逃がして欲しいんですけど


 敵軍・・・カゾーリア王国はどれほどの兵力を準備して攻め込んできたんだろう。

 いや・・この場合はスケルトン軍団というべきか。もともとカゾーリア王国で動員できる兵力は二万くらいじゃないかと聞いていた。

 実際攻め込んできた数はおよそ五万。上流ダムの工作やスケルトンを配置。おそらく三の砦、四の砦にもそれなりの兵力を送り込んでいるかも。

 そうすると六万近い数になるのか。その半分以上は目の前に迫ってきているスケルトン軍団だと思うんだ。

 どうやら敵軍には魔法使いがいるようだ。それと周到な計画ができる戦略家も。カゾーリア王国の国情を考えるとこのような者を配下にするのは難しいと思うのだけど。

 でも実際にはいる。そしてカゾーリア王国側にいる。サンダーランド国を滅ぼそうとしているのか、一部の領土を奪おうとしているのか、それは全く分からない。


 ・・だけど戦場にいるサンダーランド王国側の兵は一人も逃がさないという意思は伝わって来る。多分隘路を占拠するよう指示をされてスケルトン達はここに来たんだ。

 当然ボク達は殲滅対象となるだろう。

 ・・・戦わないといけない。


 どうやって戦う?


 数の差は圧倒的だ。

 スケルトン軍団は続々と増えている。と、いうか森からわらわらと出てきている。気持ち悪いんですけど。

 見えているだけでも百は超えているんじゃないか・・・。どれだけこっちに回したんだよ。

 対してボク達は隘路の崖の上にいる騎士達だけに絞りこむと・・・十五名か。ボクと護衛の騎士除く。

 完全に数で負けているよね。

 敵は数にまかせて突進してくるだろうな。スケルトンだし。痛みなんか無いし。・・骨の壁みたいなもんだ。怖すぎる。

 崖に上がって来た兵達もボク達の視線に気づいたようだ。それぞれ驚いたり、絶望の表情をしている。怪我人や非戦闘員達は驚愕だな。

 

「次期様。戦いますか?倒し方は我らは分かっております。単体でしたら問題はありません」

「それって・・単体の場合だよね。アレが一遍に来たらダメでしょ?」

「はい。単純な攻撃しかありませんが力は桁外れでした。まともに防ぐのは難しいかと」


 ・・・だよね。上流での戦いも複数人で対応したからね。場合によっては逃げればいいと伝えたし。

 今は逃げるという選択肢は無い。ここを占拠されたら河岸の戦場に戻らないといけない。それは・・ボク達の全滅を意味するだろうな。


 考えよう。

 考えろ。


 スケルトンはどんどん近づいてくる。もう・・百メートルは切っている。

 連中の歩く速度は早くない。だけどどんな足場でも速度は変わらない。

 上流で戦っても分かっている。あいつらは地面に足をついて歩いていないんだ。浮遊する感じで動いている。必ずしも飛んでいる訳でもない。十センチ程度だろうか。その程度浮いているだけだった。

 誰かがスケルトンを浮かせる攻撃をした時に・・実際に浮かせたんだけど。スケルトンはバランスを失って転んでいたっけ。あの時はあまり気にしていなかったけど。これは使えそうだぞ。

 

 簡単に作戦を組み立ててみる。穴があるかもしれないけど。このまま全滅するよりはいいだろう。ボクはみんなに振り向く。みんな戸惑いながらもボクを注視してくれている。動揺はしているけどボクを信じてくれているのだろうか。

 ・・命預かる事になるけど。協力してね。


「あまりよく練れていないけど作戦がある。それにはみんなの協力が必要だ。助けてくれるかい?」

「勿論!次期様の指示のままに動きます!」


 護衛の騎士・・ジャスティンが言う。周囲の兵も無言で頷いている。そんなキラキラした顔しないでよ。・・失敗するかもしれないんだよ。みんなの信頼が怖い。

 

 ボクは作戦を説明する。


 実は隘路の崖上の高台は平たんな場所じゃない。ボク達がいる場所から更に上に崖もある。ここから森への道はでこぼこしていたり狭くなったり広くなったりしている。

 二十メートル前が一番狭い道になっている。十メートルくらいか。

 そこに橋の材料として木を使って三か所くらい互い違いに柵を作る。柵の長さは三メートル位。高さは一メートルでいい。前世の城にある桝形みたいな囲いにする。

 これでスケルトンが侵入してくる数を絞り込む。だいたい二体くらいに絞り込めるくらいの広さになるんじゃないかな。

 柵を乗り越えてこようとしたら上に吹っ飛ばす。そうすればバランスを失って転がる。それを崖下に向けて落とす。崖と柵もぎりぎり開ける。そこから侵入しても一体程度。

 これだけ数を絞れば少なくてもスケルトン一体に対して複数人で対応できる。疲れたら後ろに控えている兵と交代。これをひたすら繰り返す。

 その間に下から退避してくる兵達に来てもらう。戦える者はスケルトン迎撃に参加してもらう。

 これでなんとか凌げるんじゃないかな。実際にはほころび出るかもしれない。臨機応変という便利な言葉を使うしかない。


 兵達はボクの説明に希望が見えてきたようだ。指示と共に動き出す。スケルトンは接近しているから猶予はない。テキパキと柵を作り始める。みんなだいぶ慣れて来たみたいだね。

 とってもギリギリだけど間に合うかどうかだ。


 後は退却路だ。崖を渡す橋はできているだろうか。必死に橋を架けている工作隊(臨時)は苦戦しているようだ。だけど一本橋桁となるものを渡していた。進んでいるぞ。

 一人が向こう岸に渡って橋桁を固定しているみたいだ。もう少しで形になるかもしれない。


 退却路もなんとかなりそうだ。

 スケルトンも全て倒す事はできないかもしれないけど防ぎきる事はできるかな。

 退却している兵達もゆっくりだけど順調にこっちに上がってきている。


 

 ボクはちらりと城塞の方向に目を向ける。敵軍・・カゾーリア王国を防いでいるように見える。あの城塞が簡単に落ちる筈が無い。


 退却して援軍を率いてくる。

 そのためにスケルトン達を防ぐんだ。

 スケルトンのほうに目を向ける。ヤツらはゆっくりと近づいてくる。

 

 何度目になるか分からないけど・・・頑張る!

 生きるために頑張るんだ!

 

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