魔法は廃れている


「このようにして回路・・いつも通り魔法陣と呼称しましょうかのう。これをこちらの触媒に転写ですぞ。・・そう、そうですじゃ。それで魔力を流しますと固着するはずじゃが・・。・・うむ、上手くいきましたのう」

「これで出来たの?」


 なんとなく感覚はつかめたぞ。これで上手くできていれば成功なんだけど。ドキドキだ。

 ボクは魔法陣を転写した魔石をエイブラム爺に手渡す。固着できているかな?エイブラム爺は何度も受けているけど、まだ成功した事がないんだよね。緊張する。

 そう、もう何度も失敗しているんだ。今日も何回やって失敗したことか。正直、魔力が厳しい。失敗した魔石だって高価だし。

 チェックしっているエイブラム爺の目は白く長い眉毛に隠れて見えない。満足しているのか不満があるのか分かりづらい。口元も真っ白な髭に覆われているからほんと感情が分からない。

 殆どミイラみたいなほっそい指でボクが刻んだ魔石をチェックしている。


 待つ事しばし。


「うむ、問題なさそうですぞ。それでは発現させてみてください」


 魔石を受け取り、軽く握る。

 魔力を僅かに込めて刻んだ魔法陣を発動する。

 魔力がいきわたり条件が整った事を確認した後にキーワードを唱える。

 

「魔光(ライト)」


 唱えた後に掌を開く。

 

「わぁ・・・。・・・光った」


 思わず口元がにんまりとしてしまう。

 だって、やっと成功したんだよ。光の初期魔法だけど。それでも嬉しい。


「ほっほっ。よくできましたのう。爺めの目が黒い内に習得なされるとは思っておりませんでしたぞ。魔法を覚えたいと若が言われてかっら3年ですかのう。恐れ入りました」


「坊ちゃま!ついに魔法が使えるようになったのですね!おめでとうございます!」


 ついにエイブラム爺の合格が出た。

 クレアも感動しているようでグリーンアイが潤んでいる。満面の笑顔が眩しい。

 ボクも同じような顔しているだろうな。だって、やっとできたんだよ。


 3年間ずっとやっていたわけじゃなかったけど。・・長かった。まさか魔法が使えるようになるとは思ってなかった。

 エイブラム爺によるとこの世界では魔法を使える人はかなり少ないみたい。エイブラム爺のように秘匿している人もいるけど本当に少ないらしい。

 長い間教わっているから分かるけど、習得する以前に必要な道具を揃える所から難しい。

 口伝で魔法を師匠から弟子に伝えている。結果色々な系統に枝分かれしているみたい。

 エイブラム爺の弟子はボクだけだし。エイブラム爺が魔法を使えるのはボクとクレアしか知らない。そういうものなんだって。

 魔法を使えるようになったといえ、まだ初歩の初歩ができるようになっただけだ。気を引き締めないと。


「うん、ありがとう。ボクも本当に嬉しい。やっとエイブラム爺の弟子と認められたようなものだし。でもまだ魔法の入口をくぐった程度だし。勉強はずっと続けないとね」

「・・・坊ちゃま。向上心が素晴らしいですわ。クレアは一緒に学ぶ事はできませんが触媒ならお役に立てますよ」

 

 そう、魔法を使うためには色々準備が大変なんだ。魔石を見つけるのが大変なんだよね。

 準備ができても、RPGのような派手な魔法は使えない。

 これはエイブラム爺から教えを受けて思う印象だ。それにいろいろ制約が多い。

 ボクは魔法の素質があるかも?とエイブラム爺に言われて頑張ったんだけど。3年頑張っても、ちっさい光をともすまでだもの。


 準備が大変。素質が必要。豊富な魔力が必要。時間がかかる。制約が多い。

 これじゃ誰も魔法を使おうと思わないよね。



「終了(デイスコネクト)」


 掌で光る魔石の魔力供給を止める。

 光が消え魔石に戻る。正確にはもう魔石じゃないんだけど。

 うん、この程度であればボク自身の魔力はまだ余裕だ。


「ふむふむ。魔力供給の切断も滑らかですのう。魔力もまだ余裕がありそうですのう。その若さでここまでできるのは、とても素晴らしい事ですぞ」

「そうですよ。クレアもそれ程世の中を知っていませんけど魔力を魔法に使う方を聞いた事はありません。エイブラム様が初めてですよ」

「あ~、フォレット家じゃそうだよね。普通魔力は武器や道具に流して使うものだものね」

「そうですのう。魔法を使うより余程効率のよい魔力の運用の仕方ですのう。それが普通の考え方ですじゃ」


 そう、普通は剣とかに魔力を流して強化するために使う。剣の原料となる金属も魔力を流しやすい金属があるけど、それがめちゃくちゃ高い。

 普通の鉄だと2割も魔力は流れないみたい。10の魔力があっても2の魔力しか纏えないみたいな感じ。なかなか大変だ。

 だけど魔法を使うよりは全然簡単。だから魔法は流行しないんだろうと思う。

 でもボクは違うんだ。


「皆それぞれ考えがあるからいいと思うよ。ボクは魔法を追求したいな。師匠もいるし。やっと使えるようになったし。見返すとまでは考えていないけど絶やしちゃいけない気がするんだ」


「若・・・。爺めは嬉しゅうございますぞ。儂の成果を引き継いでもらえる後進が現れるとは夢にも思っておらなんです」

「うん、貴重な成果を引き継げる弟子になるよう頑張るね。だから僕のもとに居てよ」

「ほっほっ。・・・そうですのう。既に天寿は過ぎている老骨ですが、まだまだ死ねませんのう。老後の楽しみが増えて困ってしまいますな」

「そうだよ。まだまだ元気でいてよ」


 本当に魔法は面白い。役に立たないと言われがちだけど。工夫次第では役に立つと思うんだ。

 僕にはその知識がある。転生して持ち込めた知識なんだから役にたてたい。

 この世界での生活をよりよくするために僕の知識を使うんだ。いいじゃないか。


 転生したのは望んだ事じゃない。

 前世の記憶が戻らなかったほうが良かったとも思う。

 でも折角健康な体で行動できるんだ。

 この世界を楽しもう。

 

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