レイ・フォレット
ボクの叔父であるマーヴィン・フォレットはまだ怒っている。椅子やら卓やらを手当たり次第に壊している。
いかつい顔と違い普段は穏やかで優しいんだけど。一度熱くなると見境がなくなる。・・もうちょっと放置したら収まると別の叔父さんが言っていたけど。
なんだかな~と、これからの事を考えている誰か入って来た。
「おいおい、兄貴。随分切れてるじゃないか。珍しいな。帝国の将軍に何言われたんだ?」
入ってきたのはアーサー叔父さん。マーヴィン叔父さんもそうだけど二人ともボクの母さんの兄だ。
アーサー叔父さんもマーヴィン叔父さん程じゃないけど背が高い。見あげる事になるからボクの首は痛くなるんだよ。
マーヴィン叔父さんは怒りが収まらないようでまだ暴れている。アーサー叔父さんはボクを見て苦笑というか笑ってら。ボクに理由を聞く。
「将軍に何言われたんだい?」
「サンダーランド軍は戦闘に参加するなって言われた。邪魔なんだってさ。叔父さんが何言ってもダメだったよ」
「やっぱりか。陣に案内しようとしても断られたしな。共同で事に当たるつもりはないってことか」
「らしいよ。全く話をする気無いみたい。どっちと戦うつもりなんだろと思ったよ」
「へぇ。レイにはそう見えたのかい?」
「うん。変な事したら殺すぞって感じ。叔父さん一応我慢していたよ」
ボクの返事にまだ暴れているマーヴィン叔父さんを眺めるアーサー叔父さん。いい年齢なんだけど我慢できないから発散しているんだって。・・ゴリラが気に入らない事があって暴れている感じがする。・・思うだけで言わないけど。
アーサー叔父さんは顎に手を当てて考えているようだ。表向きは優男なんだけどフォレット家では一番腹黒だ。でもアーサー叔父さんがいるからフォレット家は続いているそうな。確かにそんな感じがする。
マーヴィン叔父さんは当主だ。だけど自分の当主としての役目は表向きだけだと常日頃から言う。実際の当主はアーサー叔父さんだと言ってはばからない。でもこの二人はとても仲が良いから、この関係で問題ないみたい。
「レイはフレーザー家での戦況の説明はしなかったんだね?」
「うん。不要と言われた。既に情報収集済みだって。最初からそう言ってくれればいいのにね。だから叔父さんも怒っちゃうんだよ」
「成程ね。兄貴が収まるのはもう少しかかるかな。見ていても楽しくないだろうからレイは戻っていいよ」
「は~い。それで今回は参戦しない事にするの?」
「帝国側にそう言われたから、はい分かりました。と、いう訳にはいかないよ。少しは押し返したといっても王都に近い場所まで敵軍を呼び込んでしまったんだからね。何もしない訳にはいかない。ま、そこは我々に任せておきなさい」
「は~い。それじゃ自分の陣に戻るね」
アーサー叔父さんはニッコリと微笑みながら見送ってくれる。・・腹の中は煮えたぎっていると思うけど。確かにアーサー叔父さんのほうが当主っぽい。
まだ暴れているマーヴィン叔父さんの叫び声を聞きながら天幕を出る。
は~。
本当にどうなるのかな?
確かにここまで頑張って何もしないのは考えられない。
目の前のカゾーリア王国軍は疲弊している。王都に近いグリーンヒルでフォレット家の軍はカゾーリア王国軍の進軍を阻止したのだ。
骨戦士がいなく周辺地形に詳しくないカゾーリア王国軍は強くなかった。とはいえ数ではまだ負けている。後退させるだけで精一杯だったそうだ。
負けたカゾーリア王国軍はカーライル地方まで後退する。追ってきたフォレット家は決着をつけるべく追跡し対陣。ベルフォール帝国の援軍を待っていたんだ。
ここで決着をつけようとしたら帝国の援軍に参戦するなと言われたんだ。
納得できる筈が無い。
帝国は本当に独力で対応しようとしているのだろうか。
カゾーリア王国がサンダーランド王国に攻め込んできてから百日は経過している。
ボク達には色々ありすぎた。
カゾーリア王国軍の突然の大規模侵攻。
レッドリバー河畔の戦いと後に呼ばれるようになったけど、レッドリバー河でフレーザー家は大敗した。
当主であるフレーザー侯爵の生死は今に至るまで不明。カゾーリア王国軍は討ち取ったと喧伝している。カシュパルに情報収集させているけど明確な証拠は見つかってないとの事。
生存の確率は極めて少ないとは言われている。・・覚悟はしているけど絶対じゃない。チェスターさんやジェフの生死も未だ不明だもの。
・・生きていると思いたい。
その後、領都グレシャムが包囲された。今もなんとか持ちこたえているらしい。でも周辺の街は殆ど制圧されているそうだ。
現在のフレーザー領はカゾーリア王国の掌中にある状態となっている。
領都グレシャム包囲中にボクに襲い掛かってきた黒ローブの男の生死は不明。あの高度で落ちたら死んでいると思う。それ以降に骨戦士がいなくなったらしい。だから死んだと思いたい。
ボクはグリフォンに乗せられたまま何故か王都まで飛ばされてしまった。寒くて凍えていたから飛行中の事はよく覚えていない。
高いの怖いし。寒くて死にそうだったし。お腹すくし。・・思い出したくない。
グリフォンが着地した所がフォレット家が守る街道の近くだったそうだ。未知の魔物だったのに叔父さん達はあっさりと討ち取ったそうだ。子供が乗っていたから保護の目的だったんだって。
助けて貰ったボクは結構な日数目が覚めなかったそうだ。魔物に乗っていた不審な子供だったんだけどフォレット家は保護してくれた。お陰で助かった。
ボクが目が覚めた後に母さんの実家に助けられたと知ってホッとした。
ビックリする程フォレット家の面々はボクが母さん・・ブレンダ・トラジェットの子供だと簡単に認めてくれた。理由を尋ねても分かるという一言で終わってしまう。なんでだろ?
甥と分かったからなのか、ゆっくり休めと言われた。
でも、フレーザー領が気になるからカシュパルに連絡を取った。連絡にはハトを使うから問題なし。連絡はあっさりとつく。
カシュパルは連絡がつかなくなったボクを相当心配していたらしい。フェリックス隊の面々は無事で、やはりボクを心配していたらしい。
こんな感じでカシュパルは様々な情報を伝えてくれた。
フレーザー領の状況はかなりよくない。
しかもセシリア様の行方が未だに分からないという心配事も増えた。
だけど、そう簡単にフレーザー領には行けない。ジャスティン達は街道が封鎖される前にフレーザー領を出て来たから問題なかったそうだ。
カシュパルはフレーザー領で情報収集すると残ってくれた。危険ではないのかと確認したのだけど、全く問題ないそうだ。危険の無い範囲でお願いする。
フェリックス隊がボクの元にやってくるまではボクは寝たきり状態だった。・・なんか前世を思いしてしまって鬱になる。相当疲れていたらしい。体がまるっきり動かなくなっちゃったんだ。
驚いたことにフェリックス隊はボクの前の家の領のウエストブリッジでボクを長とする隊と合流したそうだ。彼らはウエストブリッジ隊と名乗ったそうだ。
コーディ、ボビーとかの懐かしい面々に久しぶりに会えた。それとウエストブリッジ隊結構人数が増えてました。なんで?コーディが頑張ったとしか言ってくれなかった。
このウエストブリッジ隊の助けがなければフィリップ隊は北上してボクの所にこれなかったそうだ。
理由は簡単だ。
ウエストブリッジの街があるカーライル地方は前の家であるトラジェット家の領地なんだ。
ボクも最近知った事なのだけど。カーライル地方は人の行き来を厳しく制限しているそうだ。特にフレーザー領方面からの出入りは禁止しているとの事。
寝返ったのだから当然の警戒だと最初は思った。でも違った。
トラジェット家は王家に訴えたのだ。フレーザー家がカゾーリア王国に寝返ったという出鱈目な訴えをしたのだ。
この事を聞いたボクは唖然としてしまった。なのに王家はトラジェット家の訴えを認めてしまったのだ。
要点をまとめるとトラジェット家の訴えは三つだった。
フレーザー家がカゾーリア王国に説得され今回の戦争で寝返りを考えている。
トラジェット家はフレーザー家の懐に入り事実を確認しようとしたが当主が捕らえられてしまった。当主は捕虜としてカゾーリア王国に送られた。
カゾーリア王国軍はトラジェット家の当主を捕虜としている事を理由に領地の通行を求めて来た。当主の命には変えられないので領地を通させざるを得なかった。
・・・なんて出鱈目な事を。
ボクが説明するまではフォレット家中でも信じていたらしい。・・一応ボクの母さんの嫁ぎ先だものね。
・・これは推測なんだけど。フォレット家はトラジェット家に弱みがあるみたい。・・そんな気がする。いずれカシュパルに調べさせよう。不当な弱みであれば解消させないといけない。
ともかく王家はトラジェット家の言い分をしっかりと信じた。
カゾーリア王国軍を退けた後はフレーザー家を討伐する事が決まったらしい。領地の没収は確定。爵位の剥奪、当主を罰する事等々検討されているそうだ。
現状はフレーザー家の関係者は王家から捕縛命令が出ているらしい。フレーザー侯爵の奥さんは元々王都に人質でいる。噂だけど牢に入れられているとか。
勿論養子であるボクも捕縛対象となる。
と、いう事でボクはレイ・フォレットと名乗る事にした。本当に養子にしようかとマーヴィン叔父さんが真顔で言ってくれた。・・素直に嬉しい。
でもフレーザー家の事が良い方向にきちんと解決するまでは無理とゴメンナサイした。ケジメは必要だもの。
でもさ本当に訳が分からないよ。
どうしたらフレーザー家が寝返る事になるのか。
いくら王家とフレーザー家の折り合いが良くないとしても。あまりにも酷い。
カゾーリア王国軍の脅威が去ってもサンダーランド王国は穏やかにならない予感がする。
この国は大丈夫なのだろうか。
目の前の軍勢を睨む。
ヤツらが侵攻してこなければこんな事にならなかったのに。
・・悔しい。
ボクはこの怒りを静める事ができない。
サンダーランド王国軍の力で退けない限り難しいと思う。
そうしないと気持ちが晴れない。
ボク達の参戦を拒むベルフォール帝国の考えが分からない。
あのハッテンベルガー将軍から考えを読むのは無理だとボクは思う。
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