるとのみ答える。最低限の言葉しか話さない。黒ローブの男と真逆だな。でも最低限の事は言ってくれる。何者なんだろ。
帝国軍の戦術に興味があると言う。マスクの材質が分からないけど、どうにも聞き取りづらい。やっぱり黒ローブの男を思い出してしまう。
戦闘が始まる。
ベルフォール帝国軍は真っすぐに歩兵を突っ込ませる。密集陣形か。アレか・・魚鱗ってやつだ。その後ろを騎馬隊が続く。ハッテンベルガー将軍はこの中にいるのか。太皷の音が規則的に響く。音がここまで届くのは凄い。
カゾーリア王国軍は中央の隊が進軍する。かなりバラバラだ。後方や左右の隊は動かなそうだ。
両軍が衝突する。
ベルフォール帝国軍の突進力が凄い。簡単にカゾーリア王国軍を蹴散らす。迫力に負けたのかカゾーリア王国軍の中央部分がぽっかりと空く。
突撃した歩兵隊は止まらない。カゾーリア王国軍本陣まで進軍する。その勢いにカゾーリア王国軍本陣は慌てたようで後退していく。
カゾーリア王国軍はバラバラに分断される。
バラバラに分断されている感じだ。もはや軍隊でない。
帝国の・・・。
「・・帝国軍の勝利です」
白ローブが呟く。
お?・・ああ、うん。
ボクもそう思う。
分断された個々のカゾーリア王国軍の隊はベルフォール帝国軍より圧倒的に少なくなる。
各個撃破か・・。
「・・散らした兵を各個倒していけば被害も最小限で勝てるでしょう。・・統制が良く取れています」
白ローブもそう思うんだね。同意見だよ。
白ローブが断言したようにベルフォール帝国軍の動きが変わる。
距離が離れているからだろう。太鼓の調子が変わるのが兵の動きの後に聞こえる。やはり指示に従って全員が行動しているんだな。
歩兵隊は変わらず密集隊形で指示された方向に突撃を続けている。騎馬隊は隊列を組んで分断された敵軍を各個撃破か。
一糸乱れぬ動きは本当に美しい。
ハッテンベルガー将軍が叔父さん達に戦闘に加わるなと言った本当の意味が分かった気がする。
ベルフォール帝国軍は軍制が違うんだ。従わない異物の軍が入ると計画通りに動けなくなる。
この中にサンダーランド王国軍が加わったとする。おそらくだけど、目の前に展開しているような綺麗な動きができなくなるのだろう。
僕も前世の知識の補正を活用して、それなりに隊をコントロールしているつもりだけど。五千もの数を手足のように使う事は無理だ。
ハッテンベルガー将軍凄いのか、ベルフォール帝国の軍制が凄いのか分からないけど。圧倒的な強者である事は間違いない。間違っても戦いたくない。
その証拠が目の前に展開している状況だ。
ばらばらに分散されたカゾーリア王国軍はもう逃げる事しかできない。散り散りになって逃げていく。
カゾーリア王国軍は何もできなかった。初撃で勝負がついてしまった感じだ。
「あんなに苦労したカゾーリア王国軍を簡単に・・・信じられない」
隣にいるジャスティンが絶句しているようだ。
ベルフォール帝国軍は深追いしない。掃討戦までは計画していないようだ。援軍の目的はここまでなんだろうか。
計画通りに戦術を遂行したという感じなんだろうな。
ベルフォール帝国軍の強さをボクは目の当たりにした。
・・・叔父さん達見ていた方が良かったと思うよ。
レッドヒルの戦いはベルフォール帝国軍の圧勝で終わるようだ。
サンダーランド王国軍は本当に何もしなかった。
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