最終話 どうして来たの……?
ディアナは暗い牢屋の中で、脱出の案を考えるがいい案が一つも思いつかなかった。
それどころが、寒く冷たい牢屋で刻々と自分自身の体力と精神力を消費していっていた。
(まずいわ……このままでは……)
ディアナはこのまま牢屋から出られず、国が滅びる最悪のケースを思い浮かべてしまう。
(ダメよ、あきらめちゃ……でも、どうすれば……)
しかし、残酷なことにディアナの体調は悪化し、意識が遠ざかっていた。
(寒気がする……それに意識がとぎれとぎれに……)
その時、牢屋の入り口を誰かが蹴り飛ばした。
大きな音が響き渡るが、ディアナにはそれに意識を向ける余裕すらもなくなっていた。
そこには、なんと国にいるはずのアルバートがいた。
(なんで……どうして来たの……?)
意識が混濁する中で、ディアナはアルバートに抱えられる。
「ディアナ! もう大丈夫だ、国に帰るぞ。だから、もう少しだけ我慢しててくれ!」
(ええ……まだ私は大丈夫よ)
そう心の中でディアナは思うが、寒さで震えた唇はうまく言葉を紡ぐことができない。
アルバートはディアナが誘拐されたと知ったその足で、自身とクライヴの二人だけで隣国に乗り込みディアナを救出した。
しかし、この誘拐にはある”陰謀”が隠されていた。
それをアルバートが知ったのは、隣国から三人で逃げ延び無事帰還した次の日であった。
──謁見の間。
「偽装誘拐?!!」
「そうだ」
「なぜそのようなことを・・・」
「まあ、お前を試したのだが、やはりわしの目に狂いはなかった」
アルバートが首をかしげて、ニヤニヤと笑う王を見上げる。
すると、王は椅子からおもむろに立ち上がり、アルバートに向かって宣言する。
「ディアナをお前の妃とする!!」
「……え?」
王は満足そうな顔でアルバートを見つめているが、アルバート本人はきょとんとした顔で王を見つめる。
やがて、正気に戻ったアルバートは王に返答する。
「私はまだ、結婚するつもりは……」
「お前の妃探しは前々からしておった。だが、ディアナが来たことによりお前は変わった。二人で喧嘩をしながらも生き生きと毎日を過ごしておる。そんな様子を見てわしはお前の妃にはディアナがふさわしいと思った。どうだ? 自分でも思い当たる節があるんじゃないのか?」
そういわれて思い返すアルバート。
思えば、彼女が一生懸命に聖女をやり遂げる姿を見て、心を打たれていた。
(ディアナが妃に……)
そう思った瞬間、アルバートは自分で驚くほどに胸が熱くなり、顔が赤くなった。
だが、そうディアナが果たしてその気持ちを受け入れてくれるだろうか。
「かしこまりました。私はディアナが妃になることに異論はございません。しかし、ディアナにもこればかりは聞いてみないとなりません」
「そうだな、聞いて来るがよい」
「はい!」
そう言って、謁見の間より退室したアルバートはまっすぐにディアナのもとに向かった。
ディアナは自室にいたようで、ノックをしたアルバートを招き入れた。
「どうぞ」
ゆっくりと入るアルバートに、ディアナは問いかける。
「どうしましたか?」
アルバートは少し自分の中で気持ちを整理した後、ようやく決心がついたというように一息吸い、ディアナに話しかける。
「ディアナ……実は……」
──数年後。
「もう! 私礼拝堂に行かなきゃならないのに、何やってるのよ!」
「待ってくれ! ミルクを全然飲んでくれないんだよ!」
「ねえ~ママ~僕もおやつ食べたい~」
「さっき食べたでしょ?!」
「俺もクライヴから呼び出しを食らっているんだが……」
「大丈夫よ! クライヴならなんとか待っててくれるわ」
アルバートとディアナ、そして二人の子供のいつもの日常。
アルバートは王として、ディアナは聖女としてこの国を守っている。
「ディアナ」
「なに?」
「愛しているよ」
「──っ! いきなり何言い出すのよ!」
オシドリ夫婦として、そして国を守る協業相手として、二人は幸せに暮らした。
【後日加筆修正予定】聖女のワルツ~副業で聖女を務めた王子と元伯爵令嬢の庶民派少女で協業します!~ 八重 @yae_sakurairo
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