退路を作ります
ボク達は今度は再び隘路を目指している。
壊された堰に倒木とかを突っ込んでとりあえず水が流れないよう堰き止めた。どこまでもつかは心配ではあるけど仕方ない。
次はダムだ。レッドリバー河に水の流れを戻さないと。予想通りスケルトンは出現した。
さっくりとスケルトンは倒せた。二十体はいたようだ。スケルトンはパターンが分かれば意外と楽勝だとか兵達は言う。
・・・いや、フレーザー家の兵である君達が優れているんだよ。・・普通なら倒せないんじゃないかな。
だけど彼らは否定する。
スケルトンの弱点を早めに見極められたのが大きいと兵達はボクを賞賛?してくれるのだ。いや・・動きが単純だもの。少し見れば分かると思うのだけど。
例え弱点が分かっても実行するのは簡単じゃない。やっぱり凄いのは君達だ。
防衛に置いていたであろうスケルトンはいなくなったから・・ダムも速やかに占拠する事ができた。
ダムについては速やかに破壊して流れを取り戻したかったのだけど。・・頑丈過ぎて壊せなかった。随分と期間と労力を掛けて準備したのが分かる。
破壊は力技だ。なんとか半分程度は壊せた。ひとまず水はレッドリバー河へ流せた。けど・・十分じゃない。土台が残ったままだ。敵側が再度ダムを作り直す事は可能だと思う。でも今はこれが精一杯だ。
何もかもが後手に回っている気がする。
・・本当にカゾーリア王国側は十分な準備をしていたんだ。
城塞付近の主戦場がやっぱり気になる。持ちこたえてくれればいいのだけど。気になるけど・・・ボクの役目は退却路の確保だ。
それが今のボクに出来る事。
フレーザー侯爵からは退却しろと指示された。
退却路である隘路は水没だよ。敵はボク達を逃がさず殲滅するつもりだという意思があると思う。
隘路から水をひかせるために堰を修復して流れを止めたけど。森の中にはとんでもない水の量が残っているもの。すぐに水はひかないだろうな。
他のルートをを探すしかないのだ。苦労するかと思ったらそうでもなかった。
この近隣の村に住んでいた兵が裏道のようなものを知っていると。レッドリバー河岸の北東部の山間に狭いけど道があるそうだ。領都からは遠くなる道らしい。逃げ道があるなら今はそれで充分!
退却路をどうするかだけど・・・。レッドリバー河岸を堂々と横切れない。当たり前だけど戦場を横断するのだからあり得ない選択だ。
兵から話を聞いて退路を詰める。
隘路の上には崖がある。飛べば渡れるかもしれないけど。五メートルくらい離れている。・・飛べないよ。
ただこの崖に橋を架ける事ができれば・・・道が繋がるらしい。そこから山沿いに進めば北東部の道にいけるそうだ。この道は本当に知られていないらしい。近くの村人も知らない人が多いんだってさ。
誰も知らないって事じゃないかな。道を知っている地元の兵がいてよかった。この道がなければ逃げられなかったよね。
だけど、まだ逃げられたわけじゃない。
橋が作れるかが最初の問題が。兵に倒木を持たせているけど。これが橋として機能するかも分からない。ボク達は工作兵じゃないもの。色々心配事があるけどさ。やるしかないじゃないか。
上手く橋ができれば崖の下に流れている川にも橋を作って対岸で困っている兵達を渡らせないと。
やっぱり時間が無い。急がなければ。早朝からずっと動きっぱなしだ。みんなも疲労感があるだろうけど。文句も言わず動いてくれている。本当に心強い。
隘路への道は目印をつけて進んできたから迷う事はなかった。木を運ぶのが大変だったと思う。ボクは子供だから木を運ばせてもらえなかった。・・力が無いもんね。
目的地に到着すると隘路はまだ川のままだった。河岸方向を見ると川の対岸には逃げられない人達が溜まっている。人数が少ないのは他の退路を探しているのかもしれないな。
・・始めるぞ。ボクはついてきてくれた兵達を見る。
「全員疲れていると思うけど、これからは大変だ。打ち合わせ通り崖と崖下の川に橋を作るよ。幸い敵軍はこちらには向かっていないようだ。急いで橋を作れば対岸の味方は助けられる。では始めようか!」
兵達の元気の良い声が響き渡る。・・疲れているのに有難い。分担通り兵達は動き始める。対岸の兵達もボク達がしようとしている事を理解したみたい。歓声があがっているんじゃないかな。
兵達に作業を任せてボクは主戦場を見る。ここは高台ではあるけど城塞は遠い。戦況がどうなっているかははっきり分からない。
敵軍の集結状況から城塞はまだ踏ん張っているのかもしれない。城塞は何重もの城壁がある。破られたのは一番外の外壁だけかもしれない。
あの城塞は中の城壁が堅いんだ。一番外の城壁を寄騎が守る配置にしている。フレーザー侯爵や精鋭は何重もの内側の城壁を守っているんだ。
予想だけど破られたのは一番外の外壁。寄騎の誰かが手引きしたのかもしれない。誰かを調略したのかも。実際は分からない。
・・不安がっても仕方ない。敵軍が集結している以上交戦中であるのだと思う。他の砦が退却する時間を少なくても稼ぐつもりだと思う。
一番の気がかりはジェフはどこに行ったんだ?崖下の兵の中にはジェフの姿は見えない。他の砦の様子を見にいったのだろうか。・・退却すると言っていたのに。
「次期様!崖下の川を渡る橋はできたようです!段取り通り兵に説明をさせ、橋を渡ってもらいます!」
言われて崖下を見る。
・・うん。不格好だけど橋はできたみたいだ。他の兵の情報もあれば聞いておきたい。・・そうなると崖を渡る橋は?
「崖を渡る橋は苦戦しているようです。予定通り下の兵を半分崖の端に移します。残りは川を渡って誘導と警戒にあたらせます」
「うん。それで頼むよ。予定通りにいきそうだね」
「いかなければ困ります!我々の命運がかかっています。失敗する訳にはいきません!」
おおう。護衛の圧が凄い。目が血走ってないかい。気持ちは分からないでもないけどさ。生死がかかっているのは本当だもんな。
このまま何事も起こって欲しくないのはボクも一緒だ。
敵軍に気づかれないように素早く撤退ができる事を希望する!
今の所敵軍は城塞攻略に集中しているようだ。退路を断っていると思っているんだ。城塞を落とせば後は各個撃破か。
だけどあの城塞は五万の敵で攻め込んでも数日は落ちない。城塞内部の構造はボクも見て来た。かなり強固だ。
・・あれ?そういえば敵軍は攻城兵器を準備していないぞ。・・運べなかったのか。河を渡せないと判断したのか。攻城兵器自体が準備できなかったのか。
そうなると簡単には落ちない気がしてくる。
その間に領都から援軍を送り出す。上流のダムを完全に破壊してレッドリバー河を簡単に渡河できないように戻す。
長期戦になればこちらに有利になるだろう。敵軍は短期決着を目指しているかもしれない。
成程。フレーザー侯爵の狙いはそこかもしれない。・・・説明欲しかったな。
上を見上げて嘆こうとしたら・・視界に違和感を感じる。
え?
森の方向を見る。護衛の騎士もボクの視線に気づいて森を見たようだ。
・・・マジかぁ・・。
「・・次期様。あれは一体」
「うん。どこから湧いてきたのかは分からないけどスケルトンだよ」
なんでこんな数がいるんだ?
ボク達が行き来した森でスケルトンとは遭遇しなかった。
・・上流のダムのスケルトンは殲滅したはずだ。
まだ離れているから総数は分からない。だってまだ森の中にいそうだもの。視認できている範囲で五十は超えている。・・一気に数えられないくらい多い。
もしかして隘路を封鎖するためにか。
こっちの人数は十人程度だ。橋を渡っている兵もそれ程多くない。
・・これはかなり不味いんじゃないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます