魔物探索



 結果としてセシリア様達を置いて行った事になるらしい。追いつかれた時に再び絡まれた。・・もういいんだ。ひたすら謝罪してなんとか勘弁してもらった。

 滅入った気持ちでノートンの森についた。とりあえず魔物の痕跡を調べるか。

 フレーザー方式は分からないけどボクが今まで経験した方法で調べるんだ。どのみちあの二人はボクの監視役なんだから。


 馬に積んでいたいた杖を取り出す。杖といっても薪にならない棒を加工したものなんだけど。これから使う魔法は素材は問わない。

 それでも魔法を実践で使うのは久しぶりだ。そもそもフレーザー家や所属騎士、使用人達は魔法は使えないようだ。と、いうか魔法そのものを全く知らない。ボクが魔法を使える事は当然知らない。

 エイブラム爺に教えを請う事はできなくなったけど。あれからボクはいくつか魔法を開発した。前世の知識が役に立った?のかな。いくつか便利な魔法が使えるようになったし。

 今から使う魔法もその一つだ。監視役の二人はピッタリ近づいている訳じゃない。だから、ボクが何をやっているかは分からないだろう。せいぜい変な所作をしているだけど思う程度だろう。

 手首にはめている腕輪を触る。この腕輪にはいくつかの魔石を埋め込み済み。この数だけボクは魔法が使えるんだ。その数はまだ四つ。まぁ、実践で使えるものだけセレクトしているのだけど。

 その中の一つに魔力を込める。どんどんと魔力が吸われていく感触が伝わる。これ地味にきつい。相当魔力を込めないと使えないのがネックの魔法だから。一般的な魔力の使い方は武器に流して強化する程度。

 暫く魔力を込めると・・小さな魔法陣が現れる。随分と魔力を使ったぞ。魔法陣の改良ができればここまで使わないのだけど。今のボクができるのはここまでだ。明日は結構体がだるくなる事決定だ。できれば使いたくないけど仕方ない。

 キーワードを小声で唱える。詠唱は聞かれると厄介だ。


「探知(ディテクション)」


 魔法陣が消え無色の魔力の塊が現れる。それを杖で掬う。水あめを巻き取る感じなんだろうか。それよりは軽いか。

 これで準備は整った。まずはここに一つ設置しよう。杖を軽く振るって魔力の塊から小石程度の塊を放る。塊は空間に固定される。ゆっくりとした探知波を定期的に出す。これで探知をするんだ。

 一個設置完了。これで三針(3時間)はこの周辺を生物が通過したら反応が出る。これを森の周辺に一定間隔で設置。塊全部でどこまでの範囲がカバーできるかな。


 馬をゆっくりと歩かせながら設置を繰り返す。ボクの所作を不審に思ったんだろう。二人が接近してきて問いただしてくる。でも、正直に答えるつもりはない。正直に魔法といっても信じないだろうし。

 こんな時によく使う言葉を使う。

 おまじないのようなものです。モノを探す時によくやるんです、と適当に答えておいた。正直この二人にとっては魔法もおまじないも一緒だと思う。


 探知魔法の塊を全部使う。

 これでも森の南から西側の範囲しか設置できなかった。森の奥は無理だから少し入った程度。やはりノートンの森は広い。

 これで今日は様子を見るしかない。設置していない外周部はどうしようか。その方角は近辺に集落はないから優先度を落としていたんだ。体力があれば回りたいけど。ボクの魔力ではこれで精一杯だ。

 エイブラム爺からもっと教わっていれば、よりレベルの高い魔法が使えたんだろうけど。過去振り返っても仕方ない。できる範囲で頑張るのみ。



 森を回りながら思う。

 この森も魔物が発生するんだなぁ。

 森は魔力がたまりやすい場所がある。魔力が溜まっているから問題が起こる訳じゃない。稀に負の魔力が溜まる事があるらしい。この原因は不明みたい。そうなんじゃないかという推測は結構あるようだけど。

 この負の魔力にあてられた動物が魔物に変化するらしい。この説を実際に確認した人はいない。見ていないからね。長い間の調査、研究の成果らしいのだけど。これって統計だよね。それも予測を含めた曖昧なものだ。

 結局はっきりした説はない。魔物が発生する時には森がある程度の認識のようだ。

 そういえば・・魔物を使役する手段があるとかをエイブラム爺から聞いた気がする。それが使えたら今回の問題は楽に解消できるのかもしれないな。もう少し勉強する時間が持てたら良かったと、ちらりと後悔する。学ぶ事に無駄は全く無い。そのような機会はもう得られないのだろうか。



 今回目撃された魔物はどのような魔物だろうか?この森の動物の何かだとは思うのだけど。どのような動物がいるかは分かっていない。全くの行き当たりばったり。

 とりあえず探すのみ。見つかるまでは屋敷に戻れないもんな。後が怖い。

 

 早く探知魔法の反応が欲しい。制限時間もある。ゆっくり待ってもいられない。カーライル地方にいた時から探知魔法のテストはしている。地域が変わっても魔法の効果は変わらないようだ。

 探知魔法に反応があれば、その情報がボクにすぐ届く。大雑把に人か動物か魔物かの識別はつくんだ。便利なんだけどね・・その間は探知魔法を維持しないといけない。これが結構しんどい。

 できれば探知魔法設置後はゆっくり待つだけにしたい。そうしたいのだけど・・・。二人が監視しているからなぁ。

 そもそも・・・魔法を使っているボクを呆れた目で見ていたからね。

 確かに、見えない人には杖を振っているだけにしか見えない。そんな不思議な動作が終ったら・・のんびり待っているだけ。

 ・・・どう思われるかくら容易に想像がつく。

 真面目に調査しろと言いたくもなるよね。ボクだってそう思う。ちらりと見ると二人の監視の目がきつい・・・。やっぱり何か言いたそうだ。

 絡まれないよう周辺を動くか。もしかしたら目視で見つける事ができるかもしれないし。でも魔法の集中を継続しないといけないから、どうしても動きはぎこちなくなる。

 困った問題だ。





「お前!真剣に調査しているのか!」



 やっぱりジャネットさんが噛みついてきた。セシリア様は距離を取ってボク達を見ているのか?・・・森を見ているのか?監視役とは言っていたけど少しは手伝ってくれているのだろうか?

 さて、目の前の監視役をどうしようか・・・。気になる事を聞いてみるか。

 

「ボクなりに調べてます。ちなみにこちらの領内では魔物はどうやって探すのですか?ボクの方法は効率が悪いと思われているのですよね?良ければ教えてもらえませんか?」

「はぁ?そんな事も知らないのか!」


 でた。いつもの小馬鹿にした表情。特にジャネットさんはマウントを取りたがる。反発してもいい事は全く無い。

 

「残念な事に教えて頂いていないので知らないです。それについてはジェフさんに聞いたのです。でも教えてもらえませんでした」

「はっ、そんなもんだろうな。そんな調子じゃ何日かかっても見つからないぞ」


 ・・普通は簡単に見つからないと思うのだけど。簡単に見つける方法があるのか。興味深い。

 

「ええ。その方法を特別に教えてもらえませんか?ボクは見つけるまでは何日も滞在する覚悟です。ですがセシリア様には宜しくないですよね?」

「ぐ・・。確かに姫様は見つかるまでは帰らぬと申されていた。・・仕方ない。教えてやろう」

「おお、ありがたいです。どのような方法ですか?」


「人海戦術だ。村人を総動員して森に入り込んで探す。特に目撃者は必ず同行させる。これに限る」

「は・・はい」


 呆けそうになるのを懸命に堪える。呆れた顔が表情に出ていないだろうか。大丈夫かな?

 ・・それにしても・・・。特殊な方法かと思いきや。・・普通の事じゃんか。向こうでも騎士隊動員して討伐していたのは同じ理由だ。だから村人使うのは危険だと思うよ。せめて騎士にしないと。

 この領内でも魔物討伐は同じなんだな。と、いう事が分かったから良しとしよう。


「調査方法は分かりました。その方法は現状使えないですよね?仮にお二人が手伝ってくれるとしても、三人じゃこの森は広すぎますよ」

「当たり前だ!だから調査する気があるのかと聞いているんだ!」


 お願いだから・・剣を抜かないで。その行動何の意味があるんです?なんとかしてなだめようと反論を考えていたら。探知魔法に反応がある。


 ・・・探知結果は魔物だ。結構なサイズの魔物だ。・・場所は・・ここから百メートル後方。

 え?後方。


 ボクは慌てて振り返る。百メートル先って・・。


 やっぱりだ!

 森に背中を向けているセシリア様がいる。さっきまでは森の方向を見ていたはずだったのに。

 魔物は森の中から出てきている。


 マズイ!セシリア様が危ない!

 探知魔法の維持を解除する。

 間に合うか!

 ジャネットさんを放置して走り出す。


「おい!急に何を・・」


 ジャネットさんが怒鳴り始めるが放置だ。息を飲んだ様子だから気づいたのかもしれない。離れてもきちんと確認できるサイズの魔物だ。

 熊・・か。ベア種とは・・。後頭部から背中が真っ黒に染まっている。ブラックバックベアだ。こいつは超狂暴な種類の魔物。ボクは対峙した事が無い。

 セシリア様はまだ気づいていない。魔物との距離は五十メートルくらいか。

 

「姫様~!危ないです!森から魔物が来ています!」


 今まで聞いたことのない声量の声が背後から聞こえる。ジャネットさんの声だ。

 しばらくしてセシリア様がこちらに気づく。聞こえたらしい。ボクを怒鳴っているだけある。気づいてくれたのでボクは手振りで森を指さす。

 やや遅れてセシリア様がそちらを見る。魔物に気づいてくれたようだ。その表情はまだはっきりと見えない。硬直しているように見える。

 ボクはまだ差を詰め切れていない。

 クッ!思いリュックを外して全力で走る。場合によっては戦わないといけない。武器を手放す訳にはいかない。

 ジャネットさんの怒鳴り声を聞きながら走り続ける。

 セシリア様の武器は弓矢と短剣だけのはずだ。剣を持っていない理由はなんとなく分かる。


 間に合え!

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